第15話「開封の儀」
凛と夜咲は近くのカフェに入っていた。
窓際の席に案内される。
メニューを開いた凛は、数秒で指を止めた。
「決まりました」
「早いね」
夜咲が少し笑う。
「はい」
自信満々に頷く。
二人は注文した。
数分後。
運ばれてきたのは、艶のある固めプリンだった。
「プリンです」
凛は満足そうに言った。
「見ればわかるよ」
「好きなんです」
目の前には固めプリンとミルクティー。
艶のあるカラメル。 丸いフォルム。
見ただけで幸せだった。
「昔からプリンは裏切りません」
「そんなに信頼してるんだ」
「はい」
凛は真剣に頷いた。
夜咲は少し笑う。
その前にはチーズケーキとアールグレイ。
「そういえば」
「さっき聞こうと思ってたんだけど」
「はい?」
「真白さんって、怪獣以外だと何が好きなの?」
「えっと」
「日記です」
「日記?」
「嬉しかったことだけ書くんです」
「嫌なことは?」
「書きません」
「忘れます」
「そうなんだ」
「意外だね」
「怪獣の話してる時とは、また違うな」
夜咲は笑った。
「それじゃあ」
「先に開ける?」
夜咲がテーブルの上の箱を見る。
「もちろんです」
凛の目が輝いた。
ブラインドボックス。
買った瞬間から始まる戦い。
何が出るかわからない。
それが楽しい。
「開封の儀です」
凛はバッグをごそごそ漁った。
取り出したのは、小さなペン型のレターオープナーだった。
「儀式なんだ」
夜咲が瞬く。
「それ、持ち歩いてるの?」
「当然です」
「ブラインドボックスは丁寧に開けたいので」
「夜咲先輩、先に開けます?」
「じゃあ先に借りるね」
夜咲は笑いながら箱を開ける。
ぺり。
中の袋を取り出す。
中身はまだ見えない。
凛も慌てて自分の箱を開けた。
心臓が少し速い。
「せーので開けます?」
「いいよ」
二人は袋を持つ。
そして――。
「せーの」
ぱりっ。
袋が開いた。
「おっ」
夜咲が小さく声を上げる。
出てきたのはドーナツ怪獣だった。
丸い胴体。 チョコレート色のコーティング。
頭にはカラースプレーみたいな角が生えている。
「可愛い」
夜咲が言った。
凛は思わず固まった。
「えっ」
「可愛い?」
「そんなに驚く?」
「いや」
凛は箱を抱えた。
「最初の感想が可愛いだったので」
「違った?」
「違わないです」
むしろその通りだった。
「よかった」
夜咲は嬉しそうだった。
凛は自分の袋を見る。
そっと開く。
出てきたのは――。
「やった!」
思わず立ち上がった。
小さなダルマ怪獣。
黄色と紫の体。 丸い青い目。
シリーズの中でも人気の一体だ。
「当たりです!」
「そんなに?」
「そんなにです!」
凛は即答した。
夜咲が笑う。
「真白さん、本当に楽しそうだね」
その言葉に。
凛は少しだけ動きを止めた。
楽しそう。
そうかもしれない。
好きなものの話をして。
好きなものを見て。
一緒にわくわくして。
気付けばずっと笑っていた気がする。
「……楽しいです」
ぽつりと言う。
夜咲は優しく笑った。
「よかった」
その一言だけだった。
なのに。
なぜだか胸の奥が少しだけくすぐったい。
凛は慌てるようにプリンへ視線を逃がした。
「いただきます」
スプーンを持つ。
一口食べる。
甘い。
落ち着く。
「どう?」
夜咲が聞く。
「やはり」
「裏切りませんでした」
「凄く幸せそうに、食べてたもんね」
夜咲は吹き出した。
凛もつられて笑う。
「俺のチーズケーキも美味しいよ」 「一口どう?」
「えっ」
凛は一瞬固まった。
「じゃあ交換で」 夜咲は取り皿に小さく取り分けた。
「……いただきます」
一口。
「美味しい」
「でしょ?」
夜咲が笑った。
「色んな真白さん見れて楽しかったな」
「……私も楽しかったです」 と言った瞬間、自分で少し驚いた。
夜咲も少し意外そうに目を丸くして、それから笑った。
窓の外では夕方の光が少しずつ傾き始めていた。




