第81話 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
どうも、ヌマサンです!
今回は帝国とロベルティ王国の戦争が本格的に始まります!
はたして、どのような戦いが繰り広げられるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第81話「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」をお楽しみください!
――ロベルティ王国による帝国への侵攻が始まった。
先鋒を務めるトラヴィス率いる1万9千は疾風の如くダルトワ領へと突入。わずか数日のうちに砦を5つも攻め落とし、南進を続けていた。そんな彼らの前に現れたのはフェルネ砦。
これまでの砦とは構造から異なっており、明らかに守りが堅い。そんな砦を前に、トラヴィスたちの勢いは完全に殺されてしまっていた。
「兄者、さすがに全軍で総攻撃をかければ攻め落とすのはたやすかろう」
「……確かにな。だが、数多の兵を犬死させてしまう。それでは、一軍の長としては失格だ」
「だよなぁ……」
日が昇り、夜で冷えた兵たちの体を朝日が暖め始めた頃。トラヴィスとローランの兄弟は目の前の堅城を落とすのに悩んでいた。現状、1万9千の全軍をもってフェルネ砦を包囲している。
フェルネ砦に籠城しているのは、ユルゲン・リーシェ率いる精鋭5百。38倍という数で猛攻すれば簡単に攻め落とせるが、無駄に犠牲が多くなる。そのことを危惧して、トラヴィスは総攻撃の命を下さずにいた。
「そういや、アランのやつからも総攻撃しないのか、突っつかれたんだっけか?」
「そうだ。さっきお前が来る直前までここにいた」
アラン・プリスコットはプリスコット領から6千という数を率いて参陣しており、先鋒軍の実に3分の1を担っている大将だ。
そんなアランは何かと手柄を立てたがっており、慎重に行動したがるトラヴィスとはそりが合わず、軍議の度に衝突しているのだった。
「申し上げます!西より敵勢が攻めかかって参りました!その数、およそ4千5百!」
「西となると……アランが陣取っているな。アランに迎え撃つよう伝えよ。こちらから、ノーマンも援軍として向かわせるともな」
「承知!」
駆けこんできた伝令兵にアランへの命令を伝え、トラヴィスはノーマンの陣営へも使いを立てた。そんな折、次なる一報が飛び込んでくる。
「申し上げます!アラン将軍率いる部隊が敵勢を打ち破り、西へと追撃を開始!」
「何?もう勝ったのか?」
「兄者、いくらなんでも敵が脆すぎるのでは……?」
「ああ、十中八九これは罠だ。俺たちをフェルネ砦から引きはがそうという腹づもりだろうよ」
戦場を往来すること28年。歴戦の強者であるトラヴィスはあっさりとローレンスの仕掛けた策を看破してみせた。そこからのトラヴィスの決断は早かった。
「ローラン、お前は4千の兵で城の包囲を続けろ。俺は9千の兵を率いて、アランの後を追う」
「おう、分かったぜ。だったら、ノーマンのやつも連れて行ってくれ。アイツも、少しは役に立つだろうからな」
「そうさせてもらおう」
トラヴィスは甥のノーマンを副将に加え、自ら9千の兵を率いてアラン隊の後を追った。この時すでに、アラン隊は深く西進し、トラヴィスたちからはどこまで行ったのか見えないほど。
その頃、アラン隊はといえば、フェルネ砦の西側に広がる森を抜けた開けた平野部に到達していた。
「アラン様!敵勢が川を渡り、南へ退いていきます!」
「おお、本当だ。我らに背を向けるだけでなく、渡河まで……!俺たちを侮っているにもほどがあるぞ!」
川を渡って前進するのも至難の業だが、今回に限っては背を向けて逃げていくのである。どうぞ後ろから襲ってくださいと言わんばかりの敵にアランが怒りを覚えるのは無理もなかった。
そして、アランが次に発した言葉は「矢を射かけよ」であった。次の瞬間には、プリスコット領の弓隊から弓が雨あられと射かけられるが、ローレンス率いる4千5百は千近くが討ち取られながらも、川を渡り逃げ切ることに成功。
ローレンス率いる帝国軍が川を渡り終え、川向こうのハウズディナの丘を登り始めた。それを見たアラン隊も逃がしてはならぬと全軍で川を渡っていった。
