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『かかって来い、私の初恋!~』 『これが恋だって、気づかなかった。』   作者: 季波


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14/21

第14話「約束の日」

約束の日。

凛は鏡の前で固まっていた。

髪を整える。少しだけ色付きリップをつけた。

「……」

薄いグレーのカーディガンに、淡い水色のレース付きワンピース。肩にはパステルブルーのエナメルポシェットを掛け、足元は白いスニーカー。数日前に買ったばかりの服だ。



試着した時も落ち着かなかったが、実際に着て出かけるとなるとさらに落ち着かない。



鏡の中にいるのは自分のはずなのに、どうにも見慣れなかった。

「変じゃない?」

誰もいない部屋で呟く。



三秒後。

スマホを取り出した。

写真を撮る。

美琴へ送信。

『変じゃない?』

返信は一分もかからなかった。



『可愛いから絶対大丈夫!』

『初デート頑張ってね♥』

『後でデートの感想教えてね』



ブゥン。スマホが鳴った。

柊からだった。

『遅くなるなら連絡しろよ』

それだけだった。



「……何よ」 思わず口元が緩む。 柊らしいメッセージだった。



だが少し安心した。

深呼吸を一つ。

「よし」

凛は家を出た。


―――――

待ち合わせ場所。

駅前。

土曜日ということもあって人が多い。

凛は落ち着かないまま時計を見た。

約束の十分前。

早く来すぎた。



「うぅ……」

やっぱり変じゃないだろうか。

来る途中だけでもガラスに映る自分を五回は確認した。

その時だった。



「真白さん?」

聞き慣れた声。

凛は反射的に振り返った。

そこには夜咲がいた。

私服姿。



学校で見る制服とは少し雰囲気が違う。

「あ」

凛の思考が止まる。

(私服もカッコいい)



夜咲の視線が一瞬だけ止まった。

そして少し目を丸くする。

「……あれ?」



心臓が跳ねた。

「な、何ですか」



「いや」

夜咲は笑った。

「すごく似合ってる」



停止。

完全停止。

凛の脳が固まった。

「え」



「その服」

「すごく可愛いよ」



「っ!?」

顔が熱い。

可愛いって言った。

たぶん今なら湯を沸かせる。

ソフビ屋の案内に来た、それだけよ!

「ど、どうも」

何とかそれだけ絞り出した。



夜咲は少し不思議そうだった。

「緊張してる?」



「してません!」

即答だった。



「そっか」

全然信じていない顔だった。



―――――

最初に向かったのは駅前のホビーショップだった。

店内へ入った瞬間。

凛の緊張は少し消えた。



「まずここは定番です」

「初心者向けも多いし」

「中古もあるし」

「イベント限定品が流れてくることもあるんです」 「でも人気作家さんのは、イベントで買うより高値が付いちゃって」 「全然手が出なかったりするんですよね……」



説明が始まる。

夜咲は笑った。

「いつもの真白さんだ」



「ふぇ?」



「学校でも怪獣の話してる時、そんな感じだから」



凛は少しだけ照れた。

「だって好きなので」



「うん」

夜咲は頷いて、笑った。

「それが伝わる」



店内を見て回る。

怪獣。

ヒーロー。

インディーズソフビ。

ガラスケース。

限定カラー。



気付けば凛は夢中になっていた。

「これ見てください」

「この塗装すごいんですよ」

「パールでグラデーションになってて」

「あとこっちの塗装は、ネオンカラーになってるのもあります」

「派手で可愛い」



「へぇ」

「本当だ」

「中に何か入ってるのもあるんだね」

夜咲も興味深そうに見ている。



「そうなんです」

「クリアカラーは中が見えるから、中にホログラムだったり、

オーロララメが入ってたり、振ると音がするものもあります」



無理して合わせている感じではなかった。

それが少し嬉しかった。



「あっこれ」

「ブラインドボックスだっけ?」

「記念に買ってみようかな」



「えっ」

「ブラインドボックスは危険なんです」



「危険?」



「はい」

「私も一個だけのつもりでした」

「でも増えました」

「棚も埋まりました」

「お財布も軽くなりました」

「なのでおすすめしません」



「そんなに?」



「そんなにです」



「でも可愛いね」



「可愛いんです」



「実際に見ると、本当に可愛いんです」

凛は思わず箱を両手で持ち上げた。


「それなら」

「真白さんのおすすめ教えてよ」



「えっと、こっちです!」

凛は即座に箱を手に取った。

「このシリーズ、ソフビが流行る前から活動してる作家さんなんです」



「見た目がコロンとして可愛くて」

「しかも箱玩具なのに塗装も綺麗で」

「食べ物怪獣とダルマ怪獣が人気なんです」



「箱ガチャやブラインドボックスは、ほとんど再販しないんです」

「だから見つけたら買いです」



「熱量がすごい」

夜咲が思わず笑った。

「おすすめなんだね」



「おすすめです」

即答だった。

「ちなみに私は三箱買いました」



「三箱」

「本当は六箱欲しかったんですけど」



夜咲は思わず笑った。

「怖いなぁ」

「そんなに好きなんだ」



「好きなシリーズはコンプしたかったんです」



「コンプ?」



「全種類集めることです」



「ああ」

夜咲は箱を眺めた。

「これ何種類あるの?」



「六種類です」

「だから六箱」



「なるほど」

「でも六箱買っても揃うとは限らないんですよ」

「BOX買いすれば揃うかもしれないけど」



「単品買いなら、何が出るかわからないっていう楽しみはあるよね?」

「それなら、食べ物系とダルマ怪獣、一箱ずつ買ってみるよ」



「えっ」

凛は目を丸くした。

「買うんですか?」



「せっかくだし」

「真白さんのおすすめなんでしょ?」



「はい」



「真白さんは買わないの?」



「私はダルマ二箱です」



「食べ物系は?」



「前に買いました」



「そっか」

「何が出るか楽しみだね」



「はい。そのわくわくがブラインドボックスの楽しいところです」

凛は笑った。

自分の好きなものを、誰かが面白そうだと思ってくれる。

それは思っていたより、ずっと嬉しいことだった。



二人は会計を済ませて店を出る。

「少し休憩しようか」



「あ、はい」

近くのカフェへ向かう。

さっきまで緊張していたはずなのに、不思議と足取りは軽かった。



今日、来てよかったかもしれない。

そう思った瞬間だった。



「そういえば真白さん」



「はい?」



夜咲が少しだけ笑う。

「聞きたいことがあるんだけど」



凛は首を傾げた。

もちろん、この時の凛はまだ知らない。

その一言で、自分の心臓がまた大騒ぎすることになるなんて。

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