第8話「趣味と先輩とソフビ雑誌」
「凛、先輩は購買パンを買っている」
「つまり……彼女がいないってことかも」
美琴がにやりと笑った。
途端に凛の表情がパァッと輝いた。
「単なる想像だろ」柊が冷静に言う。「復活早いな」
「うるさいわね!」凛は頬をぷっくり膨らませた。
でも口元は緩んでいた。
明日から夏休みだ。
(時間もあるし、本屋に寄ろうかな。夏の創作イベントの情報も出てるかもしれない)
「柊、帰り本屋行こうよ」
「いいけど、美琴は?」
「バイトだって、先に帰っちゃった」
「そっか」
放課後。
棚に並ぶソフビ雑誌に夢中になっていた凛は、ページをめくる手をふと止めた。
(……夜咲先輩?)
二度見した。やっぱり夜咲先輩だ。なんで本屋に。というか、
なんで本屋にいるの? というか、なんでよりによってこのコーナーに。
「こういうの好きなんだ?」
不意に声をかけられて、凛は雑誌を取り落としそうになった。
「す、好きです!」
夜咲はふわりと笑って、凛の手元を覗き込んできた。距離が近い。シャンプーの匂いがする。
「へぇ。今度イベントあるんだ」
「そ、そうなんです! 創作フェスって言って、
すごく面白くて、作家さんが直接来るんです!」
「交流もできますし、ソフビとかアクセサリーとか雑貨とか、
色んな作品がたくさん並んでて……」
「食べ物もあるし、一日いても飽きないし」
「とにかく楽しいんです!」
「色々あるんだね」
「時間あったら行ってみようかな」
「じゃあ、またね」
夜咲は手を振って店を出ていった。
心臓が止まった。
数日後。
いよいよデザインフェスの日が来た。
—美琴も誘ったけど、
「ごめん!どうしても外せない用事があって!次こそ絶対行く!」と全力で謝られた。
残念だけど仕方ない。その分、思い切り楽しむ。
駅前で柊と待ち合わせをした。
「お待たせ」
「待った?」
凛はぶんぶんと首を振った。
「ううん、私もさっき来たとこ」
「そっか。じゃあ行こう」
凛は柊の返事も待たずに歩き出した。
「慌てると危ないぞ」
「限定品があるの! 悠長にしてたら売り切れちゃうかもしれないの!」
「お前って本当に好きなものには全力だな……」
柊が苦笑いしながら小走りでついてくる。
(先輩も来るかな)
ちらっとそう思ったけど、凛はぐっと前を向いた。今日は、今日だけは、純粋に楽しむ。
そのはずだった。




