不思議なゼリー
カツミは、エレナとエリスを連れて、クルトーのカレー店にきていた。
「師匠、お久しぶりです」
「もークルトー。師匠は辞めて。カツミでええねん。あんたかてここの店長や。弟子もおるんやから」
「あ。はい。では....カツミさんで」
「うん。この子がエレナ」
エレナをぐっと前に出す。
「始めまして、エレナです。こっちは娘のエリスです。よろしくお願いします」
「始めまして。助かります。ホールが足りていなくて。ちょうど良かったです」
「良かった。あれ?」
指差す先には何か透明のカップに入った......
「あぁこれですか、これ、スライムゼリーですよ」
「わぁ。食べてみたかったんよ」
「それは良かった。これ、うちの子が作ってるんですよ」
「ほんまに?食べたいー」
「いいですよ、どうぞ」
テーブルに座って、目の前でプルプル揺れているのは......スライム?何かかけてあるみたい。
おそるおそるスプーンを入れ一口。
「うわぁ。面白い食感や。プルプルやけどちょっとシコっとしてて。蜜かけてるんやね。ミントの香りもするなぁ」
「まぁ正直、こんなもん食べられるなんて思ってなかったんですが」
クルトーは一人の男を連れてきた。
「うちの調理人です」
「セ、セイルです」
「セイルがそれ作ってるんですよ」
セイルの出身の山間の村では、当たり前に食用になっていたそうだ。ところが、王都に来たら、ゲテモノ扱い。それでもセイルは食べたくて、自宅で養殖し始めた。ところが、
「王都の水では育たなくて......」
魔石や魔法装置を使って供給している王都の水が合わなくて、わざわざ井戸水を汲み使っているという。
「ス、スライムは水が決め手なんです」
やはり清流に住むスライムが一番だと言う。井戸水でもいいが、何となく違うそうだ。
「で、餌に生ハーブを入れてみたんです」
うつむきがちにポツポツ話すセイル。
「ということはー、ハーブによって香りが変わるんや」
「そ、そうです。カレーのスパイスはダメでした。弱って......」
「うわぁやったんや、それ。
クルトー、町に屋台あったけど」
「あぁあれは、セイルの嫁がやってます。ちょっと試してるっていうか。なんせスライムですしね」
「でもミナセでも噂は聞いたから、案外いけるんちゃうん」
「そうですか?」
「うん。食べる遊びやな、これは。私これ行けると思うで。カレー食べた後にもええやん。さっぱりして」
ふと後ろを向くと、エレナの腕でエリスが眠っている。
「あー。ごめん。寝ちゃったね」
「私、宿舎に案内してきましょうか」と、クルトー。
「うん。お願い。エリス、ゆっくりしておいで」
「はい。ありがとうございます」
その後、カツミは根掘り葉掘り、セイルにスライムの飼育方法を聞いた。
これはミナセでもできるなぁ......
うちは井戸水やし。簡単に増えるみたいやし。
「セイル、スライム分けてもらえる?」
「あ、はい」
よし、じゃあ帰ったらあの樽で......蓋は......
庭のミントがあるし......
考えていると、クルトーが帰ってきた。
「あ、クルトー。これ、私も作るわ」
「は?」
「んでー。ちょっとソースを改良しよ。フルーツ入れてもいいし。ちょっと試してみる。んでいいのができたらレシピ渡すわ。店で出そ」
「店でですか」
「うん。この店で出すにはもうちょい豪華に見せたほうがいい。屋台はソースだけでもいいわ」
「行けるでしょうか」
「スイーツは女子に任せて。うるさいのいっぱいおるもん」
「あ。女神連?」
「そうそう。だから任せて」
「わかりました。セイル、いいよな」
「もちろんです」
「セイルも考えてね。で、ちょっと屋台お休みして、次はカレー店の隣に出す。どう?」
「はい。あ、そういうと、これも作って」
と出してきたのは、薄いピラピラ。
何?生春巻きの皮?ってないわな
「干しスライムです」
「げっ」
「スライスして干してみました。戻すとまた不思議な感じで」
「あんたオモロイなぁ、好きやわこういうの」
干しスライムで盛り上がっていると、タケシが入ってきた。
「おー、クルトー久しぶり」
「タケシさん、お久しぶりです」
「なぁタケシ。これ食べて」
「げっ。これって......」
「大丈夫やから。ほれ」
スプーンを差し出され、仕方なくア~ンするタケシ。
「.......ん?んん?」
「な。これうちでもやるで」
「マジ?」
「うん」
「マジかー」
夜。アルネシアのホテルの部屋で。
タケシはアルナの工房の計画を立てている。
横でカツミはスライムの飼育方法とレシピを考えている。
別々の事を考えているのに、カツミもタケシも、全く同じ方を向いているように感じていた。
