革新の足音
毎週恒例ミーティング。ハイテンションのサーシャが出してきたのはーー
「スライムコート革」
「えぇ?スライム!?」
「そうなんです。カツミさんの乾燥スライム見てて、もしやと思って、粉末にしたのを水で溶かして薄い革に浸してみたんです」
「どう違うの」
「撥水効果が確認できました。なおかつ柔軟性もあります。革の組織と反応したのだと思われます」
「それって」
「はい、ピストンや弁です」
「でかしたぞサーシャ。タケシ、スライムだって。ここだから出た発明だわ。アッハッハ」
「そうかーそんな使い方できたんや」
「溶かす時の温度や水分量でもかわりますから、まだまだ色々使えそうです」
「元が食いもんやから安全やしな」
「サーシャさんー。すてきですぅー」
おい、アキラ。ちゃうやろお前。
「あ、アキラ君の、んーっと、ヒエピタ?だっけ。あれさ、これ使ったらいいんじゃない?」
「わぁー。サーシャさまー。女神ー」
タケシが、サーシャを拝んでいるアキラの頭を、思いっきりはたいた。
「いやー。すごいの出たねー」
「あぁ。まさかのスライム」
「んでタケシさんは、もうお気づきでしょうが」
「はいはい」
「この技術は買い取りになるでしょう」