第七章 ラミア工程隊
また新しい朝がやってきた。
今回はなぜか、陽はいつもより早く目を覚ました。
資源置き場から水袋を取ってきて一口飲み、元の場所へ戻す。
そして神龕のそばへ歩いていき、祖巫を見上げた。
眠気の残る目をこすって意識をはっきりさせ、両手を合わせて一礼する。
それから、再び石槍の制作へ戻った。
その間にも、少しずつ蛇人たちが目を覚ましていく。
見張りの交代が済むと、夜通し警戒していた者たちは簡易シェルターへ入り、眠りについた。
職人たちが陽のもとへやって来る。
昨夜から陽が弄っているものを見て、新しい道具なのかと尋ねてきた。
簡単な武器だと知ると、職人たちは喜んで制作に加わった。
しかも、自然と役割分担まで始まった。
一部は木材の切削を専門に担当し、別の者たちは組み立てと補強を担当する。
資源置き場を囲んで作業する彼女たちの姿は、すでに小さな流れ作業の原型になっていた。
そうして二時間。
完成した黒曜石の長槍は、二十本あまりだった。
陽としても、その出来にはかなり満足している。
刃先は鋭い。
ただし先端をわずかに鈍くしてあるため、脆すぎることもない。
柄もかなり滑らかだ。
全体のバランスも悪くない。
平均で一・七~一・八メートルほどの長さがある。
狩猟組が一度水汲みから戻ってきたところで、陽は長老を見つけ、皆を集めてもらった。
「あー、その……」
これだけ大勢の視線を一斉に向けられると、陽はやはり慣れない。
少し後ろへ下がり、自分が目立たないようにしてから、一本の長槍を手に取った。
「これだけど、両手なら突き刺せるし、片手なら……投げられる。以上」
両手で槍を握り、身体を前へ傾ける。
腕に力を込め、前方へ突き出す。
木の柄が微妙にしなる音。
続いて陽は振り返り、人のいない空き地へ向けて片手で槍を構えた。
そして力いっぱい投げる。
槍は歪んだ軌道を描きながら横向きに飛び、地面へ勢いよく叩きつけられた。
(……はぁ)
「おおー! これ、いいじゃん!」
なぜか歓声まで上がった。
二十本余りの槍は、あっという間に狩猟組と留守組の見張り役たちへ配られていく。
どうやら陽の酷い実演は、戦士たちの槍への評価に何の影響も与えなかったらしい。
「おっ、いいじゃん。見る目あるね」
陽が親指を立てる。
蛇人たちも、相変わらず意味は分かっていないものの、つられて親指を立てた。
そのまま狩人たちは、その場で槍の扱いを試し始めた。
白木の長槍が風を切って振り回される。
そして何気なく投げられた一本の槍が、二百メートル以上を滑空し、ほぼ四十五度の角度で地面へ突き刺さった。
(これが戦闘の才能ってやつか? さすがに俺に対して酷すぎないか?)