翌朝。
タケシとカツミは城へ向かっていた。
「タケシ、考えまとまったん?」
「あぁ。大体な。カツミは?」
「まぁまぁな。帰ったら飼育箱作ってほしいねん」
「ん?水入れるんやろ?」
「うん。いろんなハーブ試したいしなぁ」
「ほな、ノマドの保管箱使えるやん。余ってるやろ」
旅スープ〈ノマド〉ー乾燥具材を使ったインスタント食品で、元は旅行者用としてカツミが作ったものだ。軍の備蓄用として採用され、蝋を使ったその保管箱とパッケージは、ノウハウを国に買い上げられた。今はすべて、専門国営企業からカツミ側が仕入れている。
「ホンマや。あれちょうどええわ。古なったやつ使お」
「カツミ、あのノマドのパッケージも、容器に使えるんちゃうか。プルプル入れて」
「あっ。タケシ、それいける。屋台やったら.....うん。いやーんタケシえらいー♪」
「アハハ......」
「ほな帰りにあっちも寄って」
「はいはいわかりました」
城に着くと、王の私室へ通された。
「カイル陛下、お久しぶりです」
「あぁ、タケシ、カツミ。待ってたよ。どうぞ、座って」
リゥトスもいる。
「早速だけど。馬車工房をアルナでやるって?」
「はい。急いだ方が良いかと」
「うん。大通りの一本内側だけど、国営地があるから、そこを使えばいい。な、リゥトス」
「そうですね、あそこなら広いですし。準国営なので、使っても問題ないでしょう」
タケシは、馬車工房の構想をカイルに説明した。
「その顧客管理ってどうするの?」
「通行証を使おうと思っています」
「それはいい。通行証はねーー」
カイルが即位後最初に手を付けた仕事だそうだ。
元はギルドが発行している通行証だが、役場で町外に出ない市民にも発行し、身分証の役割を持たせた。
今は国民のほとんどが持っていると言う。
「でね、このカード、実は魔石が練り込んであるんだ」
他人には使用できないらしい。
「魔石も魔法も使いようだよ」
やっぱりすごいな、この王様。権力の使い所が違うんや。
「アハハ。10年かかったけど、役に立って良かった」
「はい。それと市販品には通し番号を入れます。事故の際、いつどこで付けたものかも把握できますし、模造品対策にもなりますので」
「アルナの店が始まったら、ミナセの工房でも一般向けの作業をやっても構いませんね」
「あぁ。もちろんだ。あっちが本店だからな」
「カツミの方はどう?こないだ演習の時に、僕も久しぶりにノマドを食べたけど、味が増えてたね」
「今は5種類ですね。何がお好みですか?」
「スパイシーカレーだなー。あぁ、チキンクリームも良かったなぁ。あれくらいあれば遠征でも飽きずに食べられる。ホントに助かってるよ」
「遠征ですか?」
「あぁーーちょっと前にね」
隣国が、国境を越えてきた。国軍をすぐに派遣し、カイエンタイの小隊を付けて威嚇射撃で追い払った。
「当分来ないよ。密偵の話ではかなりビビったようだから」
他の周辺国はおおむね良好な友好関係なのだという。
「そのうちほかの国が潰しにかかるかも。しばらく様子見だ」
「陛下、コイツまた変なものやるって言ってるんです」
「え?何」身を乗り出すカイル。
「変なものって......ゼリーですよ」
「どんな?」
「どんなって......スライムの......」
「えぇースライム??」
カイルとリゥトスが顔を見合わせる。
「で、タケシ、どうなの?美味しいの?」
「あぁ、普通に食えますね。旨いと言うより......面白いですね」
「あの...、食感がとても楽しいんです。ツルっとシコっとフニャっと」
「わかんないー」
「あ、クルトーのところにあります。よければそちらで」
「そうなの。行ってみよう。な、リゥトス」
微妙な顔のリゥトス。
「カツミさんて、いつもそうやって新しい物に突っ込んでいくよね。タケシにしても。君達はいつも前向きだ。本当にありがたい」カイルは軽く頭を下げた。
「いえ。もったいないお言葉です。私達は、自分ができることをやるだけです。こちらこそ、お力をお貸しいただいて、感謝しています」
「タケシ、もうそんなに改まった言い方は止めてくれ。僕達は友だ。この部屋には、私がそう認めたものしか入れないんだ。ここでは普通にして欲しい。な、リゥトス」
「あぁ。外ではダメだが、この部屋はタメ口オッケーだ。だれも怒らん」
カツミとタケシは顔を見合わせた。
「では、陛下...いや、カイル。
俺らそろそろ帰りたい」
「アハハ。そうだね。引き留めて悪かった。また何かあったら連絡してくれ。私もたまにはミナセに行ってもいいし」
「いや。いい」
「もぉー冷たいなぁー」
部屋には、窓からすぅ~っと風が入って、カイルの笑い声が響いた。




