第六章 頑丈な住まい
翌朝、見張りをしていた蛇人たちが、眠っていた一同を起こした。
十数人の見張り役たちは簡易シェルターの下に身を寄せ、焼き肉をたっぷり食べたあと、目を閉じて仮眠を取り始めた。
朝食はいたって簡素なものだった。
一人あたり半斤ほどの焼いた肉に酸っぱいベリーを塗り、さらに何口かの水を飲む。
これらは昨日、シキアやギルたち狩猟組が持ち帰ったものだ。
水は澄んでいて冷たいものの、病気になるリスクは依然としてある。
そのため、陽は今日の行動目標をすでに決めていた。
長老は今日も陽のもとへやって来て、今日の予定を尋ねた。
陽は少し考えると、昨日までの方針を調整し、その内容を長老に伝えた。
「職人組は引き続き木材の収集と加工をお願いします。これから大量の木材が必要になります。生活組は石を集めるだけじゃなくて、この数日間で焚き火から出た草木灰も集めてください。僕は……狩猟組について、一度外に出ようと思います」
長老は草木灰を集める意味については尋ねなかった。
代わりに、陽がなぜ外へ出るのかを聞いた。
「道を決めるためです」
陽はそう答えた。
長老が、自分のような貧弱な身体で外に出ることを心配しているのは分かっている。
だが、これは実際に現地を歩いてみなければ分からない。
「長老、狩猟組が水を汲みに行くときに一緒に連れていってください。それで帰りも送ってもらえれば、そんなに時間はかかりません」
「そうかい。なら気をつけるんだよ。シキアに背負ってもらえばずっと速いからね。それに、あの子はこの二日間ずいぶん元気そうだ。お前からもよく見ておいておくれ。何か騒ぎを起こさないようにね」
長老にそう言われ、陽は頷いた。
資源置き場から石ナイフと石シャベルを一本ずつ取り出し、唯一残っていた粗布を一枚持って、シキアのもとへ向かった。
安全のため、狩猟組は十五人ずつ二隊に分かれた。
一隊はこれまで通り周辺で狩猟を続け、もう一隊が陽を連れて、昨日彼女たちが水を汲んだ場所へ向かう。
道中の進みはかなり遅かった。
先頭をシキアが歩き、陽は七、八人ほどの蛇人に囲まれながら、一歩ずつゆっくり進んでいく。
その間、陽は左右をきょろきょろと見回し、時折立ち止まって土を摘まみ、石シャベルで何度か掘ってみた。
土層の厚さを確かめているのだ。
陽には専門的な地理知識などない。
そのため、泉や鉱脈を探そうなどとは考えていなかった。
粘土が少しでも採れれば、それだけで十分ありがたい。
「陽、何探してるの?」
シキアが両手を後ろに回し、陽の奇妙な行動を振り返って見る。
「ああ、いや、なんでもないよ。もうすぐ水場だよね? なんだか水の音が聞こえてきた」
蛇人たちの雑談の向こう側からでも、大量の水が泡立つ音が聞こえてくる。
「今の速度なら、もう少し歩けば見えてくるよ」
陽の歩幅に合わせるため、蛇人たちは普段よりかなりゆっくり歩いていた。
道は比較的平坦で、ほとんど傾斜もない。
さらに五分も歩かないうちに、一行は川辺へと辿り着いた。
陽が目測したところ、流れはそれほど急ではない。
石シャベルで川の外側から水面を突いてみる。
そのあと、手に適当に摘んでいた葉を数えた。
全部で十二枚。
「かなり浅い……お、深くなってきた……もう少し入るなら……シキア、ちょっと引っ張って」
振り返って手を差し出す。
シキアがそれを掴む。
陽の両脚はすでに完全に川の中へ浸かっていた。
腰を曲げて石シャベルを前方へ差し込み、感触を確かめる。
そしてすぐに引き抜き、岸へ駆け戻った。
「この川、かなり大きいぞ。目測で二十~三十メートルくらいはある。五メートルくらい入ったところでも、水深は一・五メートルを超えてる。これなら魚も期待できそうだ。それに葉っぱ十二枚。僕の歩幅で計算すると、だいたい八百五十メートルくらい。つまり一キロもない。かなり近いな」
「陽って、なんでいつも変なこと言ってるの?」
シキアが陽の前へ回り込み、首を傾げる。
「この川、何か問題あるの?」
「いや、むしろ最高だよ、ここ。ははは。うん、みんなは水を汲んできて。僕はこの辺を少し見て回るよ。そんなに離れないから大丈夫」
陽は手を振り、わざわざ付き添う必要はないと示した。
