第20話「遂にこの日が来てしまった」
「着いたー!」
美琴が真っ先に海へ駆け出した。
青い海。
白い砂浜。
どこまでも続く水平線。
夏の日差しが海面に反射して眩しい。
「すごい……」
凛は思わず呟いた。
海なんて久しぶりだった。
「天気も最高だね」
夜咲先輩が笑う。
「はい」
凛も自然と笑顔になった。
「じゃあ着替えようか」
その一言で男女に分かれる。
更衣室。
「うわー!」
美琴が声を上げた。
「やっぱり可愛い!」
「そうかな?」
凛は鏡を見た。
淡い水色のワンピース水着。
その上に白のシースルーパーカー。
露出は控えめ。
「変じゃない?」
「変じゃない」
「本当に?」
「うん」
美琴は即答した。
「むしろ凛っぽい」
「そう?」
「だから大丈夫」
美琴は満足そうに頷いた。
「夜咲先輩も絶対褒めるよ」
「だからそういう話じゃないもん!」
凛は顔を赤くした。
更衣室を出る。
男子二人はすでに待っていた。
「お待たせ」
夜咲先輩が振り向く。
そして少し目を見開いた。
「似合ってるね」
「えっ」
凛の動きが止まる。
「水色、真白さんに合ってると思う」
優しく笑われた。
心臓が跳ねる。
「あ、ありがとうございます」
声が少しだけ小さくなった。
「ほらね!」
美琴が横から騒ぐ。
「言ったじゃん!」
「聞こえちゃうじゃん」
凛は慌てて肘で小突いた。
「美琴も似合ってるね」
夜咲先輩が笑う。
「でしょー!」
美琴はその場でくるりと回った。
その時だった。 視界の端で柊がこちらを見ていた。
「何よ」「そんなじっと見て」
凛が聞く。
「別に」「見てねーし」
即答。
「見てたじゃない」
「何か言いなさいよ」
柊の目の前に凛は立った。
「そんな堂々と立たれると、目のやり場に困るだろ」
凛は自分の格好を見下ろした。
「ご、ごめん」
そう言って柊は視線を逸らした。 なぜか耳が少しだけ赤い。
「海は熱いなぁ」
その横顔を見ていると、なぜか少しだけ胸がむず痒くなる。
理由は分からない。
ただ、さっきの言葉は嘘だった気がした。
「よし!」
美琴が両手を叩いた。
「海だー!」
「その前に」
夜咲先輩がバッグを開く。
「日焼け止め」
「あ」
凛は固まった。
完全に忘れていた。
「持ってきた?」
「持ってきたけど……」
「塗らないと焼けるよ」
「うっ」
正論だった。
「じゃあ私が塗ってあげる!」
美琴が手を上げる。
「え?」
「背中」
「ちょっ」
「ほらほら」
逃げる間もなく捕まった。
「冷たい!」「くすぐったい」
「我慢しろー!」
「美琴こそ!」
美琴の体にも日焼け止めを塗る。
砂浜に笑い声が響く。
夜咲先輩も楽しそうに笑っていた。
「藤代は塗った?」
「塗りました」
「背中は?」
「適当に塗りました」
「焼けないようにUVカットのパーカー着てるし」
「じゃあ他は塗らないのか」
「先輩だってパーカー着てるじゃないですか」
「わかってたのか」
夜咲先輩が少し驚いたように言う。
「よく見てるね」
「よくもなにも見れば分かるでしょ」
夜咲先輩はくすりと笑った。
「じゃあお腹塗ろうか?」
そう言って一歩近付く。
「一つ上。ただそれだけで悪ふざけが許されると思わないでください」
柊は即座に後退した。
「逃げるなよ」
「嫌ですよ」
夜咲先輩が追いかける。
柊が逃げる。
「追いかけっこしてるね」
凛は呆れた。
「あの二人、いつの間にか仲良くなったよね」
美琴が笑う。
「男子って距離詰めるの早いのかもね」
「うん、そうかも」
凛も思わず笑った。
「柊も楽しそうね」
「そうだね」「浜辺で追いかけ合う、青春の一ページみたい♥」
「普通は男女でやるものじゃない?」
美琴が笑った。
「そうね、私たちも大概ね」 凛も笑った。
なんだかんだ。 この四人でいる時間は楽しい。
海風が吹く。
波の音が聞こえる。
その時。 ふと視線が合った。
柊がすぐに目を逸らす。
「?」
変なの。
さっきからなんだか様子がおかしい。
でも。
『目のやり場に困るだろ』
その言葉を思い出すと、少しだけ顔が熱くなった。
なぜか少しだけ気になった。
夏はまだ始まったばかりだった。




