すれ違う2人
アキラの様子がおかしい。
仕事に没頭することで、何かから逃げている。
タケシもルークもそう感じた。
そしてその原因は、間違いなくサーシャだ。
「喧嘩したのかな」
「いやー。そんなレベルやない気がするな。アイツらどれくらい進んでた?」
「ん?こっそりキスしてるのは見た」
「マジか」
「アキラってさ、慣れてないよね」
「あぁ、多分な」
「一途な感じだもんね」
「サーシャは」
「彼女、王立学院のマドンナって呼ばれてたけど、本人は研究ばっかりで男っ気なかったって噂だね」
「何やろ」
「そーだ、気になるとこはさ」
「ん?」
「彼女さ、クォーターエルフなんだよ」
「クォーター?」
「うん」
「引っかかるとしたらそこかな。エルフってさーー」
エルフは本来森で暮らす種族で、ほとんどは森から出ないが、まれに外に飛び出す若者がいる。そして外で恋に落ちると、ハーフエルフが産まれるのだが、そのハーフエルフには滅多に子は出来ないのだ。
「エルフって血を重んじる種族でね、基本的には混血はダメなんだ。サーシャは本当に珍しいクォーターなんだよ。エルフの血は薄い。でもその分間違いなく、子供は作れないんだ」
「......」
「それで、彼女は研究に没頭するようになったらしい」
「アキラもな」
「ん?」
「子供は作れん」
「え?」
「俺等転移者は、みんな一回死んでるんや。で、子供は作れん。俺も、カツミもそうや」
「アキラ知ってるの?」
「いや、まだや」
「サーシャが打ち明けられずに......」
「それやな、たぶん」
「.....」
「アキラには俺が言う。俺等の事情はな」
「うん」
「女の方が、こういうのは辛いはずや。カツミもめっちゃ辛そうやった。そやから、アキラが何とかせなあかん。サーシャはそっとしとこう」
「うん、そうだね」
夜、タケシはカツミにアキラの事を話した。
「そっか。どうりで」
「ん?」
「サーシャの顔が暗いな、とは思ってたんよ」
「あぁ。なんかつらいなぁ」
「そうやなぁ」
「この頃アキラ帰るの遅いよな」
「うん」
「なんかうまいこと言うて、はよ帰らせてくれんか」
「そやな、うん、わかった」
次の日、タケシとカツミが夕食を取っていると、アキラが帰宅した。
カツミが、働きすぎやから休め。と命令したらしい。
普通に会話して、普通に食事して........部屋に戻った。
「アキラ、ええか」
「あ?タケシさん?どーぞ」
「うん。最近忙しそうやな」
「あー、色々やりたいことあって」
「そうか.......でもそれだけちゃうな」
「え?」
「なんかあったやろ」
「.......」
「ん?」
「僕......サーシャに」
「うん」
「プロポーズした」
「うん」
「それからなんか、避けられてるみたいで」
「嬉しそうにしてくれてたのに.....急にやっぱりダメって」
「わかんないんです。僕の事、嫌いになったのかな。本気じゃなかったのかなって」
「そっか。結婚しようと思たんやな」
頷くアキラ。
「アキラ、それなら尚の事、言うとかなあかんことがある」
「?」
「アキラも、俺も、カツミも。みんな同じ、転移者や。向こうの世界で一回死んで、ここに来て、今、生き直しさせて貰えてる。それは分かるな」
「うん。分かる」
「んで、俺らはみんな......自分の命しかない。次の命には繋げられん」
「え?どういうこと?」
「つまり......子供は作れん」
「え?どうして?」
「一旦死んだ命やから」
「相手が....サーシャでも?」
タケシは首を振った。
「これ以上は、神にもどうにもできないって、テラにも言われた」
「......」
「だから、結婚したいと思うなら、そこもよく考えろ」
「......」
「お前が今、何を望むのか。よく考えろ。分かったか」
アキラは小さく頷いたが、うなだれたままだった。
タケシはそのまま部屋を出た。
しばらくすると、唸るような泣き声が漏れた。ドン!と壁が揺れて、そして静かになった。
「カメキチは僕の眷属やろ」
アキラが、スライムの箱でプカプカ浮いているカメキチの甲羅をつつく。
カメキチが首を伸ばしてアキラを見ている。
「僕に、ちょっとだけ、勇気ちょうだい」
カメキチは赤い目を細めた。
「サーシャ、もうすぐここにくる。
僕は.......ちゃんと謝る。サーシャから離れる。
けどカメキチは、ずーっとサーシャを見てあげて。僕の代わりに守ってあげて。」
カメキチは、一旦首を戻すともう一度伸ばして、ピュッとアキラの顔に水を吹きかけた。
「もー何すんの。頼むよ」
そう言うとアキラは、顔を拭いながら空を見た。拭ったのは水だけではなかった。
「カメキチ大丈夫?」
サーシャが箱を覗くと、カメキチはひっくり返って白い腹を見せている。
「えっ!どこか悪いの?」
サーシャが顔を近づけると、カメキチはクルッと元に戻って、首を左右に振った。
「もう、心配させないでよ。アキラ、大丈夫みたいよ」
サーシャがアキラに笑いかけて、フッと目を逸らした。
「うん。よかった。
サーシャ......僕、君に話が」
「あ......私仕事が」戻ろうとするサーシャの腕を、アキラが掴んだ。
「僕.....」
「僕。プロポーズ取り消す」
「え?」
「僕さ、子供作れないんだって。転移者は無理なんだって」
アキラは空を見る。
「最初から、サーシャにプロポーズする権利なんてなかったんだ。だからサーシャは別の人と......」
「ちょっと待って、アキラ」
「ん?いいんだよ、もう」
「私も......アキラに隠してた」
「え?」
「私も......子供は出来ないの、クォーターエルフ...だから」
「え?なんで?」
「エルフの血が.......薄すぎて、出来ない」
「じゃぁ」
「うん。一緒だよ、アキラも、私も」
「........」
アキラがサーシャを見つめるーー
「サーシャ。僕、一生大切にするから」
そしてひざまずく。
「僕と、結婚してください」
サーシャの目が潤んだ。
伸ばしたアキラの手に、サーシャがそっと手を置く。
「うん」
アキラがサーシャを抱きしめる。
「絶対、絶対に幸せにする」
カメキチが、ピュッとアキラの顔に水を飛ばした。




