街に落ちた清流味
噴水広場は、今日も人で賑わっている。様々な屋台が色とりどりに並ぶ一角に、2連馬車が入ってきた。目立つ黄色の屋台の後ろに涼しげなブルーの屋台。
「おい、カレー屋の後ろ、何やあれ」
「ピュアフロウって何や」
カツミは構わず開店準備。いつもの黄色の制服の上にブルーのエプロンを着けた。
隣ではカレー屋も開店準備。白エプロンのアルバイト2名が慣れた手付きで動き出す。
両方の準備が整った。
「ほないこか」
同時にプレートを出した。
「いらっしゃいませ、クレスカレー店、開店いたしました」
「いらっしゃいませー、初お目見えのピュアフロウゼリーはいかがですかー」
カツミも声を張り上げた。
いつものようにカレー屋にはすぐに行列が出来た。
みんな横目でブルーの屋台を見ている。
「おい、清流スライムって何や」
「スライムやろ?あんなもん食えるんか?」
小声で話しているが、まだ誰もカツミに直接聞いてもこない。
やっぱりなぁ。まぁここまでは予想の範疇だもんね。
カレーを食べている人が増えた頃、2人の女がブルーの屋台の前に立った。
「まぁ、これアルナで噂のスライムゼリーじゃない」
「ほんとだ、ここにもあったのね、ラッキー」
ちょっとざわつく行列。
「私、オレンジのをちょうだい」
「私、ベリーで」
「ありがとうございます。少々お待ち下さい」
カツミは樽からスライムを取り、手早く切って紙カップに入れ、上からソースをたらりとかけた。スプーンをさして手渡す。
「どうぞ」
「ありがとう」というと、2人はその場で食べ始めた。
「わぁ、何これ。冷たくってプルッとしてて」
「フルーツのソースもすっごく美味しい」
「ほんと、ほら、このスライム綺麗ねー。ミントの風味だわ」
ざわつきが広がっていく。
「旨いんかな」「あんた買ってみて」「いやーでもなー」
「姉ちゃん、ワシ、モッチー」ドワーフだ。
「はい、ありがとうございます」
またスライムを切ってカップに入れ、蜜をかけて上からたっぷりきな粉をかけた。
「おー。懐かしいなー。田舎におったときは川で採ってよう食ったんや」
と言うと、大口開けて放り込んだ。
気がつくと、人だかりになっていた。
「ごちそうさまー、これ、ここ?」とゴミ箱を指す。
「はい。ありがとうございます、またどうぞ」
2人の女は帰り際、カツミにウインクして去っていった。
「あー。美味かった。また来るわ」と、ドワーフ。
去った後には行列が出来ていた。
「全部売れたって?」
「うん。バッチリ」
「お前、どんな手使った?」
「内緒」
「デコピンするぞ」
「エヘヘ。実はーー」
カフェたちばなのタギッチとイチキーにサクラを頼んだ。
2人は大乗り気で、変装までしてやって来た。
ついでに、以前に見合いした、ドワーフのバルクにも頼んでみたら、本当に懐かしいと言って引き受けてくれたのだ。
「お前、神様そんなことに使ったんや。負けるわほんま」
「いや、食べたらわかるんよ。とにかく」
「そうやろうけど」
「カレーの後で買う人もおったし、あの配置もバッチリやで」
「.......たくましいな」
「はい♪」
「ほんでこれ何」
「カレーうどん」
「また何か考えてんの」
「エヘっ♪」
ズルズル........俺、試食係かよ。
月2回、タケシ達はアルネシアに定期便を出している。念のため軍馬車を使い、オモジイ作の胡椒玉を載せている。さすがに軍馬車を襲うやつはいなくて、まだ胡椒玉の真価は発揮された事はないのだが。
こちらからはコンドウ馬車工房の板バネサスと、その他の交換部品。クレスカレー工房からはノマドとハーブティー、スパイスなど。
帰りには国営工場に回って、パッケージ類を積んでくる。
連絡事項、発注書、事務の書類等とともに、馬車工房リーダーのスティールとクレス2号店店長のオットーとのやり取りも手紙だ。
不足しないように先読みしないといけない。