蛇人たちの視界に入る範囲――およそ五十メートル以内を歩き回り、地面を見下ろしながら何かを探していく。
時折しゃがみ込み、手で地面を探った。
(この地形なら、そう難しくはないはずなんだけど……)
「あ、あった。意外と簡単だな」
陽は黒く、わずかに透けている石を拾い上げた。
手に取ってみると、かなり重い。
何より、十分な大きさがある。
【黒曜石】
「もう少し探してみよう……これは違うな。確か、見分けは結構ついたはずなんだけど」
陽は再び石を掻き分け始めた。
「陽、何探してるの? 私たち、もう水汲み終わったよ」
シキアが近寄ってきて、陽の隣にしゃがみ込む。
蛇尾ではこんな姿勢を取りづらいので、彼女はそのまま腹這いになり、白い手で地面の石を陽の真似をして掻き分け始めた。
「うん、こういう石か、似たような石が欲しいんだ。こんな感じの黒い石とか、灰色っぽい石とか。光を反射しないものなら大丈夫」
人手が多ければ仕事は早い。
シキアたちは意味を理解しているのかどうかも分からないまま、とにかく陽が必要としているならと石を探し始めた。
半分ほどが見張りに残り、もう半分が周囲へ散らばって条件に合う石を探していく。
しばらくすると、少しばかりの石が集められた。
陽は蛇人たちを見回し、両手を合わせて目を閉じ、笑った。
「ありがとう、ありがとう」
蛇人たちは無邪気に笑い、少し照れくさそうにその場を離れて雑談を始めた。
残ったのはシキアだけだった。
彼女は陽のそばで見張りを続けている。
陽がざっと確認すると、集められた石の半分ほどは使えそうだった。
板状の石や丸石を取り除く。
残ったのは黒曜石と火打石だった。
「いいもの見つけたな! 改めてありがとう!」
こうして人手を借りられたことは本当にありがたい。
もし全部一人で探していたら、こんな特殊な石材を集め終わるまでどれだけ時間がかかっていたか分からない。
粗布で包んで背負い、帰路につく。
蛇人たちの狩猟時間をこれ以上削るわけにもいかなかった。
二時間もかからず、陽はキャンプへ戻ってきた。
シキアたちは水袋を下ろすと、すぐに狩猟組の仲間と合流するため再び出発していった。
資源置き場を囲んでいた木柵をどかし、陽は背負ってきた石を地面へ置く。
そして種類ごとに分類し始めた。
それに気づいた職人組の蛇人たちが、興味津々に近寄ってくる。
「陽、これ何? どうしてこんな黒い石ばかり集めてきたの?」
「前に教えた斧の刃とか、つるはしの先端とか、覚えてるだろ? 普通の石だと靭性も硬さも少し足りないんだ。これなら代わりに使って強化できる」
その後も、職人たちが束ねた木材を抱えて戻ってくる。
陽が新しい材料を使う方法を教えているのを見ると、彼女たちも何個か手に取り、新しい道具作りを試し始めた。
その中にはすでにかなりの経験を積んでいる者もいて、作業は非常に速かった。
わずか三十分ほどで、新しい黒々とした工具が次々に完成する。
普通の打製石器よりも頑丈で、刃も鋭い。
さらに獣皮で柄を包むことで、握り心地まで改善された。
【打製石器】が【黒曜石/火打石工具】へアップグレードされました。
「試してみて。たぶんかなり使いやすくなってる」
陽は職人たち自身に新しい道具を試させた。
口で説明するだけでは分からない。
実際に手に取って使えば、その差は一目瞭然だ。
その場に座り込んで木材を加工する者もいれば、石斧を手にそのまま伐採へ向かう者もいる。
より整った木板ができるようになり、端のささくれも少なくなった。
陽にとっては朗報だった。
火打石の手斧が使えるようになったことで、ようやく木材にほぞ穴を加工できる。
消えた焚き火跡から燃え残った黒炭を拾い、それを炭筆代わりに使う。
職人たちが加工したばかりの木板に、ほぞの凸部と凹部を描いていく。
そして獣皮を巻いた木槌で火打石の鑿を叩き、ほぞ組みの形を削り出していく。
「みんなもやってみて。線を引くのは僕がやるから、その線に沿って削ればいい」
陽はさらに加工する木材を職人たちの前へ運んだ。
まずは観察してもらい、やり方を覚えてもらう。
その後、サイズの合う木材一つ一つに加工線を引いていった。