「ふぅ、すごく使いやすいね!」
シキアは槍を掲げている。
まるで生まれたときから使い方を知っていたかのようだった。
ともあれ、これで狩猟組と見張り役たちの仕事はかなり楽になるだろう。
シキアが陽のもとへ歩いてくる。
槍をもらった者も、もらえなかった者も、皆が熱い視線を向けていた。
シキアは陽の手を掴み、そのまま空中で思い切り振り回す。
「いやー! まさか陽がちょっと本気を出しただけで、こんなすごい武器を作れるなんてね!」
「そんなこと言わないでよ。すごく……基礎的なものだから……」
陽は何度も逃げようとした。
だが、シキアの腕力が強すぎる。
今では肩まで痛くなってきた。
「長老? 長老!」
陽は叫んだ。
今日の仕事を決めるという口実で、この場から逃げようとする。
槍を持っていない戦闘要員たちは、すでに職人たちのもとへ向かっていた。
長老は騒ぎを聞きつけると、慌てることもなく資源置き場から出てきた。
どうやら、ちょうど物資の確認を終えたところらしい。
陽の苦笑いを見て状況を察した長老は、手を振って皆を解散させた。
そして陽のそばに静かに立ち、彼が落ち着くのを待ってから尋ねる。
「どうだい? 今日の仕事を決められそうかい? 今の物資も見てきたけど、昨日よりずいぶん増えてるよ。特に肉が多い。もう肉干し台を作らせてるところだ。今ある生肉は、急いで干し肉にしないと明日の昼には食べられなくなるからね」
「それについても話そうと思ってたんだ、長老」
陽は近くの、さっき消したばかりの焚き火跡から、半分だけ燃えた木を一本拾い上げた。
「これを見て。薪が半分燃えてる。こっちは白くて、こっちは黒い。今からこれを二つに分けるよ」
陽は斧で薪の両端を叩き割った。
「じゃあ、このまだ燃えていない木材と、こっちの黒く焦げたもの。どっちのほうが長く燃えて、より熱くなると思う?」
陽は二種類の燃料を両手に持って尋ねる。
「うーん……木材じゃないかね。こっちの黒いほうは一度燃えてしまっているんだろう? なら、あまり長く燃えないんじゃないかい?」
長老は顎に手を当て、ここ数日の経験から考えて答えた。
「うん。でも、真実っていうのは意外と直感に反するんだ。実はこの黒いほうが、長く、しかも熱く燃える」
「これを木炭っていうんだ。薪を燃やすと、中に含まれている空気や水分が抜けていく。でも完全には燃え切らずに残るものがある。それが木炭だよ」
「これからは薪を大量に木炭へ変えていく。これも今後の重要な仕事の一つになる」
陽はそう説明した。
実際のところ、陽自身も正確な仕組みまではよく分かっていない。
ただ、大体の知識を覚えている。
それで十分だった。
長老は興味を示した。
陽が一度実演すれば作れる。
木炭の製造方法は非常に簡単だった。
職人たちと留守組から何人かを呼び、陽と一緒に地面へ大きな穴を掘る。
そこへ薪を積み上げる。
火種を持ってきて火をつけ、炎が大きくなる前に土をかぶせる。
やがて土の山から、細い青煙が何本も立ち上り始めた。
あとは煙が完全に消え、土の中が冷えるのを待てばいい。
陽は注意点も説明した。
一度に薪を詰め込みすぎないこと。
ほんの少しだけ空気穴を残すこと。
土を湿らせすぎないこと。
しかし木炭作りは本当に簡単なので、細かく指示することはなかった。
まずは何個か試してもらう。
作業は非常に順調に進んだ。
数十個もの炭焼き土包がキャンプ内に並んでいく。
どうやら、この二日間でかなりの木炭が手に入りそうだ。
火災を防ぐため、陽は長老に何人かを専任で配置して、火の状態を見張ってもらうよう頼んだ。
【燻焼法による【木炭】の継続生産を開始しました】
「長老、もう少し人手が欲しい。探してほしいものがあるんだ」
陽は発言を求める学生のように手を挙げた。
長老はちょうど土包を一つ完成させたところで、全身を少し煤けさせていた。
顔についた灰を拭いながら尋ねる。
「何人必要なんだい?」
「多くないよ。二人で十分」
「それなら私とシルルで行こうかね。この二日間ずっと至れり尽くせりだったし、そろそろ身体を動かさないとね」
長老は肩を回し、シルルを探しに向かった。
シルルはその頃、資源置き場で氷魔法を使い、大きな氷塊を作っていた。