アラン隊が渡河を終えてハウズディナの丘を駆けあがり、頂上に到達した頃。川の北側に広がる森林から帝国軍7千が出現し、川の北側に布陣。アランたちの退路を断ったのだ。
さらに、川の南岸にもどこから現れたのか、1万3千という数が陣を構えていた。それだけでなく、頂上から見渡せば北だけでなく、東西南の三方にも大軍が待ち構えているではないか。
「アラン様、東西南の敵兵はそれぞれ1万3千が陣取っております!」
「マズい、謀られたか……!」
ハウズディナの丘の頂上へまんまと誘い出されたことを、アランは歯ぎしりしたが、四方を5万を超える数に包囲されている現状を打破する策はなかった。
頂上にいるアラン隊の数は6千。この数では、どこへ進もうとも包囲を突破することはできそうにない。かといって、フェルネ砦を囲むロベルティ王国軍が全軍を挙げて救援に来ても、たちまち全滅させられてしまう。
功を焦り、逃げる敵を深追いしたことが失敗だった。アランは己の不覚を恥じたが、このまま大人しくしていても、いずれ殺されてしまうことは明白。
「申し上げます!川の北側にトラヴィス将軍の旗が!」
北側の見張りからの情報に、アランも自ら北側へ確認しに向かう。すると、どうだろうか。名将トラヴィス率いる9千が川の北側でミルカ・オルトラーニ率いる帝国軍7千と交戦中なのであった。
「よし、俺たちも北側へ加勢に向かうぞ!トラヴィス将軍と協力して、一気に包囲を突破する!」
アランがそう言って北に陣取る帝国軍へ突撃を敢行しようとした時。伝令兵がアランの元へ駆けこんできた。
「何事だ!?」
「ハッ、東西南の3方向より敵の騎馬隊が!その数、各方面から5千ずつ、合わせて1万5千!」
1万5千という数を聞いた刹那、アランは衝撃に心臓を貫かれる思いがした。アラン隊の2.5倍もの数が丘を駆けあがってくる。まずは、これを撃退しないことには北へ進むことができない。
無視して北へ進んだとしても、正面の1万3千を突き崩す間に1万5千に背後を突かれるのだ。こうなれば、アランに取れる選択肢は1つしかなかった。
「全軍、密集陣形だ!円陣を組み、敵を迎え撃つぞ!」
「ハッ!全軍、密集陣形だ!陣形組め~っ!」
アラン隊は瞬く間に円陣を組み上げ、三方より襲来する騎馬隊を迎え撃った。
「弓隊!放て!」
丘を登り、敵の騎馬隊が頂上へと姿を見せると、円陣を組んだアラン隊から次々に矢が放たれる。円陣の中央に控える弓隊は二組に分けられ、代わる代わる矢を放って騎兵やその馬を射抜いていく。
だが、アラン隊の弓隊だけでは数が不足しており、敵の数に押し切られてしまう。続いて、槍を並べた密集陣形で敵の騎馬隊を食い止める。
しかし、敵である帝国軍の騎馬隊も精鋭である。プリスコット領の兵を次々に討ち取っていく。
それでも、アランも先頭に立って帝国軍と戦い、帝国兵を斬り伏せていくのを見たアラン隊の兵士たちも獅子奮迅の活躍を見せ、やっとのことで騎馬隊を押し返すことに成功。
この戦いでアラン隊は1千2百もの死者を出したが、帝国兵を1千5百も討ち取ることに成功していた。
しかし、休む暇も無く、今度は帝国軍の槍隊が三方より3千ずつ押し寄せる。騎馬隊ほどの機動力はないものの、槍隊で受け止めるのは難しく、丘の頂上で入り乱れての乱戦模様となった。
ここでも猛将であるアランの奮闘もあり、帝国軍はまたしても1千5百ほどの死者を出して後退していく。
「アラン様、なんとか凌ぎ切りましたね……!」
「ああ。だが、今の戦いでまた動ける兵士が減ってしまった……。このままでは……ッ!」
――全滅。
陽が傾き始める中、この二文字がアランの脳裏に浮かび上がるのであった。
第81話「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」はいかがでしたでしょうか?
今回はアランが先走ったことで大変な事態に……!
大軍に包囲されたアランはトラヴィスと合流できるのか。
そして、トラヴィスはアランを救うことができるのか。
――次回「臍を固める」
更新は3日後、3/20(月)の9時になりますので、お楽しみに!