手元の木炭をすべて使い切り、振り返る。
すると、職人たちはすでにかなりの速度で作業を進めていた。
なんと木材の三分の一が、すでに加工済みになっている。
時間にして、まだ一時間ほどしか経っていない。
「これなら外に出ている職人たちが戻ってきたら、もっと早く進みそうだな。さすがラミアの魔物娘だ。力があるだけじゃない、細かい作業も十分できる」
(今のうちに次の手を考えておかないとな)
資源置き場の中央で周囲の景色から浮いている祖巫の石繭を見ながら、陽は顎に手を当てて考えた。
数分もしないうちに、答えは出た。
恩人をいつまでも雑多な物資の山の中に置いておくわけにはいかない。
蛇人たちは十分に祖巫の石繭を大切に扱っている。
しかし彼女たちにできることといえば、空いた場所を確保して、左右に焚き火を置くことくらいだった。
陽は縄を上下に当てて大きさを測り、少し余裕を残す。
そしてキャンプの中央――資源置き場から少し離れた場所に、木の棒で大まかな範囲を描いた。
細い線、円、無数の×印。
自分が覚えておく必要のある場所を次々と地面に記していく。
その後、シャベルとつるはしを使って掘り始めた。
職人たちも意味が分からないまま陽の後について掘り始める。
分からないところがあれば何度か質問し、それからまた掘る。
留守組の蛇人たちも集まってきて、土や必要な木材の運搬を手伝った。
陽は四方に穴を開け、その中へ柱を立てる。
地面から約三十センチほど突き出すようにする。
さらに八か所に細めの柱を立て、木板で柱同士を囲む。
両端にはあらかじめほぞ組みを加工してあるため、柱の間にきれいに噛み合った。
その後、穴の底を砕石で埋め、地上に出た木板の高さまで積み上げる。
その上に土をかぶせ、草木灰を撒き、さらに木板を一枚重ねる。
石槌で何度も叩き、しっかりと固める。
こうして少し地面から盛り上がった基礎の上に、四本のまっすぐな角柱を立てた。
それぞれ基礎にあらかじめ開けておいた穴へ差し込む。
三面に木の壁を立て、さらに幅の広い木製の屋根を取り付ける。
接合部分はほぞ組みに加えて樹脂で補強した。
屋根の上には大量の枝葉を敷き詰め、防水処理を施す。
屋根はわずかに傾斜しているため、水が溜まることもない。
こうして地面から三十センチほど高く、二メートル×二メートル、三面を壁で囲った建物が完成した。
構造は非常に単純だ。
それでも、これは正真正銘の「建築物」だった。
真上には太陽が高く昇っている。
そんな中でも、この粗末な建物は十分な日除けになっていた。
陽と職人たちが叩いて削って作業すること二時間余り。
時刻は正午になった。
この騒ぎは当然、長老の耳にも届いていた。
長老が資源置き場へやって来たときには、建物はすでに完成間近だった。
見えるのは、陽が地面にしゃがみ込み、蔓を一本の長い木の枝へ何重にも巻きつけ、切ってはまた巻きつけている姿だけだった。
「陽、これは……家なのかい?」
長老は両手を蛇身につき、腰を屈めて尋ねる。
「ああ、まあね。技術的に作れるかどうかの確認みたいなものだけど……新しい家の最初の建物は、あの子にあげたいんだ」
陽は祖巫のほうへ視線を向けた。
「ほら、みんな。ちょっと手を貸して。祖巫を運ぼう」
陽は資源置き場の中央へ向かい、祖巫の石化した腕の一本を支える。
すると、何人もの蛇人が集まり、自然と祖巫の身体を支え始めた。
一歩ずつ、少しずつ外へ運び出す。
そして新しい建物の前まで移動すると、そのまま一気に持ち上げて中へ運び込んだ。
わずかな隙間のある床の上へ、祖巫を静かに安置する。
陽は先ほど蔓を巻きつけていた木の棒を職人の一人へ渡した。
「それを屋根の上、壁のない側の端に立てかけて。石を何個か乗せて押さえれば……」
簡易的なアーチ状の垂れ幕が完成した。
「陽、これは……何なの?」
蛇人たちが集まり、新しい建物と、その中に安置された祖巫の石繭を見つめている。
長老も思わず尋ねた。
「これは神龕だよ。僕の故郷では、祖先や神様を祀るための建物なんだ」
「……いいね」
長老は思いもしなかった。
祖巫の石繭に、こんな独立した専用の家が与えられるなんて。