簡単な魔法なので魔力の消費も少ない。
そのため、シルルはまだ余裕がある。
こうすれば肉が腐るのを遅らせられると聞いたのだ。
「シルル、陽が探し物をしてほしいそうだよ。今の仕事はいったん止めようか。ご苦労さん。魔力の消耗はどうだい?」
長老が資源置き場へ入って様子を見る。
氷塊はだいたい一立方メートルほど。
ゆっくりと溶け始めている。
そのそばに立てば確かに少し寒気を感じる。
ただし資源置き場は密閉されていないため、冷却効果はそれほど大きくない。
「陽に聞いてみようか。ちょうどさっき、食料の保存について話していたところだからね」
長老はシルルの手を引いて資源置き場から出た。
すると、ちょうど陽と職人たちが輪になってしゃがみ込んでいるところが見えた。
陽は身振り手振りを交えながら、楽しそうに職人たちへ何かを説明している。
「陽、準備できたよ」
長老が横から声をかける。
陽は顔を上げ、頷いた。
そして職人たちへ振り返る。
「分からないことがあったらリポに聞いて。ちゃんと分担して作業してくれ。今日はできれば、家と防壁を全部完成させたい」
リポ「防壁って何? どこに作るの?」
陽「こういう木の壁板を想像して。キャンプの外周を囲むように立てるんだ。十分頑丈なら、それほど見た目にこだわる必要はない。だから木材は粗加工だけでいい。かなり簡単だよ」
一斉に散らばり、それぞれの仕事へ向かっていく。
陽は長老のもとへ行き、棚からシャベルを三本と粗布を一枚取った。
キャンプの外周を回り、粘土を探すつもりだった。
これだけ川に近いのだから、見つけるのはそれほど難しくないはずだ。
シルルが石シャベルを担ぎ、一番前を歩いている。
口では無邪気な子供の歌を鼻歌で歌っていた。
陽と長老は並んでその後ろを歩く。
「黄色っぽくなってる地面に注意して。怪しそうな場所を見つけたら、二、三回掘ってみよう」
三人はそうしてキャンプの周囲をぐるぐる回りながら、粘土を探した。
一時間余りが経ち、昼が近づいてきた頃。
ようやくキャンプから百メートルほど離れた場所で、粘土の層を見つけた。
泥のような黄褐色の粘土を、陽は粗布へ大量に詰め込む。
試しに持ち上げてみた。
……無理だった。
「長老、悪いけど頼む」
結局、長老に片手で引きずって持ち帰ってもらった。
キャンプへ戻り、資源置き場の近くまで来る。
長老が粘土の入った包みを地面へ放り出す。
陽はそれを解き、少しずつ粘土を地面へ広げていく。
使い終わった粗布も洗えばまだ使える。
「陽、こんなに黄色い泥を集めて何するの?」
シルルが両手を陽の肩へ乗せ、その後ろから小さな頭を覗かせる。
いたずらっぽく目を瞬かせていた。
「これでも足りないかもしれないな。そうだ、シルルは子供の頃、泥遊びしたことある?」
陽は笑いながら、指先に粘土をつけた。
そしていたずらっぽく、シルルの鼻先へぺたり。
「ひゃっ。これ、すごく汚いよ」
シルルは怯えたように後ずさりし、目を細めながら腕で鼻をこすった。
「そのうち泥遊びが好きになるって。ははは、見てな」
陽は粘土を一塊掴み、地面へ叩きつける。
揉み、こね、何度も叩きつける。
その後、シャベルとつるはしで五十センチほどの穴を掘った。
その穴を土台にして、粘土を細長い紐状にこね上げ、一段ずつ積み上げていく。
疲れたらその場に座って休む。
ふと遠くを見ると、職人たちが木板を骨組みへ取り付けていた。
カン、カン、カン。
その音を聞いていると、負けていられないという気持ちが湧いてくる。
陽は再び立ち上がった。
木の棒で支えながら、さらに積み上げていく。
どうせ火を入れれば棒は燃えてなくなり、窯の内部だけが残る。
一時間ほど経って、ようやく記憶の中にある形へ近づいた。
簡易的な窯だ。
内部空間はかなり広い。
大きな釜――つまり大きな壺のような形をした、調理に特化した容器――も直接焼けそうだった。
薪を積む。
火をつける。
焼いて乾かす。
窯本体が十分に頑丈でなければ陶器は焼けない。
そのため、陽は窯のそばを離れずに見守った。
ひびが入れば粘土を塗り込んで補修する。
だが、現実はそう甘くなかった。
窯はむしろ、さらに早く崩れ始めた。
ガラガラガラッ!
