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あっという間に騎士団がやってくる日になった。備蓄の半分を荷馬車に乗せて、騎士団の到着を待つ。
「あ、来ましたよ」
ジーニャの指す方を見ると、遠くの方で人影が揺らいでいた。
「ん? なんだか随分……」
ラウロが目を細めながら呟く。額に手を当てて目を凝らすと、影がどんどん広がっていくような。
「なんか……多い、ですね」
嫌な予感がする。
やって来た騎士団は数十人の規模だった。
太陽を守る形で配置された盾と剣のマーク。彼らの甲冑には一様に、騎士団の証であるその紋章が刻まれていた。
食糧を運ぶとはいえ荷馬車も準備しているし、数人で足りるはずである。
気圧されていると、先頭を歩いていたリーダーであろう男が、一歩前に出て高らかに言った。
「我々は騎士団である。王の命を受け、食料の回収へ参った。ついては、約束である備蓄の八割をここへ!」
一瞬、脳の処理が遅れた。八割ではないはずだ。
「八割? いえ、使者殿との話し合いでは半分と」
その男は反論するルークを一瞥し、鼻で笑った。
「使者に交渉の権限はない。王からは八割の備蓄回収を命ぜられている」
取り付く島もない、一蹴である。
「そうは言いましても、我々は半分の準備しか……」
「あと三割、準備が出来るまで待たせてもらおう」
有無を言わせない物言いだ。使者とのやり取りは口頭だったのだろう、ルークは拳を握り何も言い返せないでいた。
「どうやら謀られたようですね。僕のミスだ。半分の備蓄があれば総量が分かるから、素直に出すであろうギリギリのラインを提示してきたんだね」
ルークが小声で私に言った。
「ど、どうします?」
「ここは素直に出すしかない、かな。牽制する為にあの人数で来たんでしょう。武力行使も厭わない、と」
言葉に悔しさが滲み出ていた。
騎士団は誇り高き志を持つ集まりのはずだが、なぜここまで横暴なのだろうか。もしかすると、思っている以上に緊迫した状態なのかもしれない。
騎士団の出方を見るに、人に危害が加えられる可能性も無いとは言い切れない雰囲気である。
「これはこれは、わざわざご足労いただいたのにうちの職員が申し訳ございません。準備させますので、役所でお待ちください」
下卑た笑いを浮かべながら上司が頭を下げ、それを見たルークが歯を食いしばって下を向いた。
実質この町のリーダーであると言っても過言ではないルークにとって、上司の行動が許せないのだろう。
町の住人みんなで地道に作った備蓄は簡単に手放せる物ではない。何もしてい上司だからこそ、そんな物言いができるのだ。
怒りに任せて口を開いたが、声を出す前にぐいっと肩を引かれた。怒りを顔に乗せたまま振り返ると、ジーニャが硬い顔で首を振った。
「リコリスさん、堪えてください。物理的に誰かが傷付く可能性があります」
そう言って顎で騎士団の方を指す。
鍛えられた体は戦闘のため、腰に携えた剣も飾りではないだろう。一部、剣に手をかけている者もいる。
ここが日本だったら牽制はあくまでも牽制。命の危機に晒される事はまずないが、この世界は命の重さが違う。
知識として理解していたつもりだったが、実感がないせいか軽率な行動を取ってしまう所だった。
ジーニャに視線を戻すと、その目に恐怖が浮かんでいた。もしかしたら、過去に何かあったのかもしれない。
「すみません、ありがとうございます」
止めてくれていなかったら、私か、或いは誰かが死んでいたかもしれない。
結局、前世の知識があったところで私には全く力がない。誰も守れないのだ。
今この瞬間、ジーニャの表情を見るまで、殺される事なんて微塵も考えていなかった。
大きく息をはいて、空を仰ぐ。冷静に状況を見なければならない。
力はないが、それ以外で貢献できることがあるはずだ。
「さあさあ、お疲れでしょう。こちらへどうぞ」
こちらの事はお構い無しに、上司が騎士団に声をかけて役所へ連れて行った。
「畜生、やり方が汚ねえ」
騎士団が見えなくなったところで、カイトが吐き捨てながら地面を蹴る。
残された役所の面々は、やり場の無い怒りを持て余していた。
「従わざるを得ません。みんな手分けして備蓄を集めよう」
私ですら殴りかかりたい衝動に駆られたのだ。一番悔しいであろうルークの一言に、各々感情の消化が出来ていないながらも静かに頷いて、備蓄回収へと向かったのだった。
「これで八割です」
数刻後。騎士団を呼び戻して荷馬車に乗せた備蓄を見せる。
苦労して育てた食糧の袋を、騎士団は一つ一つ確認して回った。石でも混ぜておくべきだっただろうか。
やましい気持ちが顔に出ていたのか、私を一瞥したラウロが脇腹を肘で突いてきた。そのラウロも不快感を露わにした表情だったで、倍返しする。
お腹を手で押さえながらも苦笑したラウロを見て、力が抜けていった。ラウロなりに気を遣ってくれたようだ。
「感謝する。早速アグーラへ向かうとしよう。同行者は三名だったかな?」
積荷を確認し終え、薄っぺらい感謝を口にしたその男は私たちを見回して言った。
「はい、私たちです」
ルークが一歩前に出たので、合わせて前に出る。満面の笑みを浮かべた上司も近寄って来た。
「早く荷馬車に乗りたまえ。余計な時間を浪費したからな。急ぐぞ」
人の感情を逆撫でする物言いだが、黙って乗り込こむ。
「では行ってきます。留守の間、よろしくお願いします」
みんなが見守る中、荷馬車は静かに動き出したのだった。
○お知らせ
長い間更新できずにすみませんでした。ブクマありがとうございます!
全体を通して変更しているところがあります。
一番大きな変更はアグーラとルメスの距離です。少々近すぎたかな、と若干遠くしています。
活動報告にまとめてますので、そちらをご覧ください。




