弟子とプニプニ
ミナセに帰ってきたタケシとカツミは、早速各々の作業に取り掛かろうとしたのだが......
「バルザ、どないした」
「いやぁアイツなんですが」
一人の少年を指差した。
最近バルザに弟子入りしたハーフドワーフ。まだ15才だ。
「なんぼ言うても休まんのです」
「あー、バルザもクルトーも最初はそうやったで」
「そうなんですがね。困るんです。目の届かんとこでアレコレ触りよる。やりたい気持ちも興味あるのもいいんやけど」
「まだ何もできんのやろ」
「ほかの鍛冶師の邪魔にもなって」
「あぁ。バルザも休めんな」
「そうなんですよ」
タケシは工房の全員に、週1日の休暇と作業中も2時間置きに休憩を入れるよう撤退させてい
た。
「あんまり言う事キカンのやったら辞めさせたら」
「いやそれが......」
タケシは、先のスパイ騒ぎ以来、工房の従業員達の裏スキルを、オモジイに頼んでチェックしてもらっている。もちろんそれはカツミの工房も含めて。
「オモジイのチェック案件です」
え?スパイ?
「いえ。そっちじゃなくて」
見どころあるからよう見たり。と言われたらしい。
「あー。当たるもんな。バルザもオモジイが鍛冶屋に連れていけって言うから、そこからやもんな」
「そうなんですよ。うまく育てなあかんのに」
「うん。俺がちょっと言うわ。まだ子供や。バルザ、頭ごなしに怒るんやろ。俺が休む意味、話して聞かせる」
「すんません。お願いします」
タケシはその少年を呼んで、外に連れ出した。
草の上に並んで座って、ゆっくり話す。
休日の意味。休憩をはさむ意義。
仕事は集中力が切れるとミスが出る。そのためのリズムを作っていること。
きちんとした段取りと計画的な作業が品質を生むこと。
「これな」
タケシが左手を広げると、大きな傷があった。
「俺も昔は無茶やって、指飛ばしかけた」
開いたり閉じたりする手を、じっと見ている少年。
「......」
そして、弟子と師匠の関係。
「でも僕、早く覚えて一人前になりたいんです」
「あんな。急がば回れって言うんや。
焦って中途半端な事やってもなんにも身につかん。
バルザはお前の師匠や。どう育てるか、ちゃんと考えとるのに、弟子がそれ壊してどうするんや。黙って付いて、言われたことをきちんとやる。それができんとお前、次には進めん」
少年はションボリとうつむいた。
「わかったか?」
頷く少年。
「ほな、バルザのとこに行って、ちゃんと謝ってこい」
少年は駆け出した。
「ふー」タケシは空を仰いでため息をつく。
あー。めんどくさ。しゃあないけど。
ゴロリと寝転んだ。
やっぱりバルザもやけど...ハーフドワーフって、何か持ってるんかなぁ......
カーンカーン。鉄を打つ音が聞こえてきた。
その夜は、タケシの家に、従業員達が集まった。
母屋の広間には馬車工房の職人と鍛冶師達。カツミのスパイス工房にはクレスの正規メンバー。
母屋ではタケシがアルナ出店を報告すると、どよめきが上がった。
「アルナは、向こうにおる職人を出してもらうことになってる。こっちの工房でも、サスの取り付け作業受けることになったから、そこに3人専任でおく。で、鍛冶師は一人アルナに行ってくれ」
「わかりました。ここの人選は私がやっていいですか」リーダー格のベルディだ。
「鍛冶師は私が」とバルザ。
「あぁ。任せる。バルザ、鍛冶師足りてるか」
「市販が始まるとちょっときついですな」
「じゃあ増員の方向で」
細かいことまで詰めて、その後は酒だ。
バルザの後ろに座って、さっきまでメモを取っていた少年に、タケシはハーブ水を渡した。
少年はペコリとお辞儀した。
カツミの方はクレスカレー工房の従業員4名と事務方2名、カレー店の調理人1名。細かい作業や売り子はアルバイトでまかなっている。
「お土産でーす」
7人の目の前に何やら不思議なものが......
