清流の味
今日はテラの宿で、女神連の女子会ーースライム試食会である。
カツミは、スライムを食べやすくカットし、ガラスの器に盛ってフルーツを数切れ添えた。上からトロリとソースをかけ、ミントの葉を飾っている。
覗いていたケツメが、しげしげとスライムの入った樽を見る。
「私、初めてです。この食材。クラゲみたいですね」
「うんうん。似たようなもんよ」
そーか。そう思えば案外平気?
「ほら、こんな感じ」
「まぁ。美味しそうですね」
「でしょ。じゃあみんなのとこに持っていこか」
「お待たせしましたー」
テラ、スセリ、イワナ、タゴリン。
あれ?女子会って言ったのに。
「ごめんカツミ、モーリーが行くって聞かなくてさ」とタゴリン。
「私、菓子の神ですから」とモーリー。
「アハハ、いいですよ、どうぞ召し上がれ」
みんなの前に器を置く。
「まぁ、かわいい」
「プルプルしてますねぇ」
「この透明なのは何なの?」
言ってもいいのかなー。
「ええっとー。スライムゼリーです」
「へー。これがスライム」
「じゃあ、いただきましょう」
あらま。平気やった。
「うん。冷たくてツルンっとしてて変わった食感ね」
「スライム自体は味がないのね。ソースで味が変えられるのか」
「いや、ミントの風味だ。この甘酸っぱいソースやフルーツといい相性だな。で、そっちは」と真剣な顔のモーリー。
「こっちはスライム餅で」
みんなつまむ。
「あ。わらび餅」
「ほんとだ」
「これもいいな」
「カツミ、いい食材見つけたね」
「うん。パフェっぽくしてもいいし、屋台なら簡単にソースだけでもいいし」
「そうね、カツミカレーのデザートにピッタリよ」
「私はわらび餅が好きだな」
「あぁ、うちの男性陣もわらび餅派ですね。女性スタッフはゼリー派です」
「どっちもやれば?」
「そうですね、いけますよね」
「すごくいい。楽しいわよ、こういうのって」
「問題は......」
女神連は抵抗なく食べたが、みんなスライムだと言うと尻込みする。かといって隠せるわけもなく。
「要はネーミングよ。イメージ変えられる名前」
「そうよ、食べればわかるんだし」
「カツミのカレーだって最初はみんな遠巻きに見てたでしょ」
まああの時は、タケシが最初のお客やったな。めっちゃおいしそうに食べて、それで人が来出したんやったなぁ。
ん?サクラ仕込むのもありか?
それにしても......ネーミングやなぁ。やっぱ。
…..ツルっと.....プニッ?....いやクリア.....清流......
ブツブツ言いながら、カツミは馬車工房にやって来た。
んー。やっぱここは.......
「バルザー。手ぇ空いたらちょっと」
「はい。もう少しですから」
「母屋にきてー」
「はーい」
カツミが母屋で待っていると、バルザがやってきた。少年が後ろに続く。
「なぁバルザ、名前考えてよ」
テーブルには、ガラスの器に揺れるスライムゼリー。オレンジ色のソースがかかっている。
「まあ食べて。あ、あんたもどうぞ」
「あぁ、これが噂の......」
バルザと弟子は抵抗なく手を付けた。
「あれ?平気?」
「あぁ、山のドワーフの村では食べてるやつがいましたよ。私は初めてですが」
2人とも美味しそうに食べている。
「冷たくていいですね。鍛冶仕事、暑いですから」
横で頷く弟子。
カツミは飼育方法を説明した。
「なるほど、綺麗な水でねー。まぁスライムってイメージが良くないですもんね」
「そう。だから名前付けようと思ってさ、で、ネーミングといえばバルザじゃん」
以前、ノマドを考えたのも、店名クレスを思いついたのも、バルザだったのだ。
「そうですねー」
プルプルとスライムを揺らすバルザ。
「綺麗な水のスライムかぁ」
乗り出すカツミ。
「フロウ......」
「フロウ?」
「スライムってプカプカ浮いてますよね」
「.......んーもう一息」
「ピュア......」弟子が呟く。
「ん?」カツミとバルザが弟子の顔を見た。
「あんた、それ.....ピュアフロウ。うん。ええ」
バルザが弟子の頭をガシガシ撫でた。
「清流スライム〈ピュアフロウ〉これで行こ。もー。あんたら最高やー」
ハーフエルフって、ネーミングセンスの遺伝子あるんかな?
「カツミー。出来たぞー」
「はーい」母屋を出ると、タケシがドヤ顔で立っていた。
目の前にはブルーの屋台。真ん中に大きくミルナの木と車輪のマーク。
「やったー。できたんやー」
タケシに頼んでいたスライムゼリーの屋台だ。
タケシは本来職人だ。こういうのは二つ返事で作ってくれる。今でも時々、弟子を連れて町へ出て、修理仕事を続けている。
カツミは早速暖簾をつける。
〈ピュアフロウ〉ゼリー
薄いブルーにオレンジと赤で縁取ってある。
立てかけたプレートには
清流スライム〈ピュアフロウ〉
*ゼリー(オレンジ・ベリー) 1エニ
*フルーツパフェ 3エニ
*モッチー 1エニ
と書かれていた。
「ええやん」と、タケシ。
「ねえもう1台は?」
「あっち」指差す先は納屋だ。
今もタケシが自分の工房として使っていて、奥はバルザの鍛冶場になっている。
弟子の少年が触っているのは同じ形の屋台だ。
「良かった。クルトーのとこに送らなあかんな」
「あぁ、工房の定期便が明後日やから、間に合わせたんや」
「助かるー。さすがタケシや」
「おだてても何も出ん」
「なああの子、最近きた子やな。えらい子供っぽいけど」
「あぁ、材木屋の次男や。まだ12才。早いとおもて、ずーっとごまかしとったんやけどな」
「断り切れんかったか」
「まぁ12才って、ここらじゃ当たり前にみんな働き始めるし。アイツも親の手伝いは前からしてたから、よう動くで」
「母屋に置いてもよかったのに」
「いや、宿舎の方やったらバルザのとこの弟子おるやん。アイツ15才やから、話し相手になるやろ」
「そやな。そや、おやつにしよか」
「またスライム?」
「あかん?」
「いえいえ、いただきます。モッチー2つ」
「まいど♪」
城から戻って、2カ月が過ぎた。
コンドウ馬車工房はアルナ支店がスタートし、同時に、タケシの納屋の隣に建てた工房では、ミナセでのサス取り付け作業を受け入れ始めた。
そしてカツミも明日、〈ピュアフロウ〉のデビューだ。
アルネシアから届いたパッケージを確かめる。蝋びき紙で作ったパッケージは底を折るとカップになる。パフェ用は木の器。スプーンは木を薄いヘラ状に加工した。
ゴミ箱はパッケージ回収用、スライムを入れて食べさせるのだ。
さてと。あとは......カツミはニヤッと笑った。