彼女たちは石繭が大切なものだと知っていた。
だからこそ大切な生存物資と同じ場所に置いていた。
だが、それ以上に相応しい場所を知らなかったのだ。
(ありがとう、祖巫。僕の傷を治してくれただけじゃない。僕が身を寄せられる場所まで残してくれた)
(僕は、自分の力でみんなを守るよ)
陽は両手を合わせ、目を閉じて静かに祈った。
蛇人たちは彼の邪魔をしなかった。
ただ陽の隣に並び、一緒に目を閉じる。
そして、この数日間に起きた出来事を、声に出さず祖巫へ語りかけていた。
【祖巫神龕】が完成しました。
しばらくして、蛇人たちは一人、また一人と目を開いた。
祖巫へ伝えたいことはまだたくさんあるようだった。
しかし長老はもう皆を追い立て始めている。
「ほらほら、まだやることはいっぱいあるよ!」
振り返って神龕を見つめる族人たちの背中を長老が押し、何人かを連れて午後の木材や石材の運搬準備を始めた。
陽はそのタイミングで長老のもとへ向かい、呼び止めた。
そして、職人組へさらに人手を回してほしいと頼んだ。
「技術的に作れることは確認できたから、今いる職人には全力で家を建ててもらいたい。そうすると、木材やその他の資源を集める速度が落ちると思う」
長老は少し考えた。
そして新たに五、六人を陽へ回すことにした。
これで職人組は、できるだけ十五人程度まで増員する。
新しく加わった職人たちは、ほぞ組みの方法を覚える必要はない。
まずは木を切り、石の手斧で粗加工をしてくれれば十分だ。
新たに職人組へ加わった数人の蛇人は、尾を振りながら斧を担ぎ、嬉しそうに伐採へ向かっていった。
この数人は最初の班分けで選ばれなかった者たちだった。
理由は単純に、体力が足りなかったからだ。
しかし今では、以前よりずいぶん調子が良くなっている。
ここ二日間の食事が大きく影響しているのは間違いなかった。
空が完全に暗くなるまでの、わずか三、四時間。
その間に陽は木の棒を使って地面へ一つ、また一つと正方形の施工図を描き、初期段階で建てる十軒の住居を計画した。
資源置き場と神龕を中心に、半包囲するような配置になっている。
一軒あたり十人の蛇人が住んでも、窮屈にならない程度の広さを確保する。
職人たちは陽のすぐそばについて回った。
線が引かれると、すぐに石ピッケルと石シャベルで基礎を整える。
そして留守組の仲間たちへ、指定された木材や石材を運ぶよう指示する。
今日の目標は、眠る前にすべての住居の大まかな骨組みを立てることだった。
「陽、なんでここだけ真ん中にこんな大きな柱を立てるの?」
ある勤勉な蛇人が、立てたばかりの木柱を抱えながら尋ねた。
「リポ……だっけ? うん、いい質問だね。前に君たちが建てていた土の家を見たことがある。それに、今日は神龕も建てた。どうして真ん中にこういう柱を立てないと思う?」
陽はすぐに答えず、逆に問い返した。
リポという名の蛇人職人は、この二日間で陽にも強く印象を残していた。
とにかく勤勉で、苦労を厭わない。
それに、技術的な経験を教えると、すぐに要点をまとめて身につける。
陽はすでに、リポへいくつかの建築作業を任せることを考えていた。
自分には他にもやることがある。
いつまでも職人組の作業を付きっきりで見るわけにはいかない。
リポは少し考えてから答えた。
「今までの建物は小さくて、構造も単純だった。今度の住居は、前の七、八倍くらい大きい。だから……支えるため?」
「正解。建物が大きくなるほど、支えも必要になる。この中央の柱は、そのためのものだ。あとは上部に溝を作って梁を渡す。もう日も暮れてきたし、そこは明日の仕事かな」
本当なら支える構造には様々な方法がある。
だが陽が知っているのは、この最も単純で実用的な中央柱と梁を組み合わせる方法くらいだった。
職人になってまだ間もないというのに、蛇人たちの学習能力と土埃の舞う環境への適応力は驚くほど高かった。
工事は予定よりはるかに速く進んだ。
空が完全に暗くなった頃、職人の振るう槌が最後の一撃を打ち込む。
第十軒目の住居、その全体の骨組みが完成した。
あとは明日、木板と柱を使って壁と屋根を作れば、大まかな形は完成する。
