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村から街へ


コンドウ家の座敷。いつもの会議メンバーが集まって、王都の報告会だ。ルークが紙を広げて説明している。


城にカレーを持っていったあと、タケシは、カイルとルークの話に巻き込まれ、結局その日は城に宿泊する羽目になった。

カツミの方は、ヴァルディス国王にカレーを絶賛され、結局、調理人を派遣したら育てるということで、手を打った。

教育は、クルトーに任せればいいや。こっちはそれどころじゃないし。



「いやぁそれにしても、輸出することになるとは」

「これではもう村ごとですな」

工場の造設や新設、人員の増加に伴う住居の確保。ゴム製品の製造が始まることを見越して進めなければならない。

村の畑を買い上げて、用地を今ある工房の近くに確保し、工業地区としてまとめる。

元々収穫の半分以上がカレーとノマド用だったので、すべてクレスで買い取り、余る人手はクレスの工房で働いてもらうことにした。

「まぁそういうことになるね」

ルークは涼しい顔だ。

「住居はこのエリア」地図を指す。少し町に近いところだ。

「少し店とか出したら、村の人たちも助かるだろうし」

「村っちゅうよりもう街やな」

「で、なにからやるの?」とアキラ。

「まずはスライムやろな」とタケシ。

「材料確保、そのための施設からやで」

「やっぱそこか」

「工房は今まで通り仕事してくれ。準備が整い次第少しづつ動かすけどな」

「食用と工業用は混ざらんようにせなあかん」とカツミ。

「どっちも食えるけどな」

「混ざったらアカンで。食感別モンや。そこはきっちりな」

「カメキチにはしっかり言い聞かせます」とサーシャ。

「言うこと聞くんか?あのカメ」

「餌付けで何とか」

「でな、サーシャ。研究室は、2人ずつで俺のとことアキラのとこに分かれて開発な。サーシャは日用品。カツミやアキラに聞いてアイデアもらえ」

「わかりました」

「ええか。急がんでもええ。1個づつ確実にな。みんなもやで、焦ってバタバタするなよ。今できることを、きっちりやってな」

「ボチボチですな」とバルザ。

「そや。俺ももう目まぐるしいてしんどいわ、ボチボチやろ」

「んじゃ、僕はボチボチ街の方ね」とルーク。

「そこ、遅れたら詰まっちゃうよね」

「領主やからさっさとな」

「なんでやねん」



結局一番大変だったのはルークで、毎日あちこち飛び回って、土地の確保や村との調整、さらにはミナセ全体を考えて建築士や資材の手配を進めている。

「でもまぁ、領主命令だから誰も断れないんだよねー」

赤い目を隠せないが、それでもルークは相変わらずのマイペースで笑った。


そんなルークと、タケシは馬車で町に向かっていた。

「今日はどこに行くの?」

「オモジイや」

「僕は冒険者ギルドまで送ってね」

「はいはい」

「で、オモジイと何すんの?」

「カメ避けや」

カメキチがついにクレス工房に侵入した。サーシャの餌付け作戦は失敗したらしい。

直ぐ見つかって連れ戻されたが、全く懲りる様子がない。

で、オモジイと相談して網型カメホイホイを養殖箱にかけるようにしたが、しょちゅう引っかかってジタバタしている。

で、工房に入れないようにすることにしたのだ。

「なんかちょっと当てがあるらしいわ」

「まぁ神様だからね。眷属くらいなんとかできなきゃね」

「カメキチは功労者やから大事にしてやりたいけど、こればっかりはな。アイツたまに水飛ばすしな」


オモジイが出してきたのは、膝くらいの高さの龍の置物。

「まぁ形は何でもよかったんじゃが。これじゃよ」

指に乗せた小さな欠片。

「これな、龍の鱗の欠片なんじゃ。昔な、高龗神にもろたん思い出してな」

「高龗神......」

「カメキチは、ミズハが連れてきたからな、高龗神んとこの龍なら、たとえこんなちっこい鱗でも、効果あるはずや」

そう言うと、置物の背中に欠片をくっつけた。

ふわっと青い光が立ち、置物の目が赤く光って、消えた。

「うむ。よかろう。工房の入り口に置いてみ」


「どうやった?」

「うん。ヤマト様が担当してくれるって」

ルークはミナセ全体の警備の強化を考えている。軍がない神の住む町だが、人口増加に伴って、これまでのように冒険者ギルド頼みだけでは、済まなくなって来ていた。

「軍程じゃないけど、自警団は必要だよ」

民間から募集して組織化し、訓練する。

「それ、ヤマト様大変やぞ」

「うん。リゥトスに頼んで、カイエンタイから2人回してもらう」

「マジか」

「タケシ、工房周辺だって配置しないといけないよ。タケシはそういうとこ呑気だよね」

「あー。俺、これあるで」

御者台の後ろからゴソゴソ出したのは胡椒玉。

紐をビュンビュン振り回し、木にめがけて投げるとパン!と破れて胡椒が飛び散った。

「面白いなぁ、タケシ。人を傷つけずにダメージ与えるなんて」

「あぁー!」

タケシがの目がキラッと光る。

「これ、ゴム使って......、袋もカメスラで玉にしたら.......」