焼かれて硬くなり始めていた窯壁が、いくつもの塊に砕けて落ちていく。
長老はシルルを連れて戻る途中、崩壊した窯の中に沈み込んでいる陽を一瞥した。
そして小さくため息をつき、首を横に振る。
そのままシルルを連れて別の仕事へ向かった。
ここは自分たちには手伝えない。
それでも長老は、陽なら自分で解決できると信じていた。
(うーん……なんかおかしいな)
陽は崩れた窯の周囲を待ちきれない様子で歩き回り、じっくり観察した。
しばらくして冷えたところで、二つの破片を手に取って比べる。
少し考えたあと、破片を立てて空へ向けてみる。
そこで、ようやく問題に気づいた。
(厚さが均一じゃないせいで、熱の入り方に差が出たのか)
「大丈夫。ちょっとした問題だ」
陽は槌と水袋を取りに行った。
窯の破片を砕き、水で薄めて再び粘土へ混ぜ込む。
そして考えた末、木板を二枚持ってきた。
木板の比較的平らな面で、用意した粘土の棒を挟んで押し潰し、揉み込む。
どれもほぼ同じ太さにする。
つまり、規格化だ。
その粘土棒を使って、もう一度窯を積み上げる。
しっかりと押し固める。
そして再び火を入れ、内部の水分が抜けるのを待つ。
「今度は爆発しなかった。よし、よし」
陽は唇を舐めた。
震える手で窯の石の扉を開く。
中はすでに冷えている。
内部はかなり滑らかで整っていた。
通風口も吸気口もきちんと機能している。
手を入れて底板を押してみる。
かなり頑丈だ。
炉壁を軽く叩く。
カン、カン。
澄んだ空洞音が響いた。
これなら陶器を焼ける。
再び粘土棒を作る。
今度は作業量も少ない。
大きな鍋を一つ。
数十個の碗。
大きな柄杓を一つ。
それらを窯の中へ窮屈そうに詰め込む。
火をつけ、石の蓋を閉じる。
そして吸気口へ何度も息を吹き込んだ。
待つ。
炉の炎が次第に弱くなっていく。
陽は内心で冷や汗をかいていた。
今回、どれだけ成功するのかは分からない。
もしかすると、全滅かもしれない。
窯を開ける瞬間、陽の指が無意識に震えた。
窯の中に積み重ねられた陶碗を見つける。
粗布を敷いて、一つずつ取り出していく。
パキッ!
パラパラパラッ!
手の中で、乾いた破裂音が次々と響いた。
半分ほどが割れてしまった。
いや――逆に言えば、半分は成功した。
「やった!」
陽は大喜びした。
すべての碗を取り出し、最後に陶鍋を見る。
どうやら、こちらは割れていない。
「祖巫様、みんなが温かいスープを飲めますように……!」
震える手で慎重に取り出す。
何も起きない。
中も完全な形を保っている。
しかも、粘土を成形したときの自分の指紋まで、くっきりと残っている。
完全な陶鍋が一つ、焼き上がった。
「よし……!」
陽は深く息を吐いた。
大きな柄杓も無事だった。
「よかった……初めてなのに、これだけ成功したなら、今夜が楽しみだ」
ざっと数えてみる。
今回の焼成で成功したのは、大鍋一つ、大きな汁杓子一つ、碗三十数個。
残りはすべて割れてしまった。
砕いて再利用するしかない。
そこでようやく陽は時間を確認した。
顔を上げる。
空はすでに暗くなり始めていた。
もうすぐ夜だ。
住居の骨組みは、残り二軒がまだ半分ほど。
八軒はすでに屋根まで完成している。
陽は少し考えた。
まだ時間はある。
そこで、さらに陶罐と碗をいくつか作り、窯へ詰め込んで焼き始めた。
明日の朝、ちょうど火が冷えている頃に窯を開ければ、また収穫できるはずだ。
すべての作業が終わる頃には、空は完全に暗くなっていた。
それでも留守組の蛇人たちが消えた焚き火へ何度も火を入れてくれているため、キャンプはそれほど暗くない。
陽は大鍋を一つ架け、火をつけた。
猪の脂身を入れて油を取る。
そして木の棒を二本削り、長い箸を作った。
これで、もう少し豚肉を切る。
全員が肉を焼いて食べているこの環境で、突然こんな道具が現れれば、当然ながらすぐに注目を集めた。
蛇人たちは陽の周囲へ集まり、大鍋を操りながら煮込み料理を作っていく様子をじっと見つめる。
外周を巡回している十五人と、まだ戻っていない狩猟組を除けば、すでに半数ほどの蛇人が集まっていた。