「食べてみて」
カツミにそう言われると断れるわけもなく、みんなとりあえず口に入れてみる。
「何ですか?これ」
「蜜かけてますよね」
「プニッとしてて冷たいなぁ」
ニヤけるカツミ。
「ふふーん。それな、スライム」
ブハッと吹き出す奴がいる。
「大丈夫なんですか?こんなもん食って」
「遅いわ。飲み込んでもた」
「うん。これ綺麗な水で育てられた食用スライム」
エヘヘ。そういうことにしよう。嘘じゃないし。
「これ、クレスカレー工房の新商品になります」
「えぇー!?」
翌日から作業開始。
カツミとタケシは井戸のそばにノマドの保管箱を並べた。
井戸水を張り、スライムを入れてエサのハーブを入れて蓋をする。
蓋は大きく穴を開け、網を張った。
プニョプニョ動いているスライムを見て、タケシが言う。
「ほんまにこれで行けるんか?」
「うん。たまーに水変えしてやればいいって。基本的にスライムって雑食やから、汚いもんも食べちゃうんやて。食用するなら、水さえ綺麗にキープできればいいみたい」
「へー。あぁそうか、それで排水とかトイレとかにええんや」
「うん。でな、また思いついたんやけど」
「俺、お前のその思いつきっての、めっちゃ怖い」
「いや、前に言ってたやん、馬車の馬糞取る装置」
「あー。あれ、途中で止まったままやった」
「糞貯めるとこにスライム置いといたら消えるで。多分」
「お?」
「ほんで長距離でも問題ない」
「おお?」
「もしかしたらパッカー車作れる」
「うぉー。一気にデカなった」
「前向き検討を」
ーープニッ♪
「まあ今の仕事すんでからな」
クルッと背中を向けたタケシが
「ありやなぁ。うん」とつぶやいた。
週に1度のスタッフ会議は試食会。
スライム3種類、ソース3種類と謎の粉がテーブルに置かれている。
「はいはい、みんな自分で皿にとって、ソースとの組み合わせも考えてな」
一口大カットしたスライムが、器にてんこ盛りになって揺れている。
ーープルン♪
みんなの顔が暗くなる。
「あのカツミさん。私お腹空いてませんので......」
「こんなもんチュルンで終わりや」
「いや、なんぼ何でもこれでは......」
カツミは自分の皿にとってソースをかけてチュルンと食べた。
「うん。美味しいで」
「いや、何かこんな山盛りにされると......」
またカツミは別の組み合わせでチュルン。
「あ、こっちもええな」
「カツミさん、あの」
「何?」
「せめて見た目変えてください。んで、全種類は無理です。一人3つくらいで」
「もー、めんどくさいなぁ」
と、カツミがスライムとソースを持って台所に行った。
「どうなるかとおもた」
「3つやったら我慢できるやろ」
「いや別に嫌いじゃないけど、山盛り見たら引くよな」
「カツミさん止められるのタケシさんだけやし」
「あ、タケシさんおったな、呼んでこよ」
そうこうしていると、カツミが戻ってきた。
小さな器にスライムを入れ、ソースをトロリとかけて、ミントの葉を飾っている。
「はいはい。これでどうよ」
「あ。食べもんに見えます」
「はよ食べ」
タケシが入ってきた。
「あ、タケシええとこに来た」
これ食べてみて、と出された皿には謎の粉をまぶされたスライム。
「えぇー俺?」周りは知らんふりしてる。
クソっこいつら.....
ヤケクソで口に入れて......
もぐもぐ.......みんなこっそりタケシを見た。
「ん?カツミ、これ......わらび餅や」
「どうよ」
「ああ、俺こっちがええな」
「わらび餅って何ですか?」
あ。分からんわな。
「こんな食べ物」と皿を指す。
「きな粉あったんか」
「きな粉って何ですか?」
あかんわ。カツミをチラッと見る。
「大豆っぽい豆を粉挽きで挽いてみたんや。香り香ばしいし合うんちゃうかなーって。スライムに蜜かけてからたっぷりまぶしてみました。
エヘヘ。スライム餅」
やっぱりスライムだった。




