第12話「何を着て行けばいいの?」
夏休みの勉強会は、完全に中断された。
「返信!」「早く返信!」
美琴が慌てる。
「落ち着けって」
柊は呆れたように言った。
「落ち着いてるわよ!」 凛は即答した。
スマホを持つ手は震えていた。
『おすすめのソフビショップって知ってる?』
夜咲先輩からのメッセージ。
たった一行なのに心臓がおかしくなる。
「普通に教えればいいじゃん」
美琴が言う。
「そんな簡単な話じゃないの」
凛は真剣だった。
「おすすめって聞かれてるのよ?」
「うん、凛のおすすめ教えればいいじゃん」
「夜咲先輩の」
「怪獣人生の入口なの」
「なんだよ、怪獣人生って」
柊が笑って言った。
「まぁ凛は怪獣大好きだから、教えるのも慎重になるのはわかるけど、もっと軽く考えなよ」
「そうだよな」
「それに、学園の王子様なんだから、聞ける相手なんて他にもいるだろ」
凛はむっとして、柊を睨んだ。
「柊には、この世界の素晴らしさがわからないんだわ」
大型店。
中古ショップ。
インディーズ作品を扱う店。
知っている店はたくさんある。
だからこそ決められなかった。
大型店は品揃えはいいけど、ソフビの「らしさ」みたいなものは薄い気がする。
中古ショップは掘り出し物があるけど、初心者には敷居が高いかもしれない。
インディーズ系は……いや、これは沼が深すぎる。
夜咲先輩を沼の底に引き込んでしまったら、それはそれで罪な気がする。
「難しい……」
「悩み過ぎだろ」
「悩むわよ」
凛はクッションに頭をつけた。
「いっそ全部の店を巡るツアーを組むとか」
美琴が適当なことを言う。
「それは違う」
凛は即座に否定した。
「初手で沼を見せたら逃げられる」
「お前、本当に怪獣のことになると人格変わるよな」
柊が呆れながらも、少し笑った。
「ならいっそ、何が好きなのか、聞けばいいだろ」
「柊、あなた」
「……天才なの?」
柊の言葉に、凛は顔を上げた。
「違う」
「当たり前のこと」
即答だった。
凛は固まった。
確かに。
その発想はなかった。
美琴が吹き出した。
「じゃあ聞こう!」
凛はスマホを構えた。
文章を打つ。
消す。
打つ。
消す。
「遅い」
「俺が聞いてやろうか?」
「うるさい」
「今大事な局面なの」
「一々大袈裟なんだよお前」
数分後。
ようやく送信した。
『知っているお店はいくつかあります。どんな怪獣がお好きなんですか?』
送信。
既読。
三人が固まる。
早い。
そして。
返信。
『実はまだよく分からなくて』
さらに続く。
『だから詳しい人に教えてほしい』
心臓が跳ねた。
「おぉ……いいじゃん」
美琴がにやにやしている。
柊は無言だった。
そして。
ブブッ。
もう一件。
凛はメッセージを開いた。
『よかったら今度一緒に見に行かない?』
沈黙。
数秒。
「きたあああああ!!」
美琴が叫んだ。
「うるせぇ」
柊が耳を押さえる。
凛は固まったままだった。
画面を見つめる。
もう一度見る。
やっぱり同じだった。
『よかったら今度一緒に見に行かない?』
「……」
「凛?」
「……」
「おーい」
「フリーズした」
美琴が言った。
「したな」 柊も頷いた。
凛はゆっくり顔を覆った。
「無理」
「何がだよ」
「心臓が」
「まだ何もしてないだろ」
その言葉で我に返る。
そうだ。
まずは返信しなければならない。
凛は震える指で返事を打った。
『ぜひ!』
送信。
数秒後。
『ありがとう』
『じゃあ日程決めようか』
再び心臓が跳ねた。
美琴が満面の笑みを浮かべる。
「ふふっ♥」
「これは、デートだね」
「違うわよ!」
凛は反射的に叫んだ。
「ソフビ巡りするだけよ!」
「はいはい」
美琴は全く信じていなかった。
柊も何も言わない。
その沈黙が逆に腹立たしい。
数分後。
日程が決まった。
来週の土曜日。
凛はスマホを見つめる。
そして。
ふと気付いた。
「……待って」
「ん?」
美琴が凛を見て言った。
「私」
「服持ってたっけ?」
沈黙。
そして。
「そこから!?」
美琴の叫びが部屋に響いた。




