第23話「同じ顔」
海から帰って数日。
凛はまだあの日のことを思い出していた。
スマホの写真フォルダを開く。
青い海。 はしゃぐ美琴。 変な顔をしている柊。 そして優しく笑う夜咲先輩。
「……楽しかったな」
気付けば何度も見返している。
その時だった。
『暇ー! 行っていい?』
美琴からメッセージが届いた。
「暇なのね」
凛は苦笑しながら返信する。
『どうぞ』
既読は一秒で付いた。
『やったー!』
「早っ」
それから十分後。
ピンポーン。
本当に来た。
「お邪魔しまーす!」
勢いよく入ってきた美琴は、凛のベッドへダイブした。
「人の家をなんだと思ってるのよ」
「実家みたいなもの」
「違うわよ」
美琴はごろごろ転がりながら言った。
「それで?」
「何よ」
「夜咲先輩のこと」
凛は無言でクッションを投げた。
「ぶふっ!」
「会って三秒でそれ!?」
「いいじゃん」
美琴は天井を見上げた。
凛はスマホを手に取る。
海で撮った写真を見せた。
「ほら」
「おおー」
美琴が身を乗り出した。
「綺麗」
青い海。
笑っている四人。
砂浜。
かき氷。
夕焼け。
どれも楽しかった記憶ばかりだ。
「あ」
美琴が一枚の写真を止めた。
「これ」
「?」
「凛、先輩しか見てなくない?」
「え?」
凛は画面を見る。
確かに。
集合写真なのに。
自分だけ夜咲先輩の方を向いて笑っていた。
「たまたまでしょ」
「青春してるねぇ」
美琴は意味深に笑いながら、画面をスワイプした。
「あ、これも」
「だから違うって」
「何これ?」
次の写真。
柊が変顔をしている一枚。
その隣で、凛が笑っている。
普通の笑顔のはずなのに——
「これ、さっきの先輩の写真と、同じ顔してるよ」
「は!? してないし!」
「してるしてる」
美琴は楽しそうにスマホを覗き込む。
「凛って、笑い方そんなに種類ないんだね」
「茶化さないで」
凛はスマホを取り返した。
顔が熱い。
「ふふ」
美琴は満足げにごろんと転がった。
そして、また少し考えるような顔をした。
「……やっぱり」
「な、なに」
「ううん。やっぱり何でもない」
「絶対なんかあるでしょ」
「ないってー」
美琴はわざとらしく目を逸らした。
その顔は、さっきよりもっと怪しい。
凛はジト目で美琴を見る。
美琴はさっさと話題を変えてスマホを見た。
「そういえば」
『夕凪市花火大会開催決定』
の広告が表示されていた。
「ねぇ、来月花火大会だって」
凛にスマホを見せた。
「本当だ、あるわね」
「行きたいなぁ」
「友達と行けば?」
「行く相手いないもーん」
「嘘つき」
「たくさんいるでしょ」
凛は即答した。
美琴は友達が多い。
誘えば誰かしら来る。
美琴はわざとらしく頬を膨らませた。
「えー」
「花火大会かぁ~。誰かイケメン誘ってくれないかな~」
「棒読みよ」
「残念」
美琴は笑った。
その笑顔を見ながら、凛はふとさっきの言葉を思い出す。
『これ、さっきの先輩の写真と同じ顔してるよ』
(そんなわけないでしょ)
そう思うのに。
なぜか柊の変顔の写真が頭に浮かんだ。
(ただの友達だし)




