次男から見た王太子(イルフェア視点)
「カルディアス兄上?」
「キルクス様は、カルディアス殿下を王位にと、昔から考えていらっしゃるのですよね?」
私は、キルクス様とともに客室にいた。
カルディアス殿下との話が終わった後、私達はそれぞれの婚約者と会うことになった。ちなみにアルーグお兄様だけは、現在もカルディアス様と話している。
「そうだな。以前、お前にも話したことがあるだろう。兄上は王位に相応しい方だ」
「人望が厚いということは、私もよく知っています。ただカルディアス殿下は悩んでいるようですから。それはまるで、かつての私のように……」
「それは……」
カルディアス殿下が語っていたことが、私は気になっていた。
彼は地位故に、人と距離感を覚えているらしい。それは私とよく似ている。そのことで悩んで、キルクス殿下にも相談した。
地位や立場による壁、それは苦しいものだ。特に家族との間にそれがあると猶更だろう。
「もちろん、カルディアス殿下は私のように深刻に悩んでいる訳ではないとは思いますけれど、それでも気になってしまうのです。キルクス様はお兄様に対して、堅苦しい態度で接し過ぎているのではありませんか?」
「そのようなつもりはないのだがな……」
「キルクス様はカルディアス殿下のことを尊敬していらしゃいますよね? だから敬意を持って接しているはずです。それがカルディアス殿下からすれば、距離感のように思えるのかもしれません」
カルディアス殿下の心情、私はそれを考えていた。
かつて私も、ルネリアからの敬意をそのように感じていたことはある。実際には親愛の感情が確かにあったというのに。
「兄上にそう思わせてしまっているというならば、それは俺の力不足だな……」
「力不足……それは少し、固く捉えすぎなような気がしてしまいます」
「……そうだろうか?」
「ええ、これは家族間の愛に関することなのですから、もう少し柔らかく考えても良いはずです」
「……なるほど」
私の言葉に対して、キルクス様は微妙な反応を返してきた。
彼は元々、どちらかというと固い人である。柔らかく考えるというのが、難しいのだろうか。それなら私から言えることがあるかもしれない。
「とりあえず、カルディアス殿下にもう少し気軽な感じで接することはできませんか?」
「気軽な感じか……」
「私に対するように、接することはできませんか?」
「お前に接するように? それは……無理だ」
「あら?」
キルクス様は、そこで目をそらしてきた。その妙な反応に、私は少し困惑してしまう。
彼は心なしか、顔を赤くしているように見える。それはもしかして、私に接するということがそういうことだからなのだろうか。
そう思うと、こちらまでなんだか少し恥ずかしくなってきた。しかし私は、すぐに思い返す。今言いたいのは、そういうことではないということを。
「キルクス様、違います。えっと、私のようにというのは砕けた口調だとか態度だとか、そういうことを言ったまでで……」
「む……いや、そうだな。言われてみれば、そうに決まっている。俺としたことが、何を勘違いしているのか……」
結果的に早口になってしまった私の弁明の内容を、キルクス様はすぐに理解してくれた。
だが部屋の空気は、少々変なものになってしまった。それは悪いものではないが、単純に気まずい。なんとか空気を変えなければ。
「……そういえば、カルディアス殿下はキルクス様の態度が弟妹にも影響している、というようなことを言っていました」
「俺の態度が弟達に? そういうこともあるものか……」
「まあ、どれだけ影響があったのかは定かではありません。カルディアス殿下がそう思っているというだけで……」
「なるほど、確かに弟達は兄上より俺と接する時間の方が多いからな。俺の態度に影響される可能性はあるか……」
私が話題を転換したことによって、空気は少し変わった。
そのことに安心しながらも、私は少し考える。よく接する兄弟に影響を受ける。それはあり得ない話ではないだろう。
私なども、気をつけなければならないかもしれない。
立場としては、私だってキルクス様と同じである。アルーグお兄様は次期当主として忙しい訳だし、自然と普段は私が下の兄弟達の見本となるものだ。
自分なりにきちんとしているつもりだが、大丈夫だろうか。今度アルーグお兄様辺りに、聞いておいた方が良い気がする。
「……兄弟関係というものは、案外難しいものだな。兄上も含めて、俺なりに上手くやれているつもりだったが」
「いえ、だからそんな風に重く捉える必要はないと……まあ、気持ちはわかりますが」
「む……そうだな、それは俺の悪い癖なのかもしれん」
キルクス様は、兄弟の関係について考え過ぎているようだった。
これは私の言い方などが、良くなかったのかもしれない。彼に問題が深刻であるような印象を与えてしまっただろうか。
私自身も考え過ぎることがあるため、これは気を付けていくべきことかもしれない。キルクス様の苦笑いを見ながら、私はそのように思うのだった。




