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『かかって来い、私の初恋!~』 『これが恋だって、気づかなかった。』   作者: 季波


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第17話「塗料がない」

翌日。

真白凛は部屋の棚を開けた。

「よし」

昨日は楽しかった。

夜咲先輩とソフビショップを巡った。

気になっていた作品も見られたし、怪獣の話もたくさんできた。

思い出すだけで少しだけ頬が緩む。



だが。

じっとしていると落ち着かなかった。

棚の奥からケースを取り出す。

中には素体のスターリィ・レックス。 まだ未完成だ。



目も入っていない。

塗装もしてない。

でも、もう名前は決めていた。



本当に好きな人ができたら完成させたい。 そんな願掛けみたいな気持ちで作り始めた怪獣だった。



「少しくらい進めてもいいわよね」

凛は塗料ケースを開いた。

そして固まる。

「……あれ?」

もう一度見る。

ない。



水色とパールホワイトがない。

残っているボトルを振る。

カラカラ、と情けない音が鳴った。

「嘘でしょ」

祖父の工場を借りる約束までしていたのに。



一番使う色が足りなかった。

凛は額を押さえる。

「買いに行かなきゃ……」



駅前。

模型店へ向かう途中、凛はコンビニへ立ち寄った。

暑い。



飲み物くらい買いたかった。

ペットボトルを手に取ってレジを済ませる。

そして店を出た瞬間だった。

「あれ?」

見覚えのある後ろ姿が目に入る。



コンビニ横のベンチ。

アイスを食べながらスマホを眺めている男子生徒。

「柊?」

呼ぶと顔が上がった。



「ん?」



「何してるの?」



「アイス食ってる」



「見れば分かるわよ」

即答だった。



柊は少しだけ笑う。

「お前こそ何してんだ」



「塗料買いに行く途中」



「また怪獣か」



「またとは何よ」

「いいでしょ、好きなんだから



「怪獣が好きねぇ」



「悪い?」



「別に」

「好きなもんがあるのはいいことだろ」



興味があるのかないのか分からない返事だった。

少し沈黙。

風が吹く。



柊がアイスをかじった。

そして何気ない声で聞く。

「昨日どうだったんだよ」



「え?」



「夜咲先輩とソフビ案内したんだろ?」



心臓が跳ねた。

「な、何よ突然」



「別に」

「聞いただけだよ」



だが凛は気付かない。

「楽しかったわよ」

自然と口元が緩む。

「ソフビいっぱい見れたし」

「先輩優しかったし」

「話しやすかったし」

言いながら思い出す。

昨日の時間。

本当に楽しかった。



「ふーん」

柊は短く返した。



「何よその反応」



「いや」

「よかったじゃん」



それだけだった。

「柊は何してたの?」



「俺?」



「うん」



「ゲームしてた」



「そうなんだ」



「なんだよ、その顔」



「別に」

「つまんなそうな顔してるけど」



「してねぇよ」

アイスが少し溶れて手についた。

柊は気付いていない。

「先輩と遊んでたんだろ」

「俺と違って充実してたじゃん」



「なによ、その言い方」



「普通だろ」

柊はアイスの棒を見つめる。

「じゃあな」



「うん」



柊は手をひらひら振りながら去っていった。



(……何だったのよ)



別れてから数十分後。

凛は祖父の工場にいた。

机の上にはスターリィ・レックス。

買ってきた塗料も並んでいる。

「さて」

塗料をセットして、

エアブラシを手に取る。

塗装を始めようとして。

ふと手が止まった。



昨日の夜咲先輩。

今日の柊。

なぜか。

思い出したのは柊の方だった。



『よかったじゃん』

そう言った時の柊の顔が浮かぶ。

別に変なことは言っていない。

なのに、なぜか引っかかる。



「……何なのよ」

凛はエアブラシを置いた。

本当に好きな人ができたら完成させる。



そんな願掛けで作り始めた怪獣。

ふと。

柊の顔が頭をよぎる。

「いやいやいや」

凛は慌てて首を振った。

「何考えてるのよ私」



考えても分からない。

分からないまま。

未完成のスターリィ・レックスを見つめる。

「まあ、いいか」

そう呟いて。

凛は静かにエアブラシを吹き付けた。



明日は登校日だ。

「美琴に話したら絶対うるさいだろうな」

そう思うと少しだけ笑えた。

夜咲先輩のこと。 そして今日の柊のこと。 話したいことは山ほどあった。

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