小さな流れ
朝、タケシがおにぎりを握っていると、
「おはようございます!」
「おはよう...ございます」
ペータと、アキラ。ん?アキラドロドロ?
「おいアキラ、何やそれ。汚いまんま入って来るな、着替えてこい」
戻って来ると朝飯。
「ハッハ。馬が言う事キカンのは、舐められとるんや。まず信頼関係やな」
あー。道は遠い......
午前中は馬車工房で作業を見て、時々馬に会いに行く。
午後はカツミの工房へ。今日はスライムのエサやり。と思ったら畑?
「これ、エサのハーブ」と、鎌を持たされた。
刈り取って、井戸で洗ってスライムにやる。
ニョロン♪うっわ。きっしょ。
「あー。逃さんようにな。すぐ蓋閉めて」指でスライムをつついて落とし、蓋をする。
その後は薪割り。
汗を拭こうと母屋に戻ると、タケシが座敷で紙を広げて唸っていた。
「何...してるんですか?」
「いや、書類がな」
計算してるの?ふむふむ。集計して、こっちに....あー。もしや。
「タケシさんちょっと待って」白い紙を取る。
パソコンあったら一発やのにーー
「先にこういうの作って、んでそれを........」
「お?」
「ほら、わかりやすくなるでしょ」
「おー、お前、頭ええな。俺こういうの苦手や」
「これでも国立の医学部目指してましたから」
エッヘン。でも意味ないか。
「うっそ。お前、ちゃんとスキルあるやん」
「え?」
「勉強してきたことは、役に立つで」
「いやいや、受験勉強なんて」
「いや、こういう考え方がサクッと出る事自体がええんや」
「はぁ」
「案外雑学こそが生きるねん。ここでは」
「そうなんですか」
「向こうで当たり前やった事、今ここで不便な事。その差やな」
「んー」
「まだ不便が立ってわからんかな。おいおい見えると思うで」
馬の世話とスライムのエサやりと薪割りがアキラの仕事になった。
案外薪割りがきつい。手に豆が出来た。ペータの方がポンポン割っている。マジ力あるし。
みんなマッチョ。タケシさんだって細いけど腕めっちゃ太い。あー。情けない。
「おーいアキラ、こい」
黒馬車がでている。いつ見てもかっこいいな。
「乗れ」御者台を指すタケシ。
え?こっち?
横にタケシが座ると、手綱を持たされた。
「行こか」
うっそー。いいん?
「ゆっくりな、こうや」
上からタケシのデカい手がアキラの細い手を掴んでゆっくり動く。
馬が歩き出した。
うわー。気持ちいい。
タケシがゆっくり手を離した。
「よそ見すな。真っ直ぐ前見とけ」頭はたかれた。
村を一周して戻ると、手がじっとりと汗ばんでいた。
ペータのカートが出来たって。見に行こう。
ボイルも来ている。金具はボイルが作ってたもんな。
後ろから覗いていたら、クルッとタケシが振り向いて、ニヤッと笑った。
「お、アキラ君いいとこにきたねー」
え?嫌な予感。
「乗って」え?僕?
「試走や。お前50キロ位やろ。ちょうどええねん」
いや、ボイルもその位じゃね?
「まぁまぁ遠慮せんと」乗せられて、頭に兜?ヤバいの?
後ろからペータとボイルが押して.....あー走るなー「うわぁーーー」
ーーガタガタっ「止めてぇーー」
ガシャン。「ぎゃー」
タケシさんとバルザさんが笑いながら走ってきた。
「大丈夫か?」「はい......」
ペータとボイルがカートを引きずって帰っていく。
「まぁええ練習や」
「はい。壊れたら分かるんですわ、なかなか言うてもわかんことが」
「俺らもめちゃくちゃめんだよな」
「ほんま大変でしたわ」
大笑いして帰る2人の背はデカい。いやでも......僕は、実験台?
