第1話「恋愛は戦略である」
「恋愛は戦略である」
凛はノートにそう書いた。
そして二重線で囲む。
さらに星印を三つ付け加える。
「よし」
満足そうに頷く。
「何やってんの、お前」
隣の席から声が飛んできた。
凛は慌ててノートを閉じた。
「あっ、今見たわね?」
「見てない」
「絶対見た」
「興味ないし」
柊は窓の外を見たまま答えた。
「何よ、その言い方」
「だって見たら怒るだろ」
「それはそうだけど」
「面倒くさいな」
「誰が面倒くさいよ!」
凛は机を叩いた。
すると柊は小さくため息をつく。
「ほらな」
「うっ……」
反論できない。
その時だった。
教室の空気が少しだけ変わる。
「あ、夜咲先輩だ」
「ほんとだ」
「今日も格好いいなぁ」
聞こえてきた名前に、凛の動きが止まった。
ゆっくり窓の外を見る。
校庭を歩く男子生徒。
整った顔立ち。
自然と人が集まる雰囲気。
夜咲海斗。
成績優秀。
運動万能。
性格も良い。
まさに完璧。
凛は真剣な顔で呟いた。
「通称――好感度の化け物王子」
「お前しか呼んでない」
即座に柊が返す。
「だって考えてみなさいよ」
凛は身を乗り出した。
「勉強できる」
指を一本立てる。
「運動できる」
二本目。
「顔がいい」
三本目。
「しかも優しい」
四本目。
「もう人類の性能じゃない」
「こんなの反則でしょ」
「最後で全部台無しだな」
「褒め言葉よ!」
「だから先輩の前で言うなって」
柊は呆れたように言った。
凛は聞いていなかった。
窓の外の夜咲だけを見ている。
そして。
ぎゅっと拳を握った。
「決めた」
「何を」
「私、夜咲先輩の彼女になる!」
柊は数秒黙った。
「はははっ」 「無理だろ」
「かかって来い、私の初恋!」
凛は勢いよく立ち上がる。
「絶対に付き合うんだから!」
教室中の視線が集まった。
数秒の沈黙。
「凛」
「何よ」
「誰に宣言してるんだ?」
凛は辺りを見回した。
誰もいない。
窓の外に向かって叫んでいた。
「ねぇ、騒がしいけど何かあったの?」 ちょうどその時、美琴が教室へ入ってきた。
柊が即答する。
「こいつ、今さっき夜咲先輩と付き合う宣言した」
「凛、大胆ね」
「しかも校庭に向かって」
「えっ?」
「本人に聞こえるレベルで」
凛の顔から血の気が引いた。
「うそ」
「聞こえてた?」
「……本人に?」
ゆっくり窓の外を見る。
夜咲がこちらを見ていた。
そして――困ったように笑った。
【主な登場人物】
■真白 凛高校一年生。 主人公。 強気で負けず嫌い。 恋愛経験ゼロ。 夜咲先輩に憧れていると思っている。
■藤代 柊 高校一年生。凛のクラスメイトで、昔からの友人。冷静でマイペース。凛の空回りを面白がって見ている。
■桜井 美琴高校一年生。
凛の幼なじみ。明るく社交的で誰とでも仲良くなれる人気者。面白いことと恋バナが大好きで、凛の恋愛作戦を楽しみながら応援している。からかうことも多いが、いざという時は頼れる親友。
■夜咲 海斗 高校ニ年生。 学園で人気の先輩。 成績優秀で面倒見も良い。 誰にでも優しく、後輩から慕われている。 凛にとっては憧れの存在。
第1話を読んでいただきありがとうございました。
凛の初恋、開戦です。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。




