白と黒の昼休み
ついに新工房が完成した。本格稼働を前に、職人やスタッフの研修を進めている。
「タケシさん、今日休みでしょ。何やってるんですか」
タケシは何やら木を削っている。
「これか?」四角い盤を出した。碁盤の目。
「んでこれや」バラバラと出したのは、表と裏が白黒になっている丸い木。
「うっわータケシさん、これリバーシですよね」
「ちゃう、オセロや」
「いやいや、リバーシって言うんです」
「オセロ」
「だからー」
「勝負で決めよか」
「望むところです」
向かい合って、タケシが中央に4個の白黒を置いた。
パチン。パタパタパタ。
「んー」腕を組むタケシ。
「ヘヘっ」ニヤニヤするアキラ。
そこにカツミがやってきて、タケシの後ろから盤を見つめる。
トントンとタケシをつついて、耳元でゴニョゴニョ。
「ほぉ」パチン。パタパタ。
「いいんですか?」パチン。パタパタパタ。
ゴニョゴニョ。
「ええの?」「うん」パチン。パタ。
「へへへ」パチン。パタパタパタ。
ゴニョ。
「どーん」パチン。パタパタパタパタパタ.......
「えー!」
かくして、オセロと命名された。
「またラインですか」
「いや、これは町のな、ソロバンやっとるとこに作ってもらうわ」
「いつの間にこんなん考えたんです?」
「いや、こないだの休みに....,..」
「やっぱり仕事してたやん」
「いや.....カツミ、散歩いこか」
「うん。いこいこ」
「.......」
タケシとカツミが、裏の森を散歩していると、森の奥からルークが出てきた。
「ルークこんなとこで何しとるん」
「ん?家建てよかなーって。この辺に」
「マジか」
「タケシも外に出るって言うし。ぼくのとこにもさ、以前から挨拶に来たいって言うのがいっぱいいてさ。さすがにね、断ってたんだけど」
「居候やもんな」
「うん。まぁここならタケシんちも近いしー」
「城作るんやろ。もっと離れてくれ」
「いや、家。城ってさ、暮らしにくいし。まあ、迎賓館っぽいのは造るけど、そこも簡単なものにしちゃう」
「ええんかい」
「王子が贅沢してなかったら、みんな遠慮するでしょ。いいんだよ。それにさ、どうせタケシのところの様子が気になって来るんだからさ」
「そっかー。まあ好きにし」
「うん。散歩道も作ってあげるね」
「はいはいおおきに」
工房食堂のランチタイム。
制服姿の職人やスタッフが賑やかに食事している。
コンドウ馬車工房は黒。ヒグチポンプ工房のブルー。クレスカレー工房の黄色。商会の白。その他スタッフは薄いピンクだ。
日替わりランチとカレーとラーメン。好きに選んでテーブルに着く。
「あ、今日はコロッケ定食?僕もそれにしよ」
ルークがトレーをもって席についた。
「領主もここかいな」
「いいじゃん♪いただきまーっす」
「あれ、見てみぃ」
隅の一団。人だかりだ。
ーー「あぁー。そこはあかんー」
「へへっ」
「ちゃうやろ」
「こっちや、えい!」
「ズルやー」
「違うわい!」
「ハマっちゃてるね」
「あぁ。こういう娯楽ってなかったんかな」
「貴族にはあるよ、駒動かすの。でも普通の庶民にはみんなそんな余裕なかったもんね」
「あー。ちっこい子供だけやもんな、遊んでるの」
「昼休みとか普通ないし」
「こういう余裕、いるよな」
その時ーー
「コラー!もう仕事始まるから片付けー」腕章を巻いた職長が叫んだ。
「まぁ、ええ塩梅が難しいな」
と言いつつ、またニヤリタケシ。「ええこと思いついた」
「工房対抗オセロ大会?」
タケシの一言が、じわじわーっと周囲に広がっていく。
「対抗ってことは…チーム戦?」
「ユニフォームで出るん?」
「負けたらカレー抜きとかナシやで?」
ざわ…ざわ…と色が動く。
黒、青、黄色、白、ピンク。
ただの作業着だった色が集まり始めた。
カツミはもう動いてる。
「はいはい、聞いてー。夜開催にするでー」
「予選は各工房で。代表二人」
「本戦はトーナメント。三本勝負」
紙と炭でササッと対戦表を書いた。
その手つき、もはや料理人というより興行主である。
ルーク、コロッケを一口かじってから手を挙げた。
「賞品つけようよー」
「お、ええな。何にする?」
「優勝工房には、来月の発注ちょっと優先」
「それガチやん」
「でもやりすぎは本末転倒やで」タケシが指を振る。
ちょい考えて、ニヤリ。
「優勝旗にしよ。でっかい布に、優勝した工房の色で刺繍」
「おお…残るやつや」
「あと、優勝者には二つ名つけたる」
「いらんわ!」
「いーや。俺がつけたる」
「いらんー!」
タケシが木のスプーンでトン、とテーブルを叩く。
「昼はあかん。夜や」
「仕事終わり限定。違反は出場停止やな」
「うわ厳し」
職長も腕組みしてうなずく。
「それならええ。時間守らんやつは知らんぞ」
準備が始まった。昼休みにそれぞれゴソゴソやっている。
・木工は“公式盤”の量産
・ポンプ工房は砂時計で持ち時間を作る
・商会は布と染料で優勝旗の下地
・カレー工房は“観戦用軽食”の試作
いつの間にか、総出で一つのものに向かっていく。
そしてランチの隅の一団。
「ほら見ぃ、ここで角取られるんや」
「いやこの返しがあるって」
「黙って置けや!」
パチン。
……パタパタパタ。
「うわあああ!」
周りの箸が一瞬止まり、笑い声に包まれていく。
ルークがぽつり。
「来年は区対抗かも」
タケシがフッと微笑んだ。
「まあな。誰かがちゃんと暇作ってやらんとな」
黒は黒で固まり、青は青で作戦会議。
黄色はなぜか応援歌を作り始め、白は賭け…じゃなくて予想表を配り、
ピンクは「かわいい盤」作ろうと盛り上がる。
タケシは、トレーをもって立ち上がった。
「ほな、夜な」




