第28話「嬉しいの理由」
昼休み。
「凛ー♥」
美琴が勢いよくやって来た。
「なによ」
「昨日の続き!」
「何の?」
「恋バナ♥」
「やめて」
凛は即答した。
顔が熱くなる。
昨日の電話を思い出すだけで恥ずかしかった。
「だって気になるじゃん」
「私は気にならない」
「嘘だぁ」「顔に出てるもん」
美琴はニヤニヤしている。
その時だった。
「あ」
美琴の視線が机の上で止まった。
「HAPPY NOTE?」
凛は慌ててノートを抱えた。
「見なくていいわよ」
「ちょっとだけ!」
「見せて」
「駄目」
「お願い♥」
だが一瞬遅かった。
「あっ外見て」
「何?」
凛は窓を見た。
「私の勝ちぃ♥」
美琴は素早くノートを奪う。
「あっ!」
美琴はページをめくる。
『おじいちゃんが作ったお面が祭りで評判だった。
私は嬉しかった』
『夜咲先輩におすすめの店を教えてもらった。
私よりも詳しいかもしれない』
『ハナコが膝に乗った。可愛くて、温かかった』
『美琴が新しい髪型を気に入っていた。とても似合ってて、私も嬉しかった』
美琴の手が止まる。
「ふーん」
「返して」
「ちょっと待って」
『美琴が嬉しそうにしてると、私も自然と嬉しくなる』
『いつもありがとう美琴』
静かになった。
「何よ」
凛が言う。
美琴はノートを閉じた。
「凛ってさ」
「うん」
「昔から人のこと好きだよね」
「は?」
意味がわからなかった。
「何言ってるの?」
「だってそうじゃん」
美琴はノートを指差した。
「これ全部」
「どれ?」
「人のことばっかり」
凛は首を傾げた。
美琴は続ける。
「おじいちゃんが喜んだ」
「ハナコが可愛かった」
「私のこととか」
「そういうのばっかり」
凛はノートを見た。
言われてみればそうかもしれない。
「普通じゃない?」
「普通なら自分が楽しかったこと書くんじゃないの?」
美琴は笑う。
「でも凛、自分では気付いてないんだなって思って」
「何に?」
「人が好きなこと」
凛は少し考えた。
よく分からない。
そんなことを意識したことがなかった。
「別に」
「またそういう顔する」
「どういう顔よ」
「分かってない顔」
美琴はケラケラ笑った。
その時だった。
教室の後ろから声が聞こえる。
「柊、聞いてんのか?」
「聞いてる」
柊は男友達と楽しそうに笑っていた。
「あ」
美琴が小さく笑う。
「なによ」
「今見た」
「見てない」
「見たよ」
凛は目を逸らした。
美琴は机に肘をつく。
「ねぇ凛」
「なによ」
「たぶんさ」
少しだけ優しい声だった。
「皆が好きなのと」
「藤代が気になるのは」
「ちょっと違うと思うよ」
「凛ってさ」
「嬉しいことを見つけるの上手いじゃん」
「でも最近」
「藤代のことになると嬉しいより先にドキドキしてる気がする」
凛は何も言えなかった。
心臓が一回だけ強く跳ねた。
その瞬間。
教室の後ろで柊と目が合った。
「っ!」
凛は慌てて視線を逸らした。
机の上のノートを見る。
『嬉しかったことを書く』
それがルールだった。
放課後。
新しいページを開く。
少し考える。
ペンが止まる。
『柊と目が合った』
その先は書けなかった。
顔が熱かった。




