第2話「完璧な攻略計画」
「どーしよう」 「本人に聞かれてたらどうしよう」
「聞かれてないかもしれないだろ」
「でも笑ってた!」
「笑ってたね」 美琴が頷く。
「終わった……」
凛は机に突っ伏した。
数秒後。
がばっと起き上がる。
「いや待って」
「何」
「逆に考えれば」
「存在は認識されたってことよね?」
「まぁ、そうだな」
「第一段階クリアじゃない!」
「ポジティブモンスターだな」
柊が呆れる。
「よし」
決意したように机の中から一冊のノートを取り出した。
表紙には大きく書かれている。
『夜咲先輩攻略計画』
美琴が吹き出した。
「ちょっ、待って!」
「本当に作ったの!?」
「凄いなぁ、凛は」
「当然でしょ」
凛は胸を張る。
「恋愛は戦略なのよ」
「まだ言ってる」
柊が呟いた。
凛はノートを開いた。
そこには色ペンでびっしりと文字が書かれている。
『第一段階 存在を認識させる』
『第二段階 好印象を与える』
『第三段階 距離を縮める』
『第四段階 告白される』
「告白してもらうなんて、ロマンチック❤」
美琴が指でハートを作って笑う。
「普通は自分から告白するんじゃないのか?」
柊が冷静に言った。
「えっ?」
「何言ってるの」
凛は真顔だった。
「告白は向こうからしてもらうものよ」
「どこから来るんだ、その自信は」
「大事なのはイメージだから」
美琴は笑った。
「恋する乙女は無敵なのよ!」
柊は頭を抱えた。
しかし凛は聞いていない。
ノートのページをめくる。
『第一段階』
『まずは自然な接触を増やすこと』
「自然な接触?」
「そう」
凛は立ち上がった。
「今日実行するわ」
「今日?」
「いきなり?」
柊が嫌な予感しかしない顔をした。
「やめとけ」
「どうして」
「絶対失敗するから」
「失敗しない!」
凛は勢いよく教室を飛び出した。
数分後。
廊下。
凛は柱の陰から顔を出していた。
視線の先には夜咲海斗。
友人たちと話しながら歩いている。
「来たわね……」
凛は小声で呟く。
作戦は単純。
偶然を装ってぶつかる。
そして。
『大丈夫?』
『こちらこそすみません』
そこから会話へ発展。
完璧。
「これで」
「私の勝ちよ」
誰にも聞こえないように呟いた。
そして飛び出す。
タイミングも完璧。
角度も完璧。
速度も完璧。
――のはずだった。
「おっと」
夜咲の前にいた男子生徒が急に立ち止まる。
「え?」
凛の顔が青ざめた。
止まれない。
避けられない。
結果。
ドンッ!
「痛っ!」
凛は尻もちをついた。
「大丈夫か?」
頭上から声が降ってくる。
見上げると生活指導の先生だった。
「真白」
「廊下は走るなよ」
「……はい」
「次は気を付けろ」
「はい。気を付けます」
先生はため息をついた。
「それと」
「え?」
「柱の陰に隠れるなら、もう少し上手くやれよ」
凛の動きが止まる。
「……はい?」
「五分くらい見えてたぞ」
「えっ」
「足も髪も全部出てた」
凛の顔が一気に赤くなった。
「うそでしょ……」
「うそじゃない」
先生は肩をすくめた。
「何してたかは聞かないが、ほどほどにな」
そう言い残して去っていく。
凛はその場で固まった。
「五分……」
ぼそりと呟く。
「五分見えてた……?」
完璧な作戦のはずだった。
数秒後。
「大丈夫?」
後ろから声がした。
凛は振り向く。
そこにいたのは夜咲だった。
「今、先生と話してたけど」
「怪我してない?」
「さっきから足かばって歩いてるから」
夜咲は当たり前みたいに言った。
頭が追いつかない。
(見てたの?)
「だ、大丈夫です」
目の前にいるのは、好感度の化け物王子。
微かに爽やかな香りがした。
(何その匂い)
(王子っていい匂いするの?)
「俺の顔に何かついてる?」
夜咲が不思議そうに首を傾げる。
「えっ」
「な、何もついてません!」
「ご、ごめんなさい!」
(本当に人間?)
(マネキンみたいなんだけど)
夜咲は小さく笑った。
「大丈夫だよ」
「立てる?」




