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見えない景色


テラの宿。ちょっと困り顔のテラ。

「タケシ、あの子なの」

窓際にぼんやりと座っている色白な少年。

「もうあんまり時間はないの」

1か月程前に落ちてきた子だが、全く動こうとしないと言う。

「そろそろ最初に与えた加護も切れる」

落ちてすぐは良かったらしいが、3日もすると何もしなくなり、今はどこにも行かず、宿に籠もってしまった。

テラも何とか動かそうとしたようだが、積極的には手が出せないと言う。

「自分で見つけてくれないと、私達も助力は出来ない。生きる気力がない子がどうなるか.......」

「死ぬんか」

「そうなるわね」

「......」

「タケシ、見てやってくれない?」

「俺にできるんやろか」

「タケシのとこは若い子も多いし、ここにいるより刺激があると思う」

「アイツ年は?」

「17歳」

「あー。また中途半端やなぁ」

「うん。だから難しいのよ」

「そっかー......」

「ダメな時はここに戻してくれたらいい。私が看取るから」

「いや看取るって」

「ね。お願い」

タケシはゆっくりと少年に近づいた。

どんよりとした目で、顔を上げる少年。

「俺、近藤武史。お前は?」

「.......」

「聞こえん」

「樋口.....晃」

「アキラ、飯食いに行こか」


「ペータ、後ろ綺麗にして」

「はい!」御者台の少年が荷台に回る。

テラに抱えられるようにして宿から出たアキラの足元に、タケシが踏み台を置く。

「乗って」ノロノロと乗り込んだ。

「ほな行くわ」

「うん」テラが頷いた。

「ペータ、腹減ったやろ、いつもの、行くか」

「はい!」


昼下がりの噴水広場。喧騒は去っているが、それでも行き交う人は多い。

タケシはカレー屋の裏に馬車を停めた。

「ペータ、俺いつもの。2つな、お前は好きなの頼み」

タケシが荷台に移って待っていると、カレー屋の制服の女の子がトレーに乗せて持ってきた。

「あ、ありがとう。んで、後であれ、頼むわ」

「はーい」

「ペータ、食えよ」

「はい!」

タケシはアキラの目の前に皿を置いた。

立ち昇る湯気と、カレーのスパイシーな香り。

アキラが鼻をヒクッとさせた。

「あ........」

「カレーや。旨いぞ」と言うと、タケシは構わず食べ始めた。

アキラがスプーンを取って、口に。

「あ......カレーだ」と言うと、また一口。

「旨い.....」とまた一口。

「どうや、今日のはレッドボアや、いけるやろ」

「ボア.......」大きな肉をパクっ。

「な、魔獣肉旨いんよ」

パンを手に取りスープにつけて食べだした。

フフン。カツミのカレーには勝てんやろ。

食べ終わる頃には、アキラの頬に赤みがさしてきた。

「タケシさん、これどうぞ」

店員が持ってきたのはスライムゼリーだ。

「おぉ、サンキュー。ペータ悪い、皿下げてくれる?」「はい!」

アキラの手にスライムゼリーを持たせた。

「デザートのゼリーや」

スプーンですくって口に入れた。「うまっ」

「そやろ、カレー食った後に最高やろ」

頷くアキラは、美味しそうにチュルンと食べた。

「それなー。スライムや」

プッ!吹き出した。

「おいおい、汚いなぁもう」と拭くタケシ。

「ペータ、めっちゃ好きやんな」

「はい!僕大好きです」と、大盛りにしてもらってニコニコ食べるペータ。

「でもスライムって」

「養殖してるねん、うちの嫁」

「......」

アキラはじっと見つめて.....パクっと食べた。



川沿いの道を、黒馬車は軽快に走っている。爽やかな風が頬を打つ......が、荷台のアキラは、ぼんやりと外を眺めているだけだった。

「アキラ、ええ景色やろ」

向こうに山の緑。水面がキラキラ光っている。

「何にもない」

「そーかー。なんもないかー」

「......」

「ここにはな、ないがあるんや」

「......」

まあええ。ぼちぼちや。


家に帰るとタケシはペータにアキラを部屋に案内するように言って、カツミを呼んだ。

「だれ?あの子」

いきさつを説明すると

「そっか。まあ今日はゆっくりさせて様子みよか」

「あぁ。頼むな」


夕飯に呼ぶと、部屋から出てきた。

「アキラ、俺の嫁さんや」

「カツミです。よろしくね」

「あ、アキラです」

「うん。ほな食べよ。ハンバーグ作ったよ。テラのとこは和食ばっかりやったやろ」

と、テーブルにつかせた。