「ん?」

「パチンコや。うん。ルーク、飛び道具出来るで」

「え?何それ」

「へへっ。まぁ待っとけや」

タケシ、ニヤニヤが止まらない。

「絶対ロクでもない顔してるよね、それ」 ルークが半目で言う。

「ロクでもあるわ。めっちゃあるわ」 タケシは胡椒玉の残りを指で弾いた。

「これな、今はただの投げもんやけど……伸ばして、弾いて、飛ばすんや」

「??」

タケシは手綱をルークに渡すと、空中に線を描くように手を動かす。

「こんな感じのな、Y字の木にゴム張って、ここに玉置いて……ぐいーっと引いて、パッや」

「ビュンって行く?危なくない?」

「あぁ、そやから玉はカメスラで中身胡椒、あ?カレーもええな、色ついて」

「食えるやつで撃つの!?」

「食えるから安全やろ」 「基準おかしいって」

タケシはケラケラ笑った。

「でもな、これええで。人は傷つけん。せやけど、近づかせへん」

「警備用か」

「せや。自警団にも使えるし、工房の周りにも置ける」

「タケシ……量産する気だね?」

「当然やろ」

ルークは少し考えてから、ふっと笑った。

「タケシもオモジイ並にすごいね」

「一緒にせんとってくれ」

工房が見えてきた。その時だった。

——バシャッ!

「うわっ!?」 ルークが声を上げる。

馬車の横を、水の塊がかすめ飛んだ。

「……来よったな」 タケシがため息をつく。

道の脇、用水路の中。 ぷかぷかと浮かびながら、じーっとこちらを見る小さな黒い影。

「カメキチ……」 ルークが呟く。

「なんでここおるんよアイツ」

カメキチは、じっと見ている。 そして——

ピュッ

また水を飛ばした。

「……挑発しとるな」 「完全にしてるね」

タケシはゆっくりと、さっきの胡椒玉を手に取った。

「よし」 「ちょっと待って!?実験台にするの!?」

ニヤリ、とタケシが笑う。

「初撃や。記念すべきな」

風が少し止まる。

タケシの手が振りかぶられ——

パンッ!

白い煙のように胡椒が弾けた。

「……」

「……」

次の瞬間。「ぶぇっくしょい!!」

ルークがくしゃみを連発した。

「そっちかい!!」

カメキチは——

スッ……

何事もなかったかのように、水の中へ沈んでいった。

「効いてないじゃん!!ぶぇっくしょい!」

タケシは腕を組んだ。

「……やっぱり、ゴムやな」

その目は、完全に発明家のそれだった。



クレス工房の扉の前にちょこんと置かれた龍の置物。

カメキチはその前で止まった。

首を伸ばしてしばらく見ていたが、中に入ろうとするとーー

一瞬ピカっと光って、カメキチが首を引っ込めた。

ソロリと首を伸ばして、再度挑戦するも、今度はひっくり返ってジタバタしている。

起こしてやると、トボトボと戻っていった。

「結界みたいになってるんかな」

「俺らにはなんもないけどな」

「まぁこれで安心やな」

とカツミが龍の頭を撫でた。

翌日、龍の胸には「タツオ」と書かれたプレートがぶら下がっていた。



タケシは納屋で、ペータとボイルと一緒にパチンコを作っている。時々引っ張ってみる。3人とも妙に楽しそうだ。

「おいタケシ、それなんだい?」

「うっわびっくりしたー。来てたんか」

リゥトスが、カイエンタイのメンバーを2人連れて、アルネシアから来ていた。

「何を作ってるんだい」

「これかー。これはなー」

玉をとって、離れた木に狙いを付ける。

パン! 玉が弾けて胡椒がモワリと広がった。

「パチンコです」とペータもパチンと飛ばす。

「おもちゃか?」

「自警団の飛び道具にするんや」

「なるほどなぁ、クシュン。え?胡椒?クシュン」

「ハハッ、すまん、ちょい風向き悪かったな」

「いや、これ戦意喪失するな。クシュ」

「こっちもあるで」

ピュンと飛ばすと黄色い汁がパチンと弾けた。

「これは目印用。逃げるやつに目印付けられるやろ」

「すごいなぁ、うちも配備するかな」

「お前んとこ飛び道具あるやんか」

「いや、あれは町中では使えん」

「でも、カイエンタイがこんなん使こたら、イメージ崩れるぞ」

「確かに.....」

「ん?でもでっかいの作ったら、大砲みたいにできるかも」

「どういうこと?」

タケシが地面に絵を書き出した。

「これ馬車や。んでここに台おいてーーんでこんな感じで発射台な、ここにゴム貼って。んで引っ張って飛ばす」

「おい......タケシ......」

「ん?」またパチンコを作り出した。

「それ.....作ってくれ」


「いやー。今そんなことする余裕ないで」

「国の予算取ってくる。うちの研究員も出すから」

「えー。めんどー」

「今のやつ、戦が変わる」

「ん?」

「被害最小限で決着させられる。魔道士狙ったら詠唱止められるし」

「あー。なるほどな」

「帰ったら直ぐカイルに話通す」

「はぁー。また仕事増えてもた」タケシはパチンコの木を削り出した。










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