(まあ、ただの骨組みだけどな)
狩猟組も獲物を背負って帰ってきた。
今日の成果は昨日以上だった。
三十人の狩人たちが、五頭もの大きなヘラジカの死体を苦労して運んできた。
資源置き場の近くまで来ると、その場に倒れ込むようにして大きく息をする。
「そろそろ武器も増やしたほうがいいな。今の石ナイフじゃ、狩猟には向いてない」
陽が真っ先に思いついたのは槍だった。
作るのが簡単で、近距離でも遠距離でも使える。
キャンプでは再び消えていた焚き火に火が灯された。
十数個の小さな火が、またこの一帯を照らし始める。
原始の大森林の中では、その光景だけがどこか異質だった。
シキアたちは新しい建物の骨組みを見つけた。
そして資源置き場の隣に完成していた神龕にも気づく。
驚いた彼女は、資源置き場で石槍の材料を作っていた陽を尾で締め上げた。
「ゴホッ、ゴホゴホッ、あああっ! 離して、尾を離せ!」
陽は歯を食いしばりながら、首に巻きついた青い蛇尾を引っ張る。
シキアは、その尾をただ肩に乗せているだけだと思っていた。
「見てよ、陽! 祖巫に自分の部屋ができたんだよ! 昔と同じ! ちょっと小さいけど!」
陽にはシキアの気持ちはよく分かる。
ただし、今日一日だけで自分の身体には七、八本もの締め跡が増えていた。
(ラミアの感情表現って、もう少し優しくならないのか? ……いや、待て。転生してからあまり食べてないからいいけど、あと何回か強く締められてたら腹が飛び出してたぞ)
「やっと落ち着いたか……」
陽は、神龕の前に座り込み、目を閉じて静かに祈っている彼女たちを眺めた。
新しい環境は、多かれ少なかれ彼女たちに不安を与えているのだろう。
この神龕と、その中に安置された祖巫の石繭は、そんな彼女たちの精神的な負担を和らげてくれるはずだ。
陽は焚き火のそばへ戻り、長老の隣にどっかりと腰を下ろした。
シルルはすでに長老の腕の中で眠っている。
今日はシルルもたくさんの石やベリーを拾った。
それに成長期ということもあり、彼女は毎日かなり長い時間眠っている。
陽は長老へ今日の進捗と、変更が必要になった計画について報告しながら、黒曜石を磨き、黒曜石の槍を作っていく。
「長老、明日には住居を全部完成させられると思います。そうすれば、みんなが野宿しなくて済みます。まだ一人一軒というわけにはいかないけど、一人一つの寝床くらいなら用意できます」
「そんな話はもういいよ。みんな、あんたたちが頑張ってるのはちゃんと分かってる。今は少し休みなさい」
長老は焼いた鹿肉を一切れ差し出した。
脂の香ばしい匂いがする。
ただし、血の臭いと獣臭さもまだ残っている。
(明日、また探しに行ってみるか……?)
陽が手を止める気配を見せないのを見て、長老は小さく笑った。
そして肉を彼の口元へ差し出す。
「食べな。私はキャンプの見張り以外は、子供の面倒を見るくらいしかできないからね」
「僕、もう成人してるんだけど」
陽は口を開けて肉を咥え、少しずつ噛みながら答える。
そのせいで発音は少し不明瞭だった。
「ははは。いいじゃないか。祖巫の庇護の下では、私たちはみんな子供さ。私はほら……姉としての役目を果たしているだけだよ」
焚き火の明かりが、祖巫の伏せられた瞼を照らしている。
まるで今もなお、自分の族人たちを見守っているかのようだった。
神龕の完成を祝うため、蛇人たちは焚き火を囲んだ。
尾を揺らし、歌声を響かせる。
古くから伝わる旋律を歌いながら、静かな森の中で夜空に浮かぶ二つの白い月を見上げる。
まるで、その歌声を遥かな故郷へ届けようとしているかのように。
【万神の母よ、あなたはなぜ泣いている】
【世界の哀歌よ、彼の色を洗い流せ】
【大樹が倒れれば、根はさらに伸びてゆく】
【万神の母よ、あなたはなぜ静かにしている】
【広がり続ける灰土が、六界を覆い尽くす】
【希望を迎えよ、文明を繋げよ】
【彼が訪れる前に、燦然と咲き誇れ】
【■■■■■、■■■■■】
歌声は婉曲に響き、やがて遠ざかっていく。
陽は胸元を撫でた。
そこに、かすかな痛みが走る。
「……なんだ? まさか心臓病でも発症したのか。こりゃ本当に寝ないとな」
【観測警戒】