サラダを添えた大きなハンバーグに、茶色のソースがかかっている。籠盛りのパン。

「いただきまーっす。お、うま。今日の何?」

「オークやで。ソースどうよ」

「ああ、旨いで。スパイス効いとるし、そろそろいけそうやな」

「エヘヘ。ほれ、アキラ君もお食べ。冷めるで」

「はい」

一口、口に運ぶと「うまっ」っと食べだした。

ーー食え。食ったら力出る。


食事が済むと、アキラは部屋に戻っていった。

「なぁタケシ、あの子全部食べたな」

「そやな。動かんでも腹は空くねん。あれぐらいの年って」

「まぁ男の子や。ここならなんか見つけるんちゃう?」

「あぁ、だいぶ顔色良くなってるし、ちゃんと歩いとるから、明日はちょっと出してみよ」


朝。台所はカツミと調理のスタッフがカレーを仕込んでいた。タケシはご飯を炊いて、おにぎりを握っていた。

スパイスの香りに誘われたのか、アキラが顔を出した。

「あ、おはよう。ちょっと座敷で待っとって、すぐ朝飯にするから」タケシはおにぎりを握りながら声を掛けた。

パタパタと動くカツミ達をしばらく見ていたが、座敷に行ったようだ。

「おはようございます!」元気な声はペータだ。

「おはよう。ペータこれ出しといて」「はい!」

タケシはカップにスープを入れて座敷に。

「いただきまーす」

「ペータ、宿舎で朝飯食ったんちゃうん」

「おにぎり別腹です」

「まじか。アキラも食え。食ったらちょっと案内するわ」


ペータが仕事の準備に出ると、アキラが口を開いた。

「タケシさん。ペータ君ってお子さんですか」

「なんでやねん。俺らの子が金髪なわけないやろ。

あれは弟子や」

「弟子って。まだ子供じゃ」

「12才。もう自分のことは自分で考えてる」

「......」

「ほないこか。まず家の周りから」



「あれカツミのスパイス工房。んで....これスライム養殖場」箱が並んでいる。

プニュ♪ぷりゅん♪

おそるおそる覗き込むアキラ。

「うっわ。きっしょ」

「でも旨かったやろ。クラゲみたいなもんよ」

横で屋台の準備が始まった。

納屋からペータが、ブルーのキッチンカーを出してきた。

「チェックオッケー?」

「はい。大丈夫です」

続いて出てくる黄色いキッチンカー。「こっちもオッケーです」

パタパタと動くスタッフ。

「邪魔になるな、向こういこ」

納屋ではペータが黒馬車の手入れをしていた。

隣の工房は、とうに作業は始まっていて、職人達が馬車を触っていた。

「おはようございますタケシさん」

「おはよう」

「ちょっといいですか」

タケシは、職人と何やら話して戻ってきた。

「じゃぁやっときます」

「うん。頼むわ」

「ペータ、黒馬車いけるかー」

「はい!オッケーです」

「ほな工房行くか。ペータ、お前、それやっとくか」小さなカートを指差した。

「はい」



2台のキッチンカーが、町に向けて出発するのを御者台で見送って、黒馬車を出す。隣はアキラだ。


「朝はみんな忙しいんや。段取りきっちりせんと、トラブルの元やからな」

周囲は畑だ。もう収穫作業が始まっている。手を振る農民に、タケシも手を振り返す。

ポクポク。蹄の音がリズム踏む。

初めての御者台だ。少しは見える景色も違うかな。チラッと横を見る。んー。わからん。

工房に着いた。

大きな建物についているコンドウ馬車工房の看板を見て、アキラは目を見張った。

カンカンカン。鉄を打つ音が聞こえる。

「あ、タケシさん。おはようございます」

「おはよう」

また何やら話している。少し後ろでみているアキラ。

「ここで馬車作ってる」そう言うと奥に入っていった。

ついていくとカンカンが大きくなった。

「ここ鍛冶場や。おーいバルザ」

「はい、タケシさんおはようございます」

「おはよう」

また何か話して「ほないこか」

アキラは後ろをついていく。チラッと振り返ると、1人の少年が、さっきの男に何か言われ

て頷いていた。


「こっちはクレスカレー工房。また中はカツミに見せてもらえ」

ここも大きな建物だ。

「それと従業員宿舎な」

指差す先には窓の多い大きな建物。

「まぁこんなもんかな」

「あの」

「何や」

「タケシさんって......社長さん?」

「あー。会社とは違うけど......まぁそんなもんかな。うん。カツミもやで」

「カツミさんも」

「俺は馬車屋。カツミはカレー屋」

「......」

「帰るで」


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