第7話「今度一緒に買おうか」
三人は帰りながら美琴が聞いた。
「次の好感度アップ作戦って何するの?」
「よくぞ聞いてくれたわ」
「購買パンよ!」
「購買パン?」
二人は首を傾げた。
「これを見なさい」
『夜咲先輩攻略計画』ノートを広げる。
「先輩の好きな購買パンリストを書き出したわ」
「すごーい」
「常に見張ってノートに書いてたんだ」
「探偵みたい」
美琴は笑った。
「普通に怖えーだろ」
「ずっと張り付いて見てるとか」
「違うわよ!」 「情報収集よ!」
「言い方変えただけだな」
「それでその先輩の好きな購買パンを書き出して、どうするの?」
「全部買い占めるとか?」
「普通に他の生徒に迷惑だろ?」
柊は笑った。
「違うわよ」
「作戦はこう」
「先輩が購買パンを買いに来る前に買っておいて」
「先輩の好みのパン買っておきました」
「って渡すの」
「うん、それはただのパシリだろ?」
「パシリ!?」
凛は落ち込んだ。
「パンは買わなくても購買パンに行けば先輩と会えるってことでしょ?」
美琴が言った。
「そうよ!それが作戦よ」
「さっきのパシリの話はなかったことにしたな」
柊は言った。
「細いことは気にしないの」
「明日」 「作戦決行よ」
「私達、凛の活躍ちゃんと見届けるからね」 美琴は笑った。
「今度こそ失敗しないように、見届けてやるからな」 柊が付け加える。
「失敗しないわよ!」
「私は常に成功しているわ」
凛の反論を背中で聞きながら、二人は帰って行った。
そして、次の日の昼休み。 作戦決行の時間がやってきた。
「行ってくるわ」
「私の勇姿を見ていなさい」
どっと人が溢れる購買。
凛はそれも想定内と言わんばかりに人混みをすり抜ける。
そして。
夜咲先輩の好きなパンを二つと、飲み物を確保した。
「買えたわ!」
「うん、ただパンと飲み物買っただけだな」
「凛、購買で買うの上手だね」
「お金払うから今度買ってきてよ」 「チョコ入ってるパンあるじゃん」 「あれ好きなんだよね」
「うん、いいよ」
「って違う!」
「違うじゃん!」
「普通にパンを買っただけだわ!」
「今気付いたのか?」
「じゃあ昼にするか」
「しないわよ!」
(来たわ)
(落ち着きなさい私)
(まずは深呼吸)
凛は無意識にパンを一口かじった。
(今よ)
(完璧なタイミング)
凛は夜咲へ向かって歩き出した。
「夜咲先輩!」
「ん?」
凛は自信満々にパンを差し出そうとして――
「あれ?」
手元を見る。
パンがない。
「え?」
反対の手を見る。
半分食べかけだった。
「……」
「……」
「食べてるな」 柊の声がした。
「なんで私、パンを食べてしまったわ」
愕然とする凛。
「むしろ何で食べないと思ったんだ?」 柊は言った。
「あっそれ」
「それ食べたことない」
「美味しかった?」 美琴が聞いた。
「美味しかった」
「このリンゴとクリームが絶妙な――」
「って違う!」
「味の話じゃないの!」
「楽しそうだね」
聞き覚えのある声に、凛の体が固まった。
ゆっくり振り向く。
そこには夜咲がいた。
「先輩、いつからそこにいたんですか?」
「食べかけのパン食べてたって言ってたよね?」
「美味しかった?」
夜咲が笑う。
「……美味しかったです」
凛は小さく答えた。
「それ人気なんだよね」
「俺今日は買えなかった」
(私が買ったからじゃん)
凛はその場で固まった。
柊は顔を背けた。
肩が小さく震えている。
「それ、俺がよく買うやつだ」
「真白さんも好きだったんだね」
「今度見かけたら一緒に買おうか」
夜咲は笑顔で手を振った。 そして、そのまま去って行く。
「……」
「凛?」 美琴が顔を覗き込む。
「私」
「先輩の好きなパンを奪った上に」
「うん」
「味のレビューまでしてしまったわ」
「してたな」
「しかも」
「今度一緒に買おうって言われた」
「言われたな」
「これは成功よね?」
「失敗だろ」
「凛、大成功だよ」 美琴は即答した。
「そうよね」 「大成功よね」 凛は何度も頷いた。
「失敗だろ」 柊が言った。
「聞こえないわ」
「現実逃避するな」




