国を超える技
「それでね、わたくしお父様に申しましたの。いい加減に子供扱いはやめてくださいって。そしたら.......」
王都に向かう馬車の荷台で、ナターシャとカツミが楽しげに話している。
御者台にはタケシとルーク。
「さすがに本家黒馬車は違うね」
「まぁな」
「バルザ、ほぼ出来てるんや、ほんまは」
「そうなの?」
「でも、出せん。バルザしか出来んから」
「もったいないなぁ」
「いや、板バネの方がここには合う。ゴムでもっと良くなるし。バルザも納得しとる」
「そっか」
「それよりな、道舗装した方がみんな喜ぶぞ」
「あー。確かに。ミナセも繁華街だけだもんね」
「あぁ。うちの周りは俺が私費でやったんや。馬車の出入り多いから」
「わかった。領主として前向きに検討させていただきます」
「まあバルザ時々作ってるから、言ったらつけてくれるかもな」
「えっホント」
「あぁ、腕落とさんようにやってるな」
「じゃあ頼んでみよう」
「ええんちゃう。領主やし」
「王様には内緒で」
「そやな。めんどくさいな」
城について、馬車を停めた。
「まぁ、お父様の馬車だわ」
「え?」
「やっぱり来てたかー」
「誰が」
「グラニオス国王」
「マジか」
ナターシャが駆け出した。
「お父様ー」
アルネア国王カイルの私室。バタンとドアを開け、ナターシャが飛び込むと、そこには、大柄で堂々とした男がナターシャを待っていた。
「おぅおぅ、ナターシャ。元気だったか」
抱きしめようとする男を、ナターシャはさらりとかわす。
「えぇ、毎日とても楽しくて」
「ナターシャ、なんじゃその格好は、ドレスはどうした」
「お父様、ドレスでは動けませんわよ。薪割りが出来ません」
「なにー。薪割りじゃとー」
男がルークをキッと睨んだ。
「ルーク貴様、私のナターシャに何を」今にも掴みかからんばかりだ。
「お父様、わたくしもう薪割りは完璧なんですのよ」
男の顔が真っ赤になってきた。
「あー。ナターシャ、隣の部屋で、ゆっくりヴァルディスとお話しておいで」とカイルが促した。
ナターシャが男を引っ張って隣の部屋へ。カイルはルークに、お前も行け。と目で促す。
しぶしぶ隣の部屋に行くルーク。
ーー「ルーク貴様ー」「待ってお父様ー」
「大丈夫か?カイル」
「まあ大丈夫だと思うよ。ヴァルディスはナターシャには甘いから」
「ならいいけど、驚かすなよ」
「アハハ。まあ座って、タケシ。カツミさんも。報告あるんだろ」
「あぁ。これだ」
タケシがゴムの細い板を出した。
「へぇー、これがゴムか」
手にとって、曲げたり引っ張ったりしている。
「うわっ。こんなに曲がっても折れないんだ。うそ。伸びる」
「あぁ。色んなものに使えるぞ」
「こっちでは作れないって話だよね」
「あぁ」タケシはカメスラの説明をした。
「そっかー。本当は国が持ちたい技術だけれど。それなら仕方ないなぁ」
ーー「なにー」「だからお父様ー」
カイルがプッと笑った。
「僕らには、何に使えばいいのかさえ分からないし......タケシ達に任せるしかないな」
「ポンプやサス以外にも生活用品にもな。まぁ使い道はこれからや」
「そうか......それを開発していくには金と人。ってことだな」
「そうだな」
「わかった。国家事業としてサポートする。その代わり報告は必ず逐一。いいな」
「助かるよ」
「タケシ、僕も何とかできないかと、魔道士を使って試してみたんだ。でもうまくいかなかったよ。サスもポンプも」
「やったのか」
「形は真似られるけど、魔道士ではそこまで。機能が全く再現出来ないんだ」
「うちの職人には勝てんか」
「そうなんだ。新しい発想にはついていけない。この世界の限界だ。魔法に頼っていた弊害だろうね」
「人の力に勝る物はないな」
「そういうことだ。だから協力は惜しまない。頑張ってくれ」
「あぁ」
「カツミさんも出来たんだろ」
「はい。これです」包みをテーブルに置いて広げた。
「これかー」
カイルが包みを開いていると、隣の部屋から3人が戻ってきた。
「失礼した」
「あぁヴァルディス、こちらがタケシさんとカツミさん」
「ヴァルディス=グラニオスである。......娘が......世話になっておるようで......」
「もういいから、ヴァルディス、座って」
モゾモゾと席につくヴァルディス。
「で、カツミさん、これがあのラーメンになるの?」
包みの中は乾麺とノマドだ。
「なんじゃ?それは」
「お父様、わたくしも手伝ったんですのよ」
「そうかー」と顔を崩すヴァルディス。
「説明するより食べた方が分かるよね。カツミさん」
「はいはい。わかりました。厨房お借りしますね」
カツミが包みを持って出ると、ナターシャもついて行った。
「で、こっちのはなんじゃ」
「どうぞ、触って構いません」
ヴァルディスはゴム板を弄くっている。
「なんじゃ、このグニャグニャと......」曲げて.....ひねって......
