湯気と算盤
カイル国王の私室には、ズルズルとラーメンをすする音が響いていた。
「ねえカツミ、セルクにラーメン教えてくれた?」ズズッ
「あ、教えましたけど、無理ですって」
「やっぱスライム?」ゴクッ
「ええ。今度乾麺考えます」
「そっか。待ってる」ズルズル
「おいカイル。食うかしゃべるかどっちかにしろ。王とあろうものが」
「だってリゥトス。こんなの城じゃ食べられないんだ」
「そうだけど」
「おかわり♪」
「はぁー」
「で、アキラ君。これね」
準国営の証と、王紋入りペンダント。
「えっ?」タケシの顔を見ると、胸からペンダントを出して見せた。
「ありがたく頂戴しろ」
アキラは手に取って、しばらく眺めて......意を決した様に首にかけた。
「ぼ、ぼく。頑張ります」
「うん。期待してる」
「タケシのサスもずいぶん地方にも流れてるよ。地方の領主が付けに来てる」
「あぁ。模造品も出てるだろうが、それは仕方ないしな」
「タケシが顧客管理を取り入れたから、偽物はすぐわかる。いい手だった」
「カイルが通行証を整備していたからだよ」
「それでー、すぐにポンプ工房建てに行かすから。いい?アキラ君」
「はい!」
「みんなと相談して決めてね」
「はい!」
「ねえうちに来ない?」
「は。?」
「やめて父上」
「えーっと、防災だっけ。進めて。必要なら国家予算つける」
「え?」
「君は、国にとって重要な案件のキーパーソンだ。地方のインフラ整備は課題なんだよ。焦らずに、でも確実に進めてほしい」
「はい。頑張ります」
「タケシ、いい子来て良かったね」
「あぁ、死にかけやったけどな」
ホテルに着くと、アキラは緊張がやっと解けて、そのままソファーで眠ってしまった。
「最初連れて来たときは、どうなるかと思たけど」
「ほんま」カツミがアキラの髪を撫でている。
「テラが言うとったけど」
「ん?」
「俺らの子やて」
「あー。なんぎな息子やな」
「ほんまな」
「お母ちゃんとしては、もうちょいしっかりせいと言いたい」
「今日も酷かったで」
「そやろ。見たかったわ」
「でもな。めっちゃ真剣やった。絶対やる。そんな顔やったわ」
「うん。ほんま良かったわ」
カツミの目からポロリと涙がこぼれた。
ミナセに戻ると、アキラは自分から工房の段取りを始めた。もちろんタケシとルークの意見を聞きながら。
タケシは工房のレイアウトや職人の手配を。アキラとルークは工房稼働後の流れを考えていく。
タケシ達の工房の並びに、アキラの工房。中は鍛冶場と木材加工、組立場、出荷準備と4つのエリアに分けて、更にサーシャの研究室も作る。
宿舎も、もう一棟。大きめの食堂をつける。
簡単な設計図をつけて城に送ると、大工や職人が手配された。
木材はペータの父親の材木屋から仕入れる。
商会の建屋は、ミナセの大工に頼むことにした。
少しでもミナセに。タケシの思いだ。
ルークは作業工程を確認し、必要な物品の洗い出しと手配。
アキラは書類の整備も始めた。
「タケシさん、アキラ君てさ、ほんとぼーっとしてるのに」
「ん?」
「紙とペン持つとすごいわ」
「工程表とかさ、作業指示書とかさ。あと何でも表作って、すぐ分かるようにしちゃうし」
「あー。あーいうの好きよな」
「なんか時々、エクセルがどうのとか言ってるけど何?」
「あー。それはうわ言やから、ほっといたって」
「それでさ、こないだタケシさんとこの職人さんに、変なもの頼んでたんだけど」
「どんなん」
「棒に玉が刺さってるのがいっぱい並んでた」
「え?それって..........こんなん?」
「うんうん」
「あっちゃー。ソロバンやん。アイツ使えるんや」
「なにそれ」
「多分売れるぞ」
「マジー」
最近、毎週金曜日の晩ごはん
は、工房カレーの日になっていて、カツミが職人を含めて全員が食べられるように、カレーを炊いている。
タケシ達も座敷に集まって食べていた。
「なあタケシ、クレスの工房もちょっと触りたい」
「ん?どないすんの」「乾燥スライムとラーメン」
「あー。そやな。明日にでも工房見よか」「うん。頼むわ」
「あ。カツミ、ソロバン使えるか」「私1級」
「え!カツミさん1級ですか」
「イッキュウってなに?」
「アキラは?」「3級っす」
「サンキュー?」
「アキラ、ソロバン作ったやろ。持ってこい」
「あ。バレてた」
「あーん。分かる言葉にしてー」
「ちょい待って、説明したるから」
アキラがソロバンを持ってきた。
「あらまー。おひさだわー」
カツミがパチパチやりだした。
「ちょい滑りが悪いね」
みんなが覗き込む。
「ルーク、これな、計算楽になるやつ」
カツミが説明し始める。
「これで1。んで2。上が5で......」
1から10まで足し算。横でバルザは指を折っている。
「ね、55」「クソっ指足らん」
「タケシー。これ売れるー」
「やろ?」
「アキラ、作ろっか」
「マジっすかー」
「タケシさん、僕ちょっと考えたんですけど、ソロバン」
「おぉ」
「あれ、うちから外の工房に依頼して作ってもらって、商会に納品してもらう方がいいんじゃないかな。って」
「何で?」
「立ち上げは忙しいし、ソロバン作ってる余裕ないでしょ。それにこの町の産業にもなる。で、商会通してポンプと一緒に普及させるのが、一番効率いいんです」
「ほぉー」
「どう.....です」
「お前、見えるようになったな」
タケシは、アキラの口から、町の産業と言う言葉が出たのが嬉しかった。
「何がです?」
「いや。ええと思うで。うん。商業ギルド通そっか。んで、町の寄り合いにも顔出そ」
「夕方町にでるって?」
タケシはカツミと、クレスの工房の改修を相談していた。
「あぁ。商業ギルドと寄り合いに、アキラ繋ぐ」
「成長してるねー」
「あぁ、地頭の良さが分かる。普段はアホやけど」
「それがあの子の良さでもあるんよ。子供っぽいとこ」
「そやな。あ、男神連合にも頼んどこ。これから世話になることも増えると思うし」
「世話?」
「あぁ、人増やすからな。うん」




