防災と狂喜の球
工房の間を、籠をつけたキックボードがシュルシュルと行き交っている。
「なんか、商会に持っていくたびに誰かが持っていっちゃうんです」と訴えるペータ。
「全然売られへん」とボヤくボイル。
キックボード担当2人組は不満気だが、実際工房側は助かっていて、勝手に前後に籠をつけ、便利に使用中。
「そやなー。そんだけええもんできたっちゅうこっちゃで」
「でも....」
「でもさすがに工房で作るわけにもいかんし.......そや」
タケシは町工房に下ろそうと言い出した。ちょうどいい。仕事欲しいって言われてたしな。
「僕らの仕事は.......」
「ん?次な、ショーボーシャ」
「??」
「アキラ、どうや」
アキラの防災都市構想。ポンプを作っている時に、ふんわり思い描いていたが、忙しくて止まってしまっていた。
「防火水槽とか、整備するのには時間がかかるから、そこはルークさんにイメージだけ言ってあるんですけど」
ポンプにホースを繋いで圧をかけて放水するシステムを試験中である。ただ問題はーー
「取水なんですよ、結局」
「井戸は使えんしな」
「堀を巡らせて排水路にしてスライムを放して浄化、で水槽に貯めて残りは川っていうのがいいとは思うんですけど」
「川の近くは直接取れるけど、ほんの一部やもんな」
「だからこれに関しては、ルークさんに任せるしかないと」
「そやな」
「で、今でもできること、考えてみました」
「どんなん」
「まずーー、カメスラボール」
ドッジボールサイズの玉に水が入っている。
「これ、初期消火用に配ります。屋台なんかは必須にします」
「うん」
「火事見つけたら、みんなでこれ持ち寄って投げる。バケツで汲むより絶対早い」
「それと、小型ショーボーシャとタンクシャ」
「タンク?」
「水貯めた樽を積んだやつを、配備して置いておくんです」
「車付きやな」
「そうです。火事のところ以外から引いてこれるようにしておくんです」
「なるほどな。悪ないで」
「でしょ。だからー、ショーボーシャと、タンクシャお願いします」
「タンクシャな」 タケシが首を傾げる。
「はい。まずは小さいのでいいんです」 アキラは図面を広げた。
四輪の低い台車。 前方に取っ手。 後ろには樽を固定するための枠。 横にはホースを巻き付ける金具まで描かれている。
「これを、すぐ引っ張り出せる場所に置いとくんです」
「なるほどな」
「樽もカメスラコートして、水貯めておきます」
「火事が起きたら、とにかく走れか。人力やな」
「馬使う時間が惜しいでしょ」
「そやな、樽の大きさ、水入れて引ける重さ計算して。取っ手は肩掛け式がええ。力はいるしな」
「わかりました」
ペータが図面を覗き込む。
「これ、キックボードの車輪使えません?」 「使えると思います。小回り効くし」
「どうかな、水、重いぞ」
「走っても途中で壊れないだけの強度は必要です」
「んー。鉄で補強しすぎても重くなるし」
「ちょっとやる気でたやろ」
「はい!」
アキラはさらに説明を続けた。
「消防車の方は、ポンプ固定型です」
「うん」
「火元近くに止めて、別の人がタンク車で水運ぶ」
「分業やな」
「あとカメスラボールを周囲の人に配る」
「初期消火やな」
「はい。とにかく広がる前で止めます」
タケシは腕を組んで、しばらく図面を眺めた。
町を走るショーボーシャ。 水を運ぶ工房員。 ボールを投げる屋台の親父。
まだ消防隊なんて立派なものじゃない。
「真っ赤に塗ろ」
これが みんなで守る街や。
「そうですね。鐘もつけましょ」
「あぁ」
するとーー
シュルシュルシュルッ!!
籠付きキックボードが物凄い勢いで横切った。
「あっ、待てー!それ商会行きー!!」
さらに後ろから別の声。
「道開けてくださーい!」
ガラガラガラッ!!
荷物を山積みにしたキックボードが曲がりきれず盛大に転倒した。
「……」 「……」
「積載オーバー」とタケシ。
「免許いる?」とアキラ。
「いや、先にブレーキやろ」
カメスラボールを持って、タケシが家に帰ると、井戸のところでカツミとカレー屋台の店員が、何やら騒いでいる。
「こう...ですか」ピショ!
「ちがーう。もっと手首返すねん」ビシャ!
ピショ!「あれー?」
「だからー」
「なにしてるん」
手には2人ともレードル。
「あっ、タケシ。いやな、最近また人増えてさ、変な奴出始めてん」
「あー。他所から来とるん増えてるもんな」
「ほんで今日、イチャモンつけられてさ、たまたま自警団の人おって、なんとかなったらしいけどさ」
「ほんで?」
「カレーのかけ方教えてる」
「お前位やろ、あんなうまいことかけれるの」
「タケシさん。難しいんです」
「そやろ、思い切りがな。大体なんでカレーかけるねん。これ以上カレーぶっかけ姉ちゃん増やすな」
「そない言うても、他に使えるもんて」
「あるで。これ」カメスラボールだ。
「カツミ、なんか辛ーい粉作って」
「何すんの」
「これ中身水やけど、辛いの混ぜたん作ってくるわ」
ニヤッとするタケシ。
「これやったらぶつけられるやろ」
コクコク頷く店員。
「へへっ」と、タケシはスキップしながら去っていった。
「タケシさん、楽しそうですね」
「もう私には明日が見えるよ。うん」
翌日の噴水広場。離れたところで串焼きくわえて見ているタケシとカツミ。
カレーの屋台に近づく二人組。
「あ、きたきた。アイツらやろ」
「見た目でもうアカンやつや」
「そら怖いわな」
「頑張れ、勇気出せ」
「いけっ」
バッシャーん!
周りの歓声。
「やった。逃げた」
屋台に行くと、まだ匂いがプンプンする。
「お前、あの粉何混ぜた」
「思いっきり辛いのと、思いっきり臭いの」
「やっぱり俺よりうわてや」
店員がにっこり笑った。
「いらっしゃいませー」
「こら、先にここ水で流せ!」
その後、激辛カメスラボールは全ての屋台に配備された。




