第16話「最後に浮かんだ顔」
この時間が、もう少しだけ続けばいい。
凛は、そんなことを思っていた。
「真白さん?」
夜咲の声に、はっと顔を上げる。
「すみません」
凛は慌てて首を振った。
「何でもありません」
そう答えたけれど。
胸の奥のざわつきは、しばらく消えなかった。
「そろそろ帰ろうか」
「はい」
「駅まで送るよ」
「大丈夫です」
夜咲は少し笑った。
「今日、案内してもらったお礼に送らせて」
「今日はありがとう」
「こちらこそ」
「本当に楽しかったです」
「今度はソフビ以外の好きな物も教えてよ」
「今度?」
思わず聞き返す。
「だめ?」
夜咲は困ったように笑った。
「まだ知らない真白さん、結構いそうだし」
凛は一瞬言葉に詰まった。
どう答えればいいのかわからない。
だけど。
「……考えておきます」
そう言うと、夜咲は少し嬉しそうに笑った。
駅に着くまでの道は、不思議なくらいあっという間だった。
改札の前で立ち止まる。
「それじゃあ」
「はい」
少しだけ沈黙が落ちる。
「案内してくれてありがとう」
夜咲はそう言って笑った。
「また連絡するね」
「……はい」
凛は小さく頷く。
手を振る夜咲に頭を下げて、改札を抜けた。
楽しかった。
本当に幸せな時間だった。
今日のことは、しばらく忘れられそうにない。
電車に揺られている間も、夜咲との会話を思い返していた。
そして、家に着いた。
それなのに。
ふと、柊の顔が浮かぶ。
今日は何をしていたんだろう。
どうしてそんなことが気になるのか。
凛にはわからなかった。




