第27話「好きなのかもしれない」
夏休が終り、数日経った日曜日の夜。
真白凛はベッドの上でスマホを握りしめていた。
眠れない。
AIのCHOPIに話しかける。
「これは何なのか教えて」
『はい、何でしょうか?』
「見る度にドキドキしたり、その人が妙に気になるのは何で?」
『特定の誰かが気になり、ドキドキする、と言う事ですか?』
「うん」
『それは恋です』
「違います」
『いいえ、間違いなく恋ですね』
「もういいわ」
アプリを閉じた。
やっぱり機械は人の気持ちはわからないのよ。
美琴に聞いてみよう。
画面にはトークアプリ。
相手は桜井美琴。
文章を打っては消す。
打っては消す。
『相談があるの』
送信。
数秒後。
『なになに!?♥』
早い。
まだ起きてたんだ。
凛は深呼吸した。
そして意を決して入力する。
『私』
『藤代のこと』
『好きなのかもしれない』
送信。
既読。
三秒。
五秒。
十秒。
返事が来ない。
珍しい。
『美琴?』
その瞬間。
着信。
「ひゃっ!?」
慌てて通話ボタンを押した。
『やっと気付いたの!?』
『遅ーい』
耳が痛くなるほど大きな声だった。
「ちょっ!」
「何よそれ!」
凛は布団を抱えた。
『だって海の時から怪しかったもん』
「海?」
『柊が美琴と話してるだけで変な顔してたし』
「してない!」
『してたの』
即答だった。
『花火の時も』
『写真見てる時も』
『本屋で夜咲先輩と一緒にいるの見た時も』
『全部分かりやすかったよ?』
「うっ」
反論できない。
『それで?』
美琴が少しだけ優しい声になる。
『好きなの?』
凛は黙った。
好き。たぶん。
その言葉を考えるだけで落ち着かない。
心臓が少しうるさい。
「……分からない」
正直に答えた。
「でも」
「気になるの」
「他の人と話してると気になるし、 一緒にいると安心するし、 最近、気付くと考えてる」
「一緒にいると安心するし」
「最近、気付くと考えてる」
『それは好きだね♥』
「でもまだわからないじゃない!」
凛は枕を抱きしめた。
顔が熱い。
『ふふっ』
『大丈夫だよ』
美琴は笑った。
『とりあえず明日、柊の顔見てこい♥』
その時。
時計を見る。
深夜だった。
『あ、そろそろ寝よっか』
『また明日学校でね♥』
「うん」「ありがとう」
通話が切れる。
凛はスマホを胸に抱えた。
「好き……か」
呟くだけで顔が熱くなる。
明日。
学校で柊の顔を見たら、どうなってしまうのだろう。
そんなことを考えてしまう自分がいた。
次の日。
「おはよう、昨日はありがとう」
「ううん、相談きて嬉しかったよ」
美琴は笑顔で言った。
教室の反対側から声が聞こえた。
凛はそちらを見る。
「ねぇ藤代くん」
柊の周りに女子が集まっていた。
「もうすぐ文化祭だよ」
「文化祭何するの?」
「一緒に回ろうよ」
「夏休みも全然遊んでくれなかったじゃん」
「誘われても面倒だったし」
柊はいつも通りだった。
だが女子達は全く気にしていない。
むしろ楽しそうだ。
凛は目を瞬いた。
「……ねぇ」
「ん?」
美琴が振り向く。
「柊って」
「うん」
「あんなに人気だったの?」
美琴はきょとんとした。
「知らなかったの?」
「でも大丈夫、心配しないの」
「え、うん」
「凛が夜咲先輩ー!ってなってた頃からずっと人気だよ」
凛は固まった。
「え?」
「えぇぇぇぇ!?」
ガーン。
頭の中で何かが崩れ落ちた。
「私だけ知らなかった……」
凛は机に突っ伏した。
その様子を遠くから見ていた柊が眉をひそめる。
「何やってんだあいつ」
「さぁ?」
女子達が首を傾げた。
「それより、次の休み遊び行こう」
「俺、休みの日はバイトと塾で時間ない」
「えぇー絶対嘘だよね」
その時だった。
教室の前の扉が開く。
「あれ?」
誰かが声を上げる。
そこにいたのは夜咲だった。
「夜咲先輩だ」
「美術部のポスター届けに来たんだって」
女子達がざわつく。
夜咲は女子に囲まれる柊を見た。
それから凛を見る。
状況を見て、ふっと笑った。
「なるほど」
「何がですか?」
近くの生徒が聞く。
夜咲は軽く息をついた。
「いや」
そして小さく呟く。
「真白さん、案外近くを見た方がいいのかもね」
「え?」
凛は顔を上げた。
意味がわからない。
夜咲はそれ以上何も言わなかった。
「なんでもない、皆またね」
夜咲は爽やかに帰って行った。




