第21話「見慣れた横顔」
「綺麗な海だー!」
美琴が真っ先に走り出した。
「美琴待って!」
凛も慌てて追いかける。
波打ち際。
足が海水に触れた瞬間。
「冷たっ!」
思わず声が出た。
「気持ちいいー!」
美琴はそのまま海へ突撃する。
「元気だな」
柊が呆れたように言った。
「夏の海だからね」
夜咲先輩は笑っている。
その時だった。
バシャッ。
「きゃっ!」
凛の足元に水しぶきが飛んだ。
「美琴!」
「やったわね」
「えへへ」
「お返しよ!」
凛も海水をすくう。
バシャッ。
「冷たーい!」
砂浜に笑い声が響いた。
しばらくして。
四人はビーチボールで遊んでいた。
「真白さん!」
夜咲先輩がボールを上げる。
「はい!」
凛は飛び付く。
「わっ」
足を取られた。
体が前へ傾く。
転ぶ。
そう思った瞬間。
腕を掴まれた。
「危ない」 顔を上げる。
夜咲先輩が少し心配そうな顔をしていた。
「怪我してない?」
「だ、大丈夫です」
心臓がうるさい。
「ありがとうございます」
慌てて離れる。
すると。
「だから無理するなって」
反対側から声がした。 柊だった。
「見てて危なっかしいんだよ」
「なによ」
「事実だろ」
「砂浜だったからだし」
「いつもならこうなってないわ」
むっとする。
「お前、自分で思ってるより周り見えてないし」
「普段の道でも、転んでただろ」
「そんなことないわよ」
「転ばないわよ!」
「どうだか」
「失礼ね!」
柊は小さく肩をすくめた。
「まぁ、怪我してないならいいけど」
なぜか、いつものやり取りに少しだけ安心した。
昼過ぎ。
四人は売店近くのベンチで休憩していた。
「生き返るー」
美琴がアイスを頬張る。
「遊び過ぎなんだよ」
柊が言う。
「だって海だよ?」
「そうだけど」
「最後まで体力持つのか?」
「海が私を呼んでるの」
意味が分からない。
柊は呆れていた。
夜咲先輩は笑っている。
その光景を見て。
凛もつられて笑った。
「写真撮ろうよ!」
突然、美琴がスマホを取り出した。
「え?」
「記念!」「写真撮ろうよ!」
四人で並ぶ。
美琴がスマホを構える。
「いくよー!」
気付けば柊が隣だった。
「凛もっと寄らないと、入らないよ」 美琴がスマホを構えたまま言う。
肩を軽く引かれる。
(近い……)
パシャ。
みんな笑っていた。
「楽しかったね」
凛は海を見ながら呟いた。
本当に楽しかった。
夜咲先輩もいた。
美琴もいた。
柊もいた。
ふと。 視線の先で。
柊が美琴と話していた。
二人とも楽しそうに笑っている。
仲が良いのは昔から知っている。
幼なじみ同士だ。
なのに。
なぜか少しだけ胸の奥がもやついた。
(……なんで?)
自分でも理由は分からない。
波の音が静かに響く。
夏の日差しは、まだ高かった。




