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育つ街


コンドウ家の朝は戦場だ。濛々とした湯気の中、足音と鍋の音が響いている。

「おはようございます」と顔を出したナターシャは、その様子に驚いて立ち尽くした。

「はい。これ座敷に持っていって」タケシが大皿を差し出すと、慌てて受け取った。


「ルーク驚きましたわ、わたくし。当主自ら朝食を作るなんて」

と言いながら、おにぎりをほおばるナターシャ。

「まぁ。美味しいわ、オニギリ」


プニュ♪ 「まぁ、これがスライム」と、指でツンツン。

井戸ではポンプが面白くて、いつまでもザアザアやって、タケシに叱られた。

見るものすべてが新鮮で、驚くばかりのナターシャは、働く人にさえ目を丸くし、素直に感動を口にする。

「ルーク、わたくし薪割りしますわ」「じゃあやってみる?」

10分後ーー斧が刺さったままの薪と、赤くなった手を見て。「わたくし、明日も頑張ります」

薪をポコンと蹴飛ばした。


「案外続いてるな」

「タケシ、彼女は馴染むよ」

「あぁ。次かまど係な」

「オッケー」


薪割りの合間に神出鬼没で現れるナターシャに、みんな苦笑しながら相手する。目を輝かせて話を聞くナターシャを、職人達は、姫と呼びながらも可愛がっているようだ。




定例の全体会議。今日はルークも参加、後ろにナターシャもちょこんと座っている。

いつも通りの順に業務報告をする。そこでーー

「これなんです」サーシャが、小さな固まりを机の上に置いた。

サーシャはカメキチスライムが乾燥に強いことがわかってから、その特性を研究していた。

タケシが手に取る。

「ん?これーー。サーシャ、何混ぜた」

タケシは固まりを弄くっている。

「油と、石灰です。それを加熱しました」

「アキラ、お前やな」

「あ。バレた。

僕、なんとなーく思い出してさ」

「何なのタケシ」

「これは......ゴムや」

タケシの指が固まりを押すと、グニャっとゆがんだ。

「ゴム?」

「見てみぃ」みんながタケシの手元を覗き込む。

指で曲げるとグニャっと歪み、離すと戻る。引っ張るとわずかに伸びてまた戻った。

「これは....」みんな理解が追いつかない。

「サーシャ、これまだ完成じゃないな」

「はい、まだ不安定で....偶然に近いのです」

サーシャがアキラの方を見て、うつむく。

「ルーク。これは......産業革命や。

すぐにカイルに言って、研究員を増員してくれ。

サーシャは引き続き研究を続けて。

あと、アキラ。カメスラ増産や。研究室の造設と、乾燥施設も作れ」

「そんなにすごいものなの?」

「ワシようわからん」

机に置いた固まりを、みんな指でつつき出した。

「あぁ。すごいぞ」

タケシがニヤリと笑った。

「製品化できればな。間違いなくカイルが食らいつくぞ」

「わかった。すぐ使いを出す」



「じゃぁ僕からも報告」

「何やねん」

「噴水広場の近くに役場を作りました。全員1か月以内に住民登録を行ってください」

「いつの間にそんなこと」

「帰った時に、役人を連れてきてたんだ。噴水広場の近くに空き家があったから改修した」

「あそこめっちゃボロやったはず......」

「やるな、ルーク」

「まぁね、これでも領主だから。で、タケシは次の寄り合いには必ず参加して」

「なんで俺が」タケシが湯呑みをコトンと置いた。

「タケシはいい集まりを作ったね。あの寄り合い、そのまま使わせてもらう」

「あそこにも行ったんか」

「うん。いいよねー。あの雰囲気。おじちゃんもおばちゃんも案外真剣。おやつ食べながらだけどねー」

「そうやろ」

「だからね、そこにギルド長を入れて、街づくりを進める」

「はぁ?」

みんなの目がルークに集まる。

「タケシ、この街は住民が作る街になる」

誰も、言葉が出ない中ーー

「.....めんどくさ」タケシがお茶をすすった。