電話がないと不便だ。と最初は思ったが、タケシもカツミももう慣れた。
ほんの少し余裕を持つ。ほんの少し待つ。急がないことで、見えてくるものがあるーーそうやってこの世界に馴染んできた。
できることをやる。それだけだと。
そしてこの、ゆったりと動く世界が好きになった。
タケシは久しぶりに弟子を連れて町に来ていた。
元々暮らしやすい町だが、ずいぶん活気が出たと思う。
人も増え、旅行者もよく見かけるようになった。
婚活ギルドまで忙しい。と、クニオがぼやいてたな。
パン屋のおばちゃんが手を振っている。ヒョイっと手を挙げて返事する。
あ。おばちゃんのシールや。サクラによく似た花のマークはミルナの木に咲く花だ。ミルナはこの町でしか育たない木。パン屋のおばちゃんは会合で、これを衛生管理が出来ている店に貼って、啓発しようとみんなに持ちかけて、自ら貼って回っている。
カツミが撒いた種が、ちょっと芽がでたな。実際、腹壊す人減ったらしいし。
職人街に行くと、こっちも活気がある。タケシに刺激を受けた人達が、それぞれ技術の向上を目指しているのだ。実際、馬車の補強金具は、もうほとんどここでやっている。元々タケシはここの鍛冶屋に頼み込んで作ってもらっていたのだ。当然のことだ。そうやって広がっていく。これでいいと思う。
通りの向こうが騒がしい。馬車が事故って道をふさいでいるようだ。
道変えるかーーと思っていると聞こえてきた。
「ミナセ製のサスが割れたって騒いでるみたいやぞ」
ん?それはないやろ。ここの鍛冶屋には、危ないから手を出すなと、しつこく言ってある。
行くか。
馬車を置いて歩いて見に行くと、ガクッと倒れた馬車と散らかった積荷。横でぎゃーぎゃーわめいている商人風の男。
近寄った。「馬は大丈夫か」
馬がブルンと鼻を振った。
しゃがんで見る。
「おっちゃん、これどこでつけた」
「アルナや。ミナセのやつやって言うからつけたのに」
「アルナには通達まわってるはずやで。コンドウ製以外はあかんって」
「こっちの方が安かったんや、それにミナセのんやって」
「ミナセの鍛冶屋は、これは打たんよ」
「へ?」
「なぁおっちゃん、刻印も通し番号もないもん信用したらあかんわ」
立ち上がったタケシを見て商人はハッとした。
「あ、あんた......」
シャツの胸にコンドウ馬車工房の刺繍。
「近くの店で外してもらい。外すくらいはみんなできる。ほんで、つけたかったらうちにおいで、しっかり直したる。高いけどな」
タケシはクルッと身を翻した。
あー。報告通りや。アルナでもめっちゃめげとるみたいやもんな。
「ああいうのが、安物買いの銭失いって言うんや」
馬車に帰りながら弟子の少年に言うと、弟子は歩きながら器用にメモを取った。
オモジイの顔でも見て帰るか......
馬車を雑貨屋の前に停めて、
「おーいオモジイー」
「あぁタケシか。元気そうじゃな」
「そうや、オモジイ初めてやったな、これ俺の新弟子」
ペコリと礼をする少年。
「ほおー」
珍しそうにキョロキョロし始めた少年に、タケシは声を掛けた。
「奥も見てきてええぞ」
「はい」嬉しそうに奥に入っていった。
「どうや、オモジイ」小声のタケシ。
「うん。特別なものはないな」
「......そっか」
「まだ子供じゃ、スキルが育つのもこれからじゃよ」
「そうやな」
「育つ芽は持っとる。お前らとおんなじじゃ」
「ん?」
「お前もカツミも、裏は大したもんないんじゃよ。でもちゃんと表が育っとる。カツミなんぞ独創性のアップ具合が半端ないわ、ワッハッハ」
「あー。確かにな」
「じゃから、いろんな経験をさせてやれ」
「わかった」
「そうじゃタケシ、テラが会いたい言うとったぞ」
「ん?何やろ。寄ってみるわ。おーい、行くぞー」
「はい!」
テラの宿に行くと、すぐに出てきたテラは少し疲れた顔だ。
「どないしたん」
「タケシ、さすがの私もちょっとね.......」




