第6話「第一段階クリア」
わかっている。 わかっているのに、
心臓が勝手に跳ねた。
「……そ、そうですか」
声が裏返った。
夜咲は不思議そうに首を傾げる。
「真白さん?」
「はい!」
「大丈夫?」
「大丈夫です!」 凛の視線は夜咲が手にしたぬいぐるみに向かった。
「これは作戦ではなく、純粋な創作活動なので!」
「作戦?」
「……」
(しまった。またやってしまった)
美琴が後ろで口を押さえた。
柊は小さくため息をつく。
「また自分から漏らしたな」
「黙って!」
夜咲は少しだけ笑って、ぬいぐるみの頭を指でつついた。
「でも、嬉しいよ」
「俺をこんなふうに見てくれてたんだなって」
「……へ?」
凛の顔が一気に熱くなる。
(違う。 そういう意味じゃない。 いや、そういう意味なのかもしれない。 でも今それを本人に言われるのは違う。)
「ち、違います!」
「これは観察と分析の成果であって!」
「うん」 夜咲は笑った。
「真白さんらしいね」
凛は完全に固まった。
柊がぼそっと言った。
「負けたな」
「まだ負けてない!」
「そもそも勝負してないから」
「なにかと戦ってたの?」
「そうです」
「自分との戦い」
「創作とは、戦と同じなんです!」
夜咲がくすっと笑った。
「……って、そういう話じゃなかった」
「ははっ」
「真白さんは面白いな」
「これ貰っていい?」
「えぇっ、貰ってくれるんですか?」
「俺のために作ってくれたんだよね?」
「そうですけど」
「じゃあ遠慮なく貰うね」
「ありがとう」
「大事にするね」
「じゃあね」
手を振りながら、
笑ってぬいぐるみを貰って行った夜咲だった。
「うわぁ」
「今の見た?」
「あれ?美琴は?」
「さぁな」
「どっか行った」
柊は冷めたように言った。
「まぁ貰ってくれたんだ、よかったじゃん」
「うん」
凛は嬉しそうに微笑んだ。
「これでまた次の目標に向かってレッツゴーよ!」
「トイレ行ってたぁ」
「なんでガッツポーズしてるの?」
ハンカチで手を拭きながら美琴が戻ってきた。
「ぬいぐるみもらってくれたの」
「よかったじゃん、凛」
「よかったじゃん、じゃない」
「美琴が言うから、夜咲先輩きて驚いたんだから」
「貰ったなら、結果オーライでしょ」
美琴は笑ってウインクした。
「それはそうなんだけど」
凛は夜咲が去っていった方向を見た。
「……本当に持って帰ってくれたのよ」
「当たり前じゃん」 美琴は笑った。 「凛が頑張って作ったんだから」
「そ、そうよね」
凛は少しだけ照れた。
そして。
「次の作戦よ」
「切り替え早いな」 柊が呆れた。
「もちろんよ」 凛は胸を張った。 「好感度アップ作戦・第二段階!」
「まだ続くのか」
「当然でしょ!」
「先輩はもうぬいぐるみ受け取ったのよ?」
「そうだな」
「お前、そこがゴールじゃなかったのか?」
「もちろん違うわ」 凛は勢いよく言った。
「じゃあ次は?」
「次、……」
「次ねぇ」
凛は止まった。
「まだ考えてない」
「考えてなくて次の作戦とか言うのかよ」
「なんだって勢いが大切なの」
「当たって砕けろ精神ってやつだよね」 美琴が笑う。
「お前の場合、毎回砕けてるだろ」
「砕けてないわ!」
凛は少しだけ黙った。
夜咲が去っていった方向を見る。
自分で作ったぬいぐるみを抱えて。
嬉しそうに笑っていた顔を思い出す。
胸が少しだけくすぐったくなった。
(嬉しそうだったな)
「……でも」
「次はもっと仲良くなってみせるわ」




