第83話 星を数うるが如し
どうも、ヌマサンです!
今回もハウズディナの丘での激戦が続きます!
はたして、どのような結末を迎えるのか、楽しみにしていてもらえればと思います……!
それでは、第83話「星を数うるが如し」をお楽しみください!
翡翠色の風に包まれる大斧と紅蓮の炎を纏う長槍が何度も激しく激突する。凄まじい熱風が辺りにまき散らされる中、トラヴィスとミルカの両雄は一歩も譲ることなく死闘を繰り広げていた。
しかし、体力気力ともに若いミルカの方が少々上であった。戦いが長引くにつれて、トラヴィスは劣勢となっていく。
「トラヴィス将軍、今投降するならば命までは取りません」
「……嬢ちゃん、もう俺に勝ったつもりか?」
ミルカからの最後通告にトラヴィスはニヤリと笑みをもって返す。それに、トラヴィスは戦況が見えていた。
なんと、ノーマン率いる3千の軍勢が川の南岸からアラン救出のため、斬り込んでいったからだ。
「なっ、フェルネ砦に向かった部隊がなぜ……!?」
ローレンス率いる部隊を追ったはずのノーマン隊が戻って来た。あまりにも早すぎる。そして、フェルネ砦のある東の方より黒い煙が上がっている。
「まさか、フェルネ砦が落とされた……?」
ミルカは途端に不安に駆られた。フェルネ砦が落ちたのなら、ユルゲンを含めた5百の守備兵はどうなったのか。援軍に向かったローレンス隊は?
不安に駆られれば、次々と不安というものは襲ってくるのである。そうして、ミルカが迷っている一瞬の隙を突いて、トラヴィスは全軍にミルカ隊を押し返し、南岸へ向かうよう号令を飛ばした。
トラヴィスの巧みな采配により、ロベルティ王国兵たちはたちまちミルカ率いる帝国軍を西へ西へと押し返してしまう。その間にも、ノーマン率いる3千がカルロッタたちによる分厚い鉄の壁を東側からこじ開けた。
「叔父上が北岸で敵を押し返している今のうちに、アラン将軍らを救出するでござるよ!」
灰色の軍服に水色の羽織を纏う青年――ノーマン・ハワードが下知する。ポニーテールにしてまとめた緑色の髪を揺らしながら、両刃の大剣を振るって敵兵を次々に斬り捨てていく。その雄姿は父ローラン、叔父トラヴィスに引けをとらない奮戦ぶりであった。
ノーマンたちがカルロッタと共に丘を下って来た大軍の東側をこじ開けた頃、アランの眼前には帝国軍の総大将であるカルロッタ本人の姿があった。
「……腰まで届くほどの紫色の髪。騎乗しながらでも分かる長身女性。なにより、その手にある魔槍アヴェルス。カルロッタ・ダルトワか」
「良く知っているわね。そういうあなたはアラン・プリスコットね。この部隊の将軍の」
アランは手にした緋色の直長剣を手に、カルロッタとにらみ合った。逃れられぬところと悟ったのだ。
「カルロッタ将軍、俺と勝負してくれ」
「一騎打ち……ということ?あなたが猛将だということは知っているけど、オススメはできないわ。死ぬのは私じゃなく、あなたの方だもの」
「へっ、そいつは俺の腕前を見たから言ってくれ」
「まぁいいわ、受けましょう」
カルロッタの承諾と同時に、アランは地魔紋の力を発動。緋色の直長剣に黄土色の土やら砂礫を纏わせ、勢いよく斬りかかった。
しかし、カルロッタの初撃はアランではなく、彼の乗る馬であった。カルロッタの持つ魔槍アヴェルスは馬の首筋を貫いたのだ。
これにより、馬が断末魔のいななきを挙げ、後ろへと転倒する。この時、アランは馬から振り落とされてしまう。黄土色の大鎧を土で汚しながらも、地面を転がりながら体勢を立て直した。
アランが体勢を立て直し、カルロッタへと視線を移した刹那、馬上から槍が突き出される。アランは上体をのけぞらせて回避するも、カルロッタも馬から飛び降り、互いに地に足つけた状態での戦いへと移った。
アランへ次々に繰り出される槍での突きは、目にも止まらぬ速度と圧倒的な正確性をもって行われた。その槍技たるや、ミルカの比ではない。
だが、トラヴィスほどの場数を踏んでいないアランでも、ギリギリのところで見切って応戦。火事場の何とやらといったところか。
