第4話「好感度アップ作戦」
昼休み。
凛はノートを広げていた。
『夜咲先輩攻略計画』
その文字を見て、美琴が吹き出す。
「まだやってたの? 凛はマメだね」
「まだじゃないわ」
凛は真剣な顔だった。
「ここからが本番よ」
「まだ始まってなかったの?」
「この前、名前呼ばれて笑っただけだったよね」
「そうよ」
「あの王子に私は」
「名前を呼ばれたのよ!」
「うん」
「つまり」
凛はノートを指差した。
「第一段階クリアよ」
「日常じゃね?」
柊が即答した。
「日常じゃない!」
「特別なことなの!」
「でも」
「先生も毎日名前呼んでるけど」
美琴が言った。
「それはノーカウント!」
「自分ルールのゴリ押しだな」
柊は淡々と言った。
「来たわ」
校舎の廊下。
凛は柱の陰から前方を見つめていた。
「私達も隠れなきゃ」 美琴は嬉しそうに凛の隣へしゃがみ込んだ。
「えっ?俺も隠れんの?」
「なんのゲームだよ?」
「二人とも」 「私は隠れてないわよ」
「それを隠れてるって言うんだよ」
柊が即答した。
凛は二人を無視した。
視線の先には夜咲海斗。
友人たちと話しながら歩いている。
「いい?」
凛は小声で言った。
「今日は違うの」
「どうした?」
「作戦がある」
嫌な予感しかしなかった。
「今回は完璧よ」
凛は胸を張る。
「ただ挨拶する、それだけ」
「普通だな」
柊が言う。
「だから成功するのよ」
凛は深く息を吸った。
そして歩き出す。
一歩。
二歩。
三歩。
夜咲との距離が近づく。
心臓がうるさい。
(落ち着け)
(ただ挨拶するだけ)
(普通に)
(自然に)
夜咲がこちらを見る。
目が合った。
凛の思考が飛んだ。
「お、おはようございます!」
夜咲がきょとんとする。
そして笑った。
「こんにちは」
「もうお昼だよ」
「あっ」
凛は固まった。
「昼にも挨拶するタイプなんだ?」
夜咲は楽しそうに笑った。
「その勢いなら午後も頑張れそうだね」
「じゃあね」
そう言って去っていく。
凛はその場で立ち尽くした。
数秒後――。
「やったわ」
「何が?」
美琴が即座に聞いた。
「会話した」
「挨拶だろ?」
柊が言う。
「会話は会話なの!」
凛は勢いよく振り返った。
「それに夜咲先輩笑ってたし!」
「いつも笑ってるだろ」
「違うの!」
「今日は私に向かって笑ったの!」
柊はため息をついて言った。
「これは重要だな」
「おめでとうございますー」
美琴がぱちぱちと拍手する。
「馬鹿にしてるでしょ!」
「してないしてない」
美琴は笑った。
「むっ!」
凛は真っ赤になる。
その時だった。
廊下の向こうから声が飛んできた。
「真白さん」
凛の動きが止まる。
振り返ると、夜咲が立っていた。
「落としたよ」
夜咲はノートを差し出した。
表紙には大きく書かれている。
『夜咲先輩攻略計画』
凛は死んだ。
「これって――」
夜咲が何か言いかける。
「わああああああ!」
凛はノートを奪い取り、そのまま全力で走り去った。
「凛、待てよ」
「また先生に怒られるぞ」
「凛、待ってぇ」
「早いよぉ」
後ろで美琴たちの声が聞こえる
だが凛は振り返らなかった。
振り返れるわけがなかった。
その背中を見送りながら、夜咲は小さく笑う。
「本当、元気だな」




