第11話「おすすめのソフビショップ」
夏休みが始まり、創作フェスへ行って、夜咲先輩と連絡先を交換した。 それから数週間。
今日は三人で勉強会をしようと美琴が言い出し、凛の部屋には参考書とノートが広がっていた。
「なんで夏休みなのに宿題多いのよ……」
凛はペンを回しながら言った。
「補習になりたくないからだろ」
柊が淡々と言う。
「私は凛が補習になったら面白そうだから見てみたいけど」
「面白くない!」
美琴は楽しそうに笑った。
三人は同じ高校に通う一年生だ。
夏休みだからといって成績まで休みにする訳にはいかない。
「飲み物取ってくる」
凛は立ち上がった。
「私も行くー」
美琴が後ろから付いてくる。
その途中だった。
「あれ?」
美琴が足を止めた。
棚のガラスケースを見ている。
そこには一体の怪獣と怪獣の素体が置かれていた。
一体はピンク色。
ドールアイの丸い目。
濃いピンクから淡いピンクへ変わるグラデーション。
銀色のグリッター入りの背ビレは、斜めから見ると、細かい光がきらきらと揺れる。
そしてもう一体。
怪獣の素体。
目も塗装もしてない未完成だった。
「何これ? 可愛い! 怪獣だよね?」
美琴が身を乗り出した。
「凛が作ったの?」
「うん。ソフビフィギュアだよ」
凛はモモラを棚から取り出した。
「本当はソフビ作ってみたいんだけど」
「金型とか高すぎて無理だから」
凛は少し照れながら頷いた。
「ピンクがブロッサム・モモラで」
「そっちはモモラだけだと寂しいから、相方を作ろうと思ってて」
「なるほど」
「でも塗装って部屋臭くなるよね?」
「別の所で塗装してるの?」
「うん」
「お祖父ちゃんの工場を借りてるんだ」
「凛のお祖父ちゃんって、なんかお面とか作ってたよね?」
「うん」
「お祖父ちゃんは祭りで使う張子のお面を作る人なんだ」
「へぇ」
「にしてもこのモモラ可愛いね」
「うん」
凛はブロッサム・モモラを見つめた。
「とても気に入ってるんだ」
「……なんか、お前みたいだな」
「そいつ」
柊がモモラを見て言った。
「私よりモモラの方がずっと可愛いわよ」
「そうかよ」 柊は肩をすくめた。
凛はなんだか気恥ずかしくなって、慌ててモモラを棚へ戻した。 「ほら! 勉強するわよ!」
十分後。
勉強は始まった。
……始まったはずだった。
「凛」
「なによ」
「英語の問題集開いたまま、さっきから止まってる」
柊が言った。
「考え事?」
美琴も覗き込む。
「してないわよ」
その瞬間。
ブブッ。
スマホが震えた。
凛は何気なく画面を見る。
そして固まった。
「どうした?」
柊が聞く。
返事がない。
「凛?」
美琴が顔を覗き込む。
凛はゆっくりスマホを差し出した。
画面には一件のメッセージ。
差出人。
夜咲 海斗。
『おすすめのソフビショップって知ってる?』
沈黙。
「きたああああ!!」
美琴が叫んだ。
「静かにしろ」
柊が耳を押さえる。
凛は顔を真っ赤にしていた。
「ど、どうしよう……」
夏休みの最中。
勉強どころではなくなった。




