第19話「水着選びは戦いである」
翌日。
「暑い……」
駅前へ向かいながら凛はぼやいた。
朝十時。
夏の日差しは容赦がない。
そして何より。
「なんで私まで……」
今日の目的地。
ショッピングモール。
理由はただ一つ。
海用の水着を買うためだった。
「お待たせー!」
元気よく現れた美琴はすでに夏全開だった。
白のTシャツ。
ショートパンツ。
サングラスを頭に乗せている。
「気合い入ってるわね」
「当然でしょ!」
美琴は凛の肩を掴んだ。
「今日は勝負の日だから!」
「何の勝負よ」
「夜咲先輩との海!」
「だから違うって!」
「美琴と柊もいるでしょ」
そのまま水着売り場へ。
凛は開始五分で後悔した。
「無理」
「早いなぁ」
「だって、こんな可愛すぎるの似合わないもん」
目の前には色とりどりの水着。
フリル。
リボン。
レース。
露出。
「それに、布少なくない!?」
「普通だよ」
「普通じゃない!」 「防水になってる下着と同じじゃん!」
「はははっ」 「昔から水着はこういう物でしょ」
「知ってるわよ!」 「例えよ!」
「これなんかどう?」
美琴が一着取り出した。
ピンクのビキニ。
「こっちは?」
「却下!」
即答。
「じゃあこれ」
「却下!」
「これ」
「却下!」
「面倒くさいな!」
結局。
凛が選んだのは淡い水色のワンピース水着だった。
「えーなんで?」
「可愛いじゃん」
美琴が言う。
「そう?」
「凛っぽい」
鏡を見る。
悪くない。
むしろ気に入った。
少しだけ安心した。
だが。
次の瞬間。
ふと考える。
夜咲先輩はどう思うだろう。
その考えに自分で驚いた。
「……」
「何? どうしたの?」
「別に」
慌てて目を逸らす。
だが美琴は見逃さない。
「今先輩のこと考えたでしょ」
「考えてない!」
「顔に書いてある」
「書いてない!」
試着室から出た時だった。
美琴が突然言った。
「そういえばさ」
「ん?」
「柊なら何て言うと思う?」
「え?」
意味が分からない。
「その水着見たら」
「知らないわよ」
即答した。
なのに。
頭の中では簡単に想像できた。
『別に似合ってんじゃね』
そんな声が頭に浮かぶ。
思わず少しだけ笑ってしまった。
「何?」 美琴が不思議そうに聞く。
「別に」
自分でも理由はわからなかった。
「ほら」
「今考えた」
美琴は笑って鏡越しに凛を見た。
何か考えている顔だった。
「考えてない!、気のせいだわ」
買い物を終えて帰る頃には夕方になっていた。
「皆で海、楽しみだね」
美琴が言う。
「そうね」
凛も頷く。
夜咲先輩と海。
考えるだけで少し緊張する。
だけど。
なぜだろう。
頭の片隅には。
『別に似合ってんじゃね』
そんな想像の声が残ったままだった。




