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『かかって来い、私の初恋!~』 『これが恋だって、気づかなかった。』   作者: 季波


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18/31

第18話「胸の奥のノイズ」

翌日。 登校日。

教室へ入った瞬間だった。

「凛ぃぃぃぃ!!」

勢いよく抱きつかれた。



「ちょっ、美琴!?」



「どうだったの!?」



「何がよ!」



「夜咲先輩とのデート!」

教室中に響きそうな声だった。



「デートじゃないわよ!」

凛は慌てて口を塞ぐ。

「ソフビ案内しただけ!」



「実質デートじゃん!」



「違う!」



「違わない!」



朝から騒がしい。

近くの席では柊が頬杖をついていた。

「元気だな」

呆れたような声。



「柊も気になるでしょ!?」



「別に」

即答だった。



「つまんない男」



「ほっとけ」



美琴は再び凛へ向き直る。

「それで!?」

「何話したの!?」

「どこ行ったの!?」

「手は繋いだ!?」



「繋いでない!」

凛は真っ赤になった。

「普通にソフビ見て回っただけ!」



「でも楽しかったんでしょ?」



「……まあ」

少しだけ口元が緩む。



その反応を見て美琴は机を叩いた。

「ほらぁぁぁ!」

「絶対楽しかったじゃん!」



「うるさい!」

凛は慌てて否定する。

だが昨日を思い出すと否定しきれなかった。

夜咲先輩は優しかった。

話しやすかった。

怪獣の話も楽しかった。

自然と頬が緩んでしまう。



「顔」

柊がぼそっと言った。



「え?」



「緩んでる」



「なっ!?」

凛は慌てて顔を隠した。



美琴は爆笑している。



「凛はもう!」

「完全に恋する乙女じゃん!」



「違うってば!」

そんな騒ぎのまま登校日は終わった。



放課後。

「じゃあ帰るか」

柊が鞄を持ち上げる。



その時だった。

「真白さん」

聞き慣れた声。

振り返る。

そこにいたのは夜咲先輩だった。



「あ」

凛の背筋が伸びる。

「夜咲先輩」



「この前はありがとう」

穏やかな笑顔。



それだけで少し緊張する。

「い、いえ」



「俺も楽しかったよ」



心臓が跳ねた。

その言葉に凛は思わず固まる。

横を見る。



美琴が口を押さえて震えていた。

そして目だけで訴えてくる。

(言った!)

(楽しかったって言った!)

顔に全部書いてあった。



「こんにちは」 夜咲先輩は柊にも軽く会釈した。



「どうも」

柊も短く返した。



そのまま立ち話になりかけた時。

美琴がぱんっと手を叩いた。

「立ち話もなんですから!」

「せっかくだしお茶しません?」



「え?」

凛が固まる。



「近くにカフェありますし!」



「いいの?」

夜咲が笑う。



「もちろんです!」



返事が早い。

数分後。

四人は駅前のカフェにいた。

窓際の席。

凛の隣には夜咲先輩が座った。



向かいには美琴と柊。

なぜか美琴が満足そうな顔をしている。

飲み物が運ばれてくる。



「夏休み満喫してる?」

夜咲が聞く。



「してます!」

即答したのは美琴。

「凛はソフビばっかりですけど」



「余計なこと言わないで」



「事実じゃん」



「私の話はいいの」



夜咲が笑った。

その時。



「そういえば」

美琴がストローを咥えながら言う。

「海行きたいんですよねー」



「海?」



「はい!」

「夏と言えば海!」



美琴の目が輝いている。

絶対何か企んでいる。

「でも一緒に行く人いなくてー」

わざとらしい。



凛は額を押さえた。



「なら」

夜咲が言った。

「みんなで行く?」



一瞬。

凛の思考が止まった。

「え?」



「夏だし楽しそうじゃない?」



美琴が勢いよく身を乗り出した。

「行く!」



「早いな」

柊が呆れたように言う。



「柊も来るでしょ?」

「来るよね?」



「まぁ」

「別にいいけど」



夜咲がスマホを取り出した。

「来週の水曜日なら空いてるけど」



「私は大丈夫です!」

美琴が即答する。



「聞いてない」

柊がぼそりと言った。



「柊は?」



「大丈夫」

短い返事。



そして夜咲の視線が凛へ向く。

「真白さんは?」



「えっ!?」

突然振られて声が裏返った。

「す、水曜日なら大丈夫です!」

慌てて答える。



夜咲は優しく笑った。

「じゃあ来週の水曜日で」

「決まりだね」



凛だけが状況についていけなかった。

夜咲先輩。

海。

一緒に。

頭の中で言葉がぐるぐる回る。



隣では美琴がにやにやしている。

絶対に何か企んでいる顔だった。



帰り道も、凛はどこか上の空だった。

夏休みの予定が一つ増えた。

凛の頭の中は海のことでいっぱいだった。

――そのはずなのに。



ふと浮かんだのは。

カフェで窓の外を眺めていた柊の横顔だった。

「……何なのよ」

自分でも意味が分からない。



夜咲先輩と海へ行くことになった。 それなのに、胸の奥が少しだけ落ち着かなかった。



ブブッ。

『明日水着買いに行くよ』

『駅前十時集合』

『拒否権なし』

美琴からだった。



思わず笑ってしまう。

「なんで決定事項なのよ……」

そう呟きながらスマホをしまう。



けれど。

胸の奥に残った小さな引っ掛かりだけは消えなかった。

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