第50話「今日、とても幸せでした。」
創作フェス最終日。
コスモとペタルは初日に完売した。
今日の凛は、一人の出展者ではなく、一人のお客さんだった。
「今年最後に来れたの、凄く嬉しい」
凛は嬉しそうに笑う。
本当は、ずっと楽しみにしていた。
色々な作品を見て。 作家さんと出会って。
そして今日は――。
(恋人になって初めてのお出かけ)
思い浮かんだ瞬間、少しだけ頬が熱くなる。
「どうした?」
「う、ううん!なんでもない!」
柊の横顔を見て、胸が高鳴る。
二人は並んで会場を歩き始める。
個性的なイラスト。
ガラス細工。
アクセサリー。
手作りのぬいぐるみ。
「ソフビだけじゃないのは、知ってたけど」
「こんな素敵なブースもあったのね」
「あっ、これ可愛い」
凛が足を止めた。
花びらをモチーフにした、小さな髪飾りだった。
「綺麗……」
「本物の花を使って加工してるんだな」
「凄いね」
嬉しそうに眺める凛を見て、柊は少しだけ笑う。
「やっぱり、そういうのも好きなんだな」
「うん」
照れたように笑いながら頷く。
「あれ?」
話しながら歩いていたら、柊がいなかった。
辺りを見渡す。
(どこ行ったんだろう) 人混みで逸れちゃったのかな。
少しして――。
「ごめん、逸れた」
柊が少し息を切らしながら戻ってきた。
「大丈夫?」
「人が多くて、なかなか戻れなかった」
「大丈夫だよ。すごい人だから」
「今度は逸れないように行こう」
「おぅ」
しばらく歩いていると、近くから声が聞こえてきた。
「ねぇ、女子高生が作った怪獣ソフビ、見た?」
「見た見た!」
「欲しかったんだけど、初日で完売だったんだって」
「また販売してほしいよね」
思わず凛は立ち止まる。
「……」
まだ信じられなかった。
夢中で作ったコスモとペタル。 子供の頃から憧れていた場所で、
自分の作品を知らない誰かが話題にしてくれている。
胸の奥がじんわり温かくなった。
「……嬉しいな」
小さく呟く。
すると柊は優しく笑った。
「そうだな、生の声聞けるのって本当嬉しいよな」
「凛が頑張ってきた結果だ」
凛は照れくさそうに笑う。
「ありがとう」
会場を出ると、冬の空気が頬を撫でた。
イルミネーションが街を優しく照らしている。
「これ、凛に似合うと思って」
柊は紙袋を渡した。
「えっ……」
「さっきの花の髪飾り」
「もしかして、さっきいなくなった時に買ってたの?」
柊は少し照れたように目を逸らす。
「……まあな」
「本当はもっといいやつ買いたかったんだけど」
「それ凄く欲しそうにしてたから」
「ありがとう、とっても嬉しい」
「つけてやるから、こっち向いて」
「うん」
「凄く似合ってる」 「可愛いよ」
「ありがとう」 「そんなにじっと見られると恥ずかしいな」
柊は少しだけ照れたように笑う。
「本当のことだから」
凛は思わず頬を押さえた。
恥ずかしい。
でも、不思議と心は満たされていた。
二人で、ゆっくりイルミネーションを眺めた。
「そろそろ」
「帰ろうか」
「うん」
歩き出そうとした時だった。
凛は少しだけ勇気を出して、小さく右手を差し出す。
「……手繋ぎたい」
柊は一瞬だけ驚いたあと、照れくさそうに笑う。
「しょうがないな」
そう言って、そっとその手を握った。
二人は顔を見合わせる。
少し照れて。
少し笑って。
恋人になったばかりの二人らしい、ぎこちない空気だった。
駅へ着く。
「じゃあ、また連絡する」
「うん」
別れようとした、その時。
柊は凛の肩を軽く引き寄せた。
「えっ……」
そう言って額に軽くキス。
「じゃあな」
照れ隠しで先に歩いていく。
凛は真っ赤になって、
「もう……」
と笑う。
額にそっと触れる。
冷たい冬の風が吹いていた。
それでも胸の奥は、不思議なくらい温かかった。
その夜。
凛は机に向かい、HAPPY NOTEを開く。
今日の日付を書く。
そして、小さく笑いながら、綴った。
『私の初恋は勘違いから始まった。』
『遠回りしたけど、本当に好きな人と出会えた。』
『今日、とても幸せでした。』
ページを閉じる。
恋も。
夢も。
どちらも大切な宝物になった。
――おしまい。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
凛と柊の恋、そしてコスモとペタルが多くの人へ届くまでの物語を、最後まで見届けていただけて本当に嬉しいです。
初めての学園ラブコメで試行錯誤の連続でしたが、皆さまの応援や感想に何度も励まされました。
少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。
また次の作品でお会いできる日を楽しみにしています。
本当にありがとうございました。




