本気の玩具
「撃てー!」
川に立てられた木をめがけて、一斉に玉が飛ぶ。
ポチャ...ポチャポチャ......ほとんどが手前で落ちた。
「お前らー。魚に餌やってどうするー」
「違うんです、魚の士気を上げてるんです!」
「自分の士気上げんかい」
タケシが呆れつつ前に出る。
「これぐらい引いてみ」
ピュン。パチン。
見事に命中。
「おぉー!」
「今の音なんや、気持ちええな」 「“当たり音”って感じするね」
「ほな頑張って」
軽く言い残して、タケシは黒馬車へ戻っていった。
自警団の射撃練習。
カイエンタイの2人が、半分あきれ顔で指導している。
「いいか、狙う前にまず“当たる気”を持て」
「精神論きた!」
「いや大事やぞ。今のお前ら、“外れる顔”しとる」
「顔で外れるんですか!?」
パチン。
ポチャ。
パチン。
ポチャ。
「……あかん、これ川との戦いや」
「木、ほぼ関係ないですね」
「案外難しいんだね」とルーク。
「ん?そうでもないけどな。ゴム引くときに“えいやっ”ってなるやろ?」
「なるね」
「それ、半分ビビっとる」
「タケシはうまいじゃん」
「俺よりなー。ガキどもの方がうまなったわ」
ちょうど横で、子どもがパチンと命中。
「ほらな」
「今の子、目つきが狩人だったよ」
「スナイパーやな。デカなったら自警団に勧誘しよ」
パチンコ本体は、タケシとペータとボイルが手作り。
玉はアキラが生産ラインで量産中。
「まぁ内職や。こんなんに職人回せん」
「それで当主自らやるのか…」
「領主も自らやしな。うちは全員プレイヤーや」
「人使い荒いよね、この領地」
「カツミさんの工房できたみたいだね」
「あぁ、あそこはな——」
説明しようとした瞬間、
パチン!
ボコン!
「うわっ当たった!!」
「誰や今の!?」
「俺です!!たぶん偶然です!!」
「正直やな!」
ノマドの工房は2階を増築。乾燥場を確保して1階を拡張。
さらにラーメン専用工房まで建設中。
「もうすぐ動くやろ」
「で、門番タツオ」
「あー。優秀やわ、カメキチ5連敗」
「懲りないよね、カメキチ」
「アキラの眷属やからな、アホが移ったんちゃうか」
自警団、少しずつ当たりだす。
パチン。
パチン。
パチン。
「お、流れきたぞ!」
「今の俺、風と会話できてる」
「急に詩人になるな」
「よーっし。5発連続当たったら上がりや!」
「えぇー!?」
挑戦開始。
パチン!「1!」
パチン!「2!」
パチン!「3!」
「きたきたきたきた!!」
パチン!
……ポチャ。
「なんでやねん!!」
「川が呼んだ!」
「呼ぶな!」
「俺、まだ当たってない!」
「腕痛いー!」
「僕は面白いっすよ」
「お前も当たってないやんけ!」
結局、日が暮れても誰も達成できず。
「今日はここまでー」
「くそぉ…明日こそ5連…」
川だけが、やたら満足そうにチャプチャプしていた。
コンドウ家の庭先。
ペータとボイルの前に、二台の板が並ぶ。
一台は、たくさんの修理の跡。
もう一台は、綺麗に仕上がっている。
タケシとバルザは、無言でそれを裏返す。
「……ほう」
バルザが指で弾いた。
「いいですな。これ、サスですな。ゴムで逃がしておる」
「な、バルザ」
タケシが口の端をニッと上げた。
「馬車にいく前に、これで試せるんや」
「車軸も....変えてますな。荷重が一点に来ますからな、小さい方がシビアです」
「あぁ。せやからええ練習になる」
タケシは板をひっくり返し、地面に置いた。
「ペータ。乗ってみ」
「はい!」
ペータが片足で地面を蹴る。
――シュル、シュル……
静かに、それは、長く滑った。
「……おお」
バルザの目が細くなる。
「これは、ええ。タイヤに巻いたゴム、効いてますな」
「そやろ」
タケシは腕を組んで、ゆっくりと二人を見た。
ペータとボイルが、息を呑む。
「……合格や」
「――!」
二人の顔が、一気にほどけた。
「ペータ、ボイル。ようやったな」
「師匠、ありがとうございます!」
揃った声に笑顔が弾ける。
タケシは一呼吸して言葉を繋いだ。
「でやな。本来やったら、ここからは工房で下積みや」
二人の背筋が、ぴんと伸びる。
「……せやけど」
少しだけ目を細める。
「お前らには、これをやってもらう」
足元の板を、軽くコツンと蹴った。
「これにハンドル付けて、乗りやすくする。んで、売る」
「……え?」
「キックボード屋、やるで」
フッ.....と静かに風が通った。
「工房は、今まで通り納屋使え。好きにいじれ」
二人が顔を見合わせる。
驚きと、戸惑いと、ちょっとだけワクワク。
タケシはくるっと背を向けた。
「ほな、次やること教えたるわ」
納屋の前に作りかけのパチンコ。
「……あ。これも担当やで」
「なんでですか!?」
庭に、笑いが弾けた。