元より、アランは持ち前の馬鹿力を活かした剣術を得意とする剣士である。一撃一撃の威力は人の頭を真っ二つに叩き割るほどの威力を秘めている。
その膂力を活かして、カルロッタに一矢に報いてやろうと間合いを詰めていく。カルロッタの鋭い突きの嵐をかいくぐり肉薄。立ちどころに大上段から斬撃を叩き込む。
「ぐっ……!」
「オラァ!」
力任せといって差し支えないアランの豪剣を正面から受け止めたカルロッタの声からは苦しさがもれ出す。その勢いに乗って、次々に斬撃を浴びせるアラン。されど、威力は高いが単調な攻撃をカルロッタが見切るのにそう時間はかからなかった。
攻撃を見切られたアランは苦しかった。確かに当たれば必殺と呼ぶに相応しい威力を持つアランの剣だが、見切って対処されればどうとでもなる。
アランの一撃を回避し、カルロッタから神速の突きが幾つも見舞われることとなり、アランはたちまち黄土色の大鎧に自らの血を滴らせる。
相次ぐ槍技による負傷により、アランはますますと不利となり、自慢の力も満足に震えぬ状態へと追い込まれる。しかし、アランとて猛将として名高い男。
10年近く戦場を往来する中で培った剣捌きで、カルロッタの槍の軌道を逸らし、受け流す。そのような対応で後手後手に回るも、致命傷を防ぐことだけはできていた。
アランの狙いはただ一つ。カルロッタを自分の相手として引きつけている間に、ノーマンやトラヴィスの援軍が間に合えば、この死地を脱することができる。そう踏んでの、一騎打ち。
アランとしても槍の名手として名高い、名将カルロッタ相手に勝てるとははなから考えていない。ただ、カルロッタ相手に粘ることができるのは自分を置いて他にないと考えたのだ。
そんな時間稼ぎも、カルロッタ渾身の突きがアランの思惑を突き破った。
「うぐっ……!」
「アラン・プリスコット。噂以上の猛者でした。見くびっていたことは詫びるわ」
アランの胸部を貫通し、槍の穂先が背中から生える格好となっていた。カルロッタが静かに目を閉じ、一気に槍を引き抜くと、アランの胸部から血が滝のようにあふれ出る。
「無念だ……!ラッセル義兄上、マリナ、シンシア……先に逝く――」
地面に倒れ、血だまりに沈んでいくアラン。彼は義理の兄、妻、娘の名を口にした直後に絶命。享年28。
「カルロッタ様!東よりの敵、凄まじい勢いで突撃してまいります!」
「分かりました!敵将アランは討ち取ったし、戦果も十分に挙げました。全軍に通達、ハウズディナの丘を西より迂回して、南へ撤退します!」
凛とした声には闘志に満ちていた。撤退とはいえ、戦略的なものである。その前提で、迅速に撤退が行なわれた。対岸のミルカ隊へも狼煙で合図を送り、西へと下がらせた。
カルロッタ本隊とミルカ隊の撤退により、ノーマン隊はアランたちプリスコット領の兵士たちの生き残りを救出。トラヴィス隊もミルカたち帝国軍をうかつに追撃することなく、最小限の被害で撤退することを旨とし、自ら殿を務めた。
こうしてカルロッタ率いる本隊の撤退により、ハウズディナの丘周辺の戦いは帝国軍の勝ち逃げとなった。
しかし、ローラン率いる4千はユルゲンの守るフェルネ砦を陥落させ、救援に来たローレンス隊も撃退していた。このローレンス隊の撃退には、背後からノーマンの援軍が迫ってきていることを知ったローレンスが急いで撤退した形なのである。
そのこともあって、ノーマンは素早く戻ってくることができたのだ。ともあれ、初戦は一勝一敗という両軍痛み分けとなった集結したのであった。
第83話「星を数うるが如し」はいかがでしたでしょうか?
今回はアランがカルロッタによって討ち取られるという事態に。
ただ、ローランが砦を陥落させたことで、一勝一敗。
ここからの両軍の動向にも注目していてもらえれば……!
――次回「過ぎたるは猶及ばざるが如し」
更新は3日後、3/26(日)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