皆、鍋の中でパチパチと弾ける油を、期待に満ちた目で見つめている。
「慌てない、慌てない~。みんなの分あるからね~」
陽はにっと笑った。
料理をするのは久しぶりだった。
材料も揃っていない。
道具も足りない。
それでも、せめて一鍋のスープくらいなら作れる。
陽はまだ干していない肉を切り分けた。
鍋の油が十分に熱くなったところで肉を放り込む。
ジュワッ!
油が弾ける音が次々と響く。
肉の表面を一枚一枚焼き固めるように炒め、汁杓子と箸を使ってひっくり返していく。
そして温度が上がりすぎる前に、十分な量の水をドボドボと注ぎ込んだ。
木板で蓋をする。
あとは煮込むだけだ。
ひとまず火の番をする必要はない。
陽は資源置き場へ向かい、丸々とした赤いラズベリーを何個か取ってきた。
このラズベリーは甘酸っぱい。
小粒でただ酸っぱいだけのものではない。
誰かが採ってきたものらしく、量はそれほど多くなかった。
それでも、今夜全員にスープを飲ませるには十分だった。
ラズベリーを潰す。
蓋を開けて鍋へ入れる。
再び蓋をする。
あとはスープの中で脂が乳化し、水へ溶け込むのを待つ。
肉については、火が通ればそれでいい。
肉質を確認した陽は、もう柔らかく煮込むことには期待していなかった。
スープが完成するまでの間にも、焼き肉は必要だった。
この鍋だけでは、キャンプ全員が腹いっぱいになるほどの量はない。
しかし、それは陽がやる必要のある仕事ではなかった。
主食が足りないと口にしただけで、何人もの蛇人がすぐに動き始め、夕食の準備を始めてくれた。
(調味料と野菜も、そろそろ本格的に探さないとな)
そこへ狩猟組が帰ってきた。
二頭のヘラジカの死体を引きずっている。
前の二回ほどの大収穫ではない。
それでも十分すぎるほどの成果だった。
その中の一人が、白い毛の塊を抱えて長老のもとへやってきた。
それを見た瞬間、長老の表情が険しくなる。
簡単にいくつか指示を出し、狩人たちにはゆっくり休んで食事を取るよう伝えた。
獲物の解体は留守組へ任せる。
「長老、あれ何? また陽が新しいもの作ったの?」
狩人たちは、集まっている族人たちを見つめる。
その中央で、陽が何かを弄っているのがかすかに見えた。
「ありゃ炊具っていうんだって。陽によると、料理を作るための道具らしいよ。『スープ』っていう食べ物もあるそうでね。もう何人かは食べてるよ。あんたたちも早く行っておいで」
長老はそう促した。
嬉しそうに駆けていく族人たち。
その姿を見つめる長老の口元は、どうしても緩んでしまう。
しかし、その手に握られた白い毛の塊を見ると、再び思考へ沈んでいった。
キャンプの総人口は、陽を含めて九十二人。
碗を順番に使い回すことで、なんとか全員が温かい肉スープを飲むことができた。
陽はその後、もう一鍋作った。
案の定、二鍋目も最後にはきれいに空になった。
蛇人たちは、こんな身体を温めて腹を満たしてくれる食べ物を、これまで食べたことがなかった。
かなりの人数が遠慮なく食べた結果、腹が少し膨らんでいる。
夕食が終わると、皆は眠る準備を始めた。
見張り役以外では、まだ起きている者もほんの数人しかいない。
陽もその一人だった。
木炭の土包と窯の様子をもう一度確認しようとしていたところ、長老に呼び止められた。
「陽、ちょっと話したいことがあるんだ」
長老は、先ほどの白い毛の塊を陽へ見せる。
陽はそれを手に取って触ってみた。
「これ、何だと思う?」
何度か握ってみる。
非常にふわふわしている。
引っ張ってみると、弾力もかなりある。
鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。
野獣のような匂いがした。
陽は頭を掻きながら答える。
「うーん、分からないな。羊か何かじゃない? どうしたの?」
長老は回りくどいことをせず、答えた。
「この毛には魔力の波動が残っている。普通の毛じゃないよ。たぶん、ニェトパンという種族が残したものだ」
「狩人たちが帰ってくる途中で見つけたらしい。キャンプからもかなり近い場所だった」
(もしかして、別の魔物娘なのか?)