「アキラ、ようあんな配合知ってたな」

「なんとなーくね、本で見た気がして。サーシャってさ、家でも研究のことばっかり話すんだ。水から油に変えたあたりで、確かなんかあったなーって」

「そうか、お前の記憶は俺らより一段上や。頑張って思い出せよ」

「うん。僕はサーシャが喜ぶ顔が見たいだけだし」

「やっぱりアホやな」

「え?なんでよ」

「カメキチにも感謝やな」

「毎日サーシャがおやつやってるよ」

「そうか、なんで眷属ってみんな食い気に走るんやろ」

「キュル?」「カ?」

後ろでマシロとカースケが、仲良くおにぎりを食べていた。




町の寄り合い。

役所の会議室に集まった面々。

隅に集まっているのはスサノー、カナヤン、クニオ。

タケシとルークが現れた。

「あ、タケシさん、どうなってるん?」

おばちゃんがチラッと神様を見る。

「あぁ、大丈夫。ルークが集めたんや」

「ルークさんって領主やろ?」

「そうや。でもまぁ心配ないからな」

「はいはーい。皆さん、御苦労様です。今日はーカツミさんがラーメン持ってきてくれました。食べながら話しましょう」

「ほんま、軽っ」


ズルズル。「あら、おいし」「ワシこれ食ってみたかったんや」

「はいはーい。食べながらでいいです。これ、配ります。お汁飛ばさないように見てね」

町の地図だ。赤い線がいくつも引かれている。

よく見ると、噴水広場を中心にした繁華街、職人の工房の集まるエリア、住宅街、農業地域などに区切っている。

タケシ達の住宅や工房は一区画としてまとめられていた。

「なんじゃこれ」

「ミナセの街を区分けしました。大体この区に1人は入るように、今日は集まっていただきました」

「あぁ、それで新顔がおるんじゃな」

みんなが箸を置くのを確認し、ルークは言葉を繋いだ。

「これは僕からのお願いです。

皆さんには、それぞれの区を取りまとめていただきます。毎月ここに集まってもらって、意見の交換会をしましょう」

タケシがニヤリとした。

「じゃぁ、今までみたいに困ってることとか、言っていいの?」おばちゃんが遠慮しながら聞いた。

「ええ、もちろん。今までと変わりません。こちらからの通達とかも、その時にお渡ししますので、持ち帰って住民に回して頂きたいのです」

「みんなの意見集めて、持ってきてええんやな」

「そうです。僕が全部聞きます。最終判断は僕ですが、みんなで話し合いましょう」

「ええんか、そんなことしても」「わからんけど」「でも領主様の言う事やし」

みんなザワザワ小声で話し始めた。

「参加出来ないときは、必ず誰か代理を寄越してください」

「で、ワシらは何を」とスサノーの重い声。

「神様はご意見番です」

「ご意見番?」

「はい。色々とギルドにお願いすることもありますし、そちらからの要望もお受けします」

「ふむ。わかった」

「あと1つ。それぞれの区の名前、次までに決めて来て下さい」

「名前?」

「その土地の昔からの呼び名とか.......愛着のあるものとか」

「何でもええんやな」

「ええ。でも一度決めると変えられませんから、よく考えて付けてね」

またざわついた。

ルークがパンパンと手を叩いた。

「では、今日はここまでにしましょう。

あぁそれから、住民登録がまだの方は、早めに役所に来るように」

そう言うと、ルークは部屋を出た。


「おい、タケシ。ええんか」

「あぁ。やってみよう。何事もやってみんと分からんやろ」

「変な領主様やな」

「確かに変な奴やけど」

「ワシびっくりした。領主様がお願いやて」

「おっちゃんらがおるから、ルークがすぐ動けた。おっちゃんらの力やで。自信持ってええ」

「そうか、タケシがそう言うんやったらええんかな」

「あぁ」

「みんな、やるで」「そやな、やろ」「ワシらの街やからな」







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