「うちの新製品だよ、ヴァルディス。僕もまだよく分からない。タケシが開発したんだ」
「おぉ。伸びるぞ」
ギュッと伸ばして手を離した。
「うわぁ」
「これは、まだこれからの素材なんだって。それより他にあるんだろ」とカイル。
「そうじゃ。タケシとやら。ここで色々と見せてもらった。是非我が国にも導入したいのだが。えっと、ポンプ?あと馬車のやつな」
タケシがカイルをチラと見る。頷くカイル。
「製品の輸出でしたら、できると思いますが」
「おお。そうか」
「ただ、まだ国内にも生き渡ってはおりません。増産して輸出となると、工房も職人も足りません。最短でも1年はお待ちいただくことになるでしょう」
「お義父様。設置にも職人は必要です。育成にも時間がかかります。そちらもお考えになられて」
「そ、そうだな......」
カツミとナターシャがワゴンを押して入ってきた。
椀がテーブルに並ぶと、ヴァルディスはまた覗き込む。
「これは....」
「お父様、召し上がって。美味しいですわよ」
ズズッ。
「ほぉ。これは旨いな」
「カツミ、いいねーラーメンだ。うん」ズルズル。
「こちらも食べて見てください」
「あ。これはスパイシーカレーノマドだ。うん。麺もよく合う。うまく考えたね」
「おぉ、なんと」ズズズ。
「お父様、これ10分でできるんですよ」
「えぇー」
「これ、また軍が喜ぶね」
「何、軍だと?」
「あぁ、ノマドは国軍の常備食にしてるんだ」
「.........」
ヴァルディスはカイルと椀を交互に見て、タケシに向き直った。
「これは、これも出せるか」
「はい。ノマドは出せるでしょう。麺の方は、今生産準備中ですので、もう少しかかりますが」
「カイル。お主何故もっと早く教えてくれんのじゃ」
「だって聞かれてないもん」
「ねえお父様、これスライムが入ってますのよ」
「........スライム......」
「えぇー!」
城を出て、タケシとカツミはクルトーの店に行った。
ルークはカイルと今後の事を打ち合わせ。ナターシャは父ヴァルディスと話し込んでいる。
ガラン。ドアを開けるとみんな待っていた。
「タケシさん、カツミさん。お久しぶりです」
クレスカレー工房2号店店長のクルトーが出迎えた。
「今日は貸し切りにしてあります」
「あぁ。ありがとうな」
コンドウ馬車工房アルネシア支所リーダーのスティールと、アルナ店の店長。
そしてなぜかリゥトス。
「ん?お前なんで」
「面白そうだしな」
「まあええわ。ともかくこれな」
トン。とゴム板をテーブルに出す。
「まだ製品化は先になるがな、こういう素材ができた。見せとこうと思てな」
曲げて、捻って、伸ばして......
「ほぉ。こんな素材は初めて見ました」
覗き込むリゥトス。
「まぁ多分これがどうなるかは、想像つかんやろけど......」
「今後部品に組み込む可能性があるから。その時はまた順番に研修に来てくれな」
「はい。わかりました。それにしても、面白いですな、これ」
「あぁ、そやろ。それ、置いていくから、お前らも考えてみ。何ができるか」
「はい」
「タケシ、できたよ」
「お。食おか」
「これ、ラーメンに似てますな」
「そう。乾麺にしてノマドと組み合わせてるんよ」
「クルトーさんの屋台のラーメンとはまた違いますが、これはこれでいいですな」
「カツミさん、これって」とリゥトス。
「分かってるって。軍でしょ。回しますから。待ってて」
「うむ。......タケシのも、よくわからんが、凄いことはわかる」
「今から商品開発やからな、まだよくわからんでええけどな」
「何でできてるんですか?」
「あー。これな、スライムの変異種」
「スライム....ですか」
「そうそう、この店の子やろ、最初にゼリーやったやつ」
「あぁ。呼びますね。セイルー」
「はい」奥からセイルが出てきた。
「ありがとうな、君がスライム持ってこんかったら、これ出来てないんやで」
「いえ、僕は何も」
「いや。進化させたのは俺らやけど、ゼリーが無かったら気付かんかった。報奨出したいけど何にしよ」
「僕.......」
「セイル、何でも言っていいよ」カツミが後押し。
「僕、店が欲しいです。.....故郷の町に」
「いいじゃんタケシ、暖簾分けや。3号店」
「そうやな、クルトー、大丈夫か」
「はい。もうカレーは任せられます」
「ほなセイル、頑張りや」背中をポンと叩くカツミ。
「はい!ありがとうございます」
「そうやクルトー、カレーある?」
「えぇ。城でしょ」
「え?聞いてた?」
「はい。時々注文があって、配達してますし」
「持って行くわ」
しゃあないな。戻るか。