「じゃあ……危険はある?」
陽は、夜の見張り役たちが襲われないか心配になった。
「おそらく大した問題はない。もともと強い種族じゃないからね。ただ、気になるのは活動範囲だ」
長老は考え込む。
「私の記憶が正しければ、あの子たちはもっと北にいるはずだ。ここは彼女たちにとって暑すぎる」
「移動してきた可能性は? 僕たちと同じように、もともと住んでいた場所が合わなくなったとか」
陽は毛の塊を握りながら言った。
それにしても、すごい毛だ。
これほど手に絡みつくような柔らかい毛を、陽はこれまで触ったことがなかった。
「可能性はあるね」
「それなら、誰かを派遣して接触してみよう。何が起きたのか、ちゃんと聞いてみる必要もある」
(これだけ近くにいて、しかも痕跡まで残しているんだ。向こうはとっくに僕たちの存在に気づいているはずだ。それなのに自分から姿を現さない。何か理由があるんだろう)
「長老、明日はたぶん長老が全体を指揮しないといけないと思う。夜のことは見張り役に任せて、今日はちゃんと休んで。たぶん、大きな問題にはならないよ」
陽はそう言って長老を休ませようとした。
長老は頷いた。
キャンプの安全そのものを心配しているわけではない。
それでも、胸の奥には疑念が残っていた。
ニェトパンがここに現れたことは、南極のペンギンが熱帯雨林に現れるようなものなのだから。
いずれにせよ、明日に備えて体力を蓄えておかなければならない。
陽は蛇人が焼いた、カリカリに焦げた肉を一切れ噛みながら、簡易シェルターの下へ横になった。
木の葉の隙間から、星空を見上げる。
大半の蛇人は、完成した住居へ移っている。
簡易シェルター区画に残っているのは、ほんの数人だけだった。
そして陽自身はというと、もう少し小さな家を一人で建てて、そこに住もうと思っていた。
さすがに大勢の魔物娘と同じ部屋で暮らすのは、まだ慣れない。
(もぐもぐ……なんでこんなに香ばしくてパリパリした干し肉を、ラミアたちは嫌がるんだ? おやつにちょうどいいのに)
今日の食事:ラズベリー入り猪肉スープ+骨付き炙り肉
(正直、塩のないスープってやっぱり変な味だな。ラミアたちは美味しそうに飲んでるけど、俺にはどうしても抑えきれない獣臭さが気になる)
(今回はラズベリーの甘酸っぱさで少し誤魔化せたけど……ネギやショウガやニンニクがあった頃が恋しいな)
(そういえば、なんでこいつらはいつも肉を半生で焼くんだ? 俺が中までしっかり火を通した肉には、逆にあまり興味を示さないんだよな)
[イラスト投稿サイトは地域的な事情により登録できず、そのため皆さんにお見せできないイラストがたくさんあります。申し訳ありません。]




