姫の想い
コンドウ家の台所、カツミとナターシャが小鍋を覗き込んでいる。
「どうでしょうねー」
カツミが小鍋を混ぜて、火から下ろし、2つの器に分けて入れる。
「どうやろな」
ズルズル。
「あら」「来たな、これ」
ズルっ。
「カツミさん、天才ですわ」
「ねぇカツミさん。わたくしの国ではこういうの食べられませんよね」
「うん」
「皆にも食べさせてやりたいです」
「まぁうちのは......出せんこともないけどな」
「そうなんですか?」
「別に食べ物やから、広がって悪いことないよ」
「ポンプとかサスは?」
「あっちはどうかな。技術出すのは無理やろな。でも.....」
「ルークに言うてみ」
「そう....ですね......」
「ルークどうでしょう」
「そうだねぇ。グラニオスとは長くいい関係だし、僕が父に話してみようか。ポンプとかは...んー。そうだなぁ.......製品を輸出するなら......まぁちょっと待ってて、聞いてみる」
ナターシャはちょっと微笑んだ。
コンドウ家、いつのも定例会議。
サーシャの研究室が主なテーマだ。
「研究室は造設、研究員4名が派遣されました。今カメスラパウダーも増産中ですから、整い次第各々テストに入ります」
「そっか。焦らんでええけどはよしてな」
「どないせえっちゅうねん」
「もうここは待つしかない」
「はいはい」カツミが手を挙げた。
「これ」何この固まり?
「カツミ、これはーーあれや。出来たんや」
「あれ?」「どれ?」
「でな、こうなります」
ナターシャがお盆に椀を乗せてきた。
「ラーメン?」「いつのもとは違うな」
「食べて」ズルズル。
「ん?ラーメンぽいけどちょっと違うな」
「スープはノマドっぽい」
「えーっと。即席麺です。ノマドで煮込むとこうなります」
「普通に干してもあかんかったんやろ」
「うん。サーシャが油使ったって聞いたから、揚げたらどうかなーって」
「うっわ。どこでつながるか分からんな」
「茹でて、揚げて、で、乾燥や。めんどいけどいけるやろ」
「これまた軍が喜ぶよ、カツミさん」
「ルーク、ナターシャに手伝ってもらったんよ」
「そうなんだ。ナターシャ良くやったね」
恥ずかしそうな笑顔。
「カツミ今後は?」
「もうちょいスープを工夫して、ラーメンぽい味に寄せてな。ほんでノマドラーメンで販売かな」
「ええな。これも食の革命かもな」
「そんなたいそうやないけど、ちょっと工場拡張するな」
「食用スライム〈ピュアフロウ〉、工業用スライム〈カメスラ〉なんかすごいですね」
「まさかここまで来るとはな。最初ゼリー食わされた時にはビビったけど」
ほんまやーハッハッハー
「なぁカツミ、ノマドラーメンはあれで完成か?」
「ん?」
「カップラーメンにはせえへんのか」
「あー。そこな。出来るかもとは思う。けどせえへん」
「なんでや」
「この世界には必要ないよ、タケシ。便利にしすぎたらアカンと思うで。第一、容器とか無駄やん。なんぼスライムに食べさせるって言っても。
薪で火を起こす世界に、あれはアカンと思います」
「そやな。正しいわ」
「うちらは知ってるからそう思う。アキラも食べたいやろな、カップラーメン。でも便利に慣れる方が怖いよ。ここの人が考える分にはええけどな」
「お前厳しいな」
「ここが好きやから、壊したくないねん」
「師匠、見てくださーい」
ペータとボイルがタケシを呼んでいる。
「お。出来たか」
卒業試験のスケボー。
タケシがひっくり返して裏を確認した。
「うん。乗ってみ」
ペータが片足を乗せ、蹴った。
ゴロっ、ゴロゴロ
まあ土やしな、悪ないな。
ボイルと交代して......遊んでいる。
まぁ子供やな、やっぱり。
見ていたナターシャが
「わたくしもやってみたいです」
「おーいペータ、変わったって」
ナターシャが足をかけ、蹴る。
ズデン。ペータとボイルが駆け寄った。
「姫ー。大丈夫?」
「ええ。もう一度」
ズデーン。
「姫ー。」
「......」お尻をはたきながら立ち上がったナターシャは、悔しげに吐き捨てた。
「明日も参ります」クルッと帰って行った。
「あれ、ケツ痛いんやろな」と笑うタケシ。
「毎日来るぞ。まあ貸したって」
「はい」
「んでお前らな、ナターシャが壊したら修理する。んで、もう1個作っとけ。修理した部分は強化するんやで。もうちょっとしたらもう一段上が作れるからな。待っとれ」
「はい!」
案の定、毎日ナターシャはペータ達のところにやってきて、10日程でマスターした。
「ルークさん、姫って根性ありますね」
「そうでしょ。僕の嫁だもの。まあ青痣だらけで心配したんだけど」
「なんかね、肘とか膝とか巻いてきて、兜かぶってましたよ」
「そうなんだ。見たかったな」
「僕ら、誰も来ないか番させられました」
「まぁ一応姫なんだわ。許してやって」
次の定例会議では、サーシャがまた固まりを持ってきた
「かなり安定した品質になってきました」
みんなで順に手にとって見る。
「あぁ。ええな」
「これで何ができるんですか」
「俺のとこもアキラのとこも使えるで」
「僕、ホース作りたい」
「そうやな、他にもパッキンとか」
タケシがギュッとつまむ。
「金物の間に挟むやん。力加えるとグニャっとなって、戻ろうとする。で、ピッタリくっつく」
「ほー。それはいいですな」
「あとサスにもな。緩衝材になる。今の板バネに付けて、さらにクッション性が良くなるな」
「すごいよタケシ」
「他にも工夫次第やで、これは。めっちゃ広がる」
「タケシ、父のところに行こう」
「え?また?」
「お金出させるよ」
「ほないこか」
その夜みんなが帰ったあと、タケシとルークは座敷で一杯やっていた。カツミがツマミを出すと、すっと下がっていった。
「タケシのとこから国で買い取ったのは、蝋びきとスライムコートだっけ」
「そうやな」
「欲しがるよね、きっと」
「でも無理やで、亀が噛んどるから」
「そうだよねー。連れて行くわけにもいかないよね」
「神からもろた眷属やで、へそ曲げたらでけへんぞ」
「うん。やっぱここじゃなきゃ出来ないよな」
「あぁ。スライムコートもゆくゆくはゴムに取って代わるかも知れん」
「んー。うまく逃げ道探さないといけないかな」
「そうだな」
「とりあえず、工場拡張できるようにしとくね」
「あぁ」
ルークの目がキラッと光った。
「タケシ、輸出しよ」
「何を」
「ノマドとかポンプとか。サスもいける」
「はぁ?」
「ナターシャの国グラニオスって鉱物資源が豊富でね、アルネアは半分輸入なんだわ」
「ほぉ」
「父に、鉱物との取引のカードとして使ってもらう」
「そんなんでうまいこと行くんか?」
「多分」
「多分かよ」




