2つの結婚
工房の前の広場に、賑やかな笑い声が響いている。その中を、白いタキシードのアキラと、純白のドレスに身を包んだサーシャが、腕を組んで回っている。
クニオとスセリが来て婚姻の儀を執り行い、晴れて夫婦となった2人を、従業員達が総出で祝っているのだ。
「ま、みんなのウオッチ物件だったしね、良かったよ、ホント」と、ルーク。
「いやー、ちょっと変な時期あったでしょ。あの時職人達が賭けを始めてね、ワシもう止めるの大変だったんですよ」とバルザ。
「次は誰かな、ルーク?」
「カツミさん、僕これでも王子ですから」
「こないだカイルから手紙来てたよな」
「一度帰ってこいってうるさくて。縁談断ってるもんだから」
「政略は嫌だわな」
「いえ。そこはいいんですけど。僕ここを離れる気はないので」
「えっ」
「僕、ここの領主になります」
「えぇー」
今、コンドウ商会は、3工房、王都にも支店を持って、従業員は100名を超えた。
そしてさらに新しい技術に取り組んでいる。
神の力に守られた町ではあるが、その町全体も人口が増え、産業が活発になって、以前のままの国領扱いでは済まなくなって来ている。
だからーー
「僕が領主として治めるのが、一番いいんだ」
「お前簡単に言うけど.....」
「どっちみち、いつかはどこかの領地をもらって独立する。
ここってさ、魔法なしで発展してるんだ。この世界じゃありえないんだ。こんな楽しいところ、他にはない」
「んー」
「大丈夫、テラさんには相談した。応援するって言ってもらった」
「いつの間に」
「こないだラーメン屋でばったり会って」
「ラーメン屋でする話やない」
「タケシ、僕が国との窓口になって、君達が自由に仕事できるようにする。それがこの国を強くするんだ」
そして数日後、ルークは、ちょっと行ってくるねー。と王都へ発った。
コンドウ家広間。月に1度の全体会議だ。
3工房と商会のリーダーと鍛冶リーダーのバルザ、研究室のサーシャ。タケシ、カツミ、アキラ。
業務報告とそれぞれの連携を確認し合う。
「はいはい!」アキラが手を挙げた。
「提案があります」
「どーぞ」
「提案箱を設置したいです」
一般作業員からのアイデア募集だ。ささいな気づきをメモにして箱に入れてもらう。よいアイデアには報奨を出す。
「あー。いいですな」
「仕事に追われて、気づいていてもそのままになることも多いですし」
「意識が向けば、改善にも役立つでしょう」
「そうだな。工房の隅にポストでも置くか」
「まぁ何でもやってみよ」
と、気軽に始まった提案箱は、その後、仕事改革の柱になっていく。
「ねえタケシさん、ちょっとペータとボイル貸して」
「アキラ、次は何するつもりや」
「あのさー。スケートボード作りたいなー」
「何すんねん」
「いや、馬車使うのめんどくさい時とか、あるじゃん」
「アホか。ん?ちょい待て、それええな。ペータとボイルの卒業試験にしよ」
「え?」
「お前簡単に言うけど、案外難しいぞ。バクっとなぁ、どんなもんか教えてやってくれ。一から2人で考えさせるから。バルザには言うとく」
「やったぁ」
「遊びたいだけちゃうんか」
「そんなことないっす」
「そのかわりちゃんと見てやれよ」
「わかった♪」
アキラがスキップして帰っていった。
王都に帰って1か月。コンドウ家の玄関をガラガラと開けて、ルークが帰ってきたーー嫁を連れて。
「ただいまー」
「おかえり......??」
「紹介します。僕の嫁さん、ナターシャです。こちら、タケシさんだよ」
「ナターシャと申します。よろしくお願いします」
縦ロールの髪にふんわりと広がる豪華なドレスが優雅に礼をした。
固まっているタケシ。
「ルーク帰ってきたん?」カツミも出てきた。
「カツミさんですね、ナターシャと申します」
「?」
「ナターシャ、上ろう」
スタスタ座敷に嫁を連れて行くルーク。
「嫁やて」
「マジで」
座敷からーー「えぇー!!」
座卓の周り。ルークの隣の姫様はドレスの裾を気にもせず座って、キョロキョロしている。
「ねぇルーク、とっても変わった家ね、天井が低くて。でもシンプルでいいわ」
「そうだろナターシャ、城よりずっと暮らしやすいよ」
「わたくし、このドレス切っちゃおうかしら」
「後でカツミさんの服を貸してもらおうね」
「おいルーク。ちゃんと説明しろ」
「まぁ、領主に対してなんて言葉遣いなの」
「領主って?」
「あぁ。これね」紙を広げた。
〈国領ミナセをルーク=アウレリウスに領地として与える。
カイル=アウレリウス=アルネア=セレスティア5世〉
「えぇー!!」
城に戻ったルークは、父カイルにミナセの拝領を直訴した。カイルは了承したが、領主が独身では良くないと結婚を条件に出し、ルークは親交の厚い、隣国の姫を娶ることになった。で、結婚式を挙げて、ミナセに帰って来たのだ。
「ナターシャ、僕達はしばらくここで居候するんだから、そんな言い方は良くないよ」
「えぇー!!」
「カツミさん、お腹空いたんだけど、カレーある?」
「うん。ある」
「じゃぁさ、ナターシャに先に服貸してやって」
「そうやね、そのドレスじゃ動きにくいよね。ナターシャさん、こちらに」
カツミがナターシャを連れて行った。
「何やねんホンマに」
「ナターシャは僕、昔から知っててね。すっごいお転婆でさ。でもあの子なら、ここがきっと気に入るよ」
「それでもお前、居候って」
「アキラも出ちゃったし、いいでしょ」
「あの部屋でか」
「十分。僕床でも平気だし」
「はぁー」
「アキラもサーシャも幸せそうだね」
「うん。びっくりした。僕マジ姫見たの初めて」
「あの、これから何とお呼びすれば」
「バルザ。今まで通りでいいよ。ナターシャも特別扱いは要らない」
「そう言われましても」
「んー。じゃあ領主命令。今までどおりで」
「あーわかったわかった。もうそれでええやんバルザ、もーめんどくさいわ」
「まぁ、これがカレーですのね」
ナターシャがカレーの皿を前にして、目を輝かせた。
「ルーク、わたくしこんな食べ物初めてです。辛いのに甘くて、香りがもう、なんて言ったらいいんでしょう」
「ね。美味しいでしょ。カツミさんが考えたんだよ」
「なんて素晴らしいこと」
「明日から順番に見せてあげる。ここはね、びっくり箱だから」
「まぁー。楽しみですわ」
「ほな、びっくりついでに」
カツミが出したのはーー例の。
「まぁ、プルプルとして」「食べてごらん」
チュルン♪
「なんですの、冷たくて、ツルンと。美味しいですわ」
「ナターシャ、それねー。スライム」
「えぇー!!」