カツミさんが、今日はスライムの水替えすると言うのでお手伝い。タケシさんとペータもいる。
「よーしやるぞ」タケシさんが井戸の水を汲み、みんなで運ぶ。
上に滑車が付いた井戸。ガラガラと一気に上げてくるけど、回数増えるとしんどくない?
「ねえタケシさん、ポンプないんですか?」
「あぁ?手漕ぎポンプなぁー。あったらちーっと楽やけど。ヨイショっと」
「ないんですか、ここ」「うん。ない」
「作れますよ」「ん?オイショ」
「僕大体の構造わかります」「マジで、作って」
「いやそれ、僕には無理ッス」
「よっしゃラストー。なんでできん?」
「いや材料とか」「構造ってどんなん?」
地面に棒切れで絵を書いた。
「こんなので、中シリンダーがあって、これピストンでー」
「ほうほう」
「確かこっちとこっちに逆止弁」
「ほっほー。なるほどな」
タケシはニヤリとすると、納屋の方に歩いていった。
母屋で昼ごはんを食べた後も、タケシさんはすぐ籠もっている。
カツミさん曰く、めちゃくちゃ楽しそうやからほっとこうって。でも僕には難しい顔にしか見えないな。
夕方、納屋の様子を見に行った。
机の上には設計図。タケシさんって、書類ダメなのにこういうのは書けるんだ。わかんねー。
「あー、アキラか。待っとって、もうちょいや」
え?もう出来た?
「あー。おもたよりムズかったー」と、持っているのがポンプ?
「まあうまいこといくかは分からん。てかあんまり自信ないな。テストしょっか」
「何使ったんですか?これ、木?」
「おお。竹みたいな中空の木があるんや、ちょうど置いとって良かったわ」
「逆止弁は?」
「皮使った」
樽に井戸の水を張って板を渡してそのうえに置いた。
「ちょい押さえとって」
レバーを上下する。何も出ない。
やっぱりーそううまくいかないよな。タケシさんでも。
「ん?」考えるタケシ。
ポンと手を打って、ポンプの上から水をかけた。
またレバーを上下する。
ゴボゴボっ。出た。ちょろっと。あー。水、出てるーー。
「すごいです」
「いや、まだ漏れる方が多いわ」
「でも水出てます」
「アキラ、これ、売れるぞ」
えぇー!マジっすかー。
「まぁめっちゃ課題あるけどな。てかこのネタ、絶対カインがほっとかん」
「カインって?」「王様」
え?なんか友達みたいやん。
「よし、早速リゥトスに手紙かこ。んでカインに開発費出させて........」
あ。タケシさんの顔、悪代官だ。
それからタケシさんは何度も試作を重ねている。時々バルザさんもやって来て、納屋で相談している。
昨日はペータのお父さんが、材木を置いて行った。あの竹みたいな中空の木はタイタイの木。町の近くの森にたくさんあるそうだ。
半月程たつと、ポンプはかなりポンプらしい形になっていた。
胴体やレバーは鋳物、シリンダーはタイタイ。ピストンは革をカップ型にして木に貼ったそうだ。逆止弁も金属の輪で台座を作ったらしい。
何度もテストして、ザーッと出た時には、みんな興奮して大騒ぎだった。
「まぁ、もっと精度上げんと売りもんにはならんけどな」
えー。めっちゃすごいのに。ここのものだけでこれが出来るって、ありえんくらい......。
「おーいカツミー」
「はーい」
「手紙来たわ。リゥトス
来るって、明日くらいかも」
「まさかと思うけど.......」
「あぁ。まさかもあるかもな」
まさか何?誰くるの?
「アキラ、これに名前付けよか」
「手動ポンプじゃダメなんですか?」
「自動がないのに手動はおかしいやろ。てか“ポンプ”自体、誰も知らんねんぞ」
「じゃあポンプでいいじゃないですか」
「アキラポンプやな」
「やめてください」
「覚えやすい、言いやすい、誰のもんか分かる。完璧や」
「絶対イヤです!」
「ほな“アキポン”でもええで」
「余計イヤです!!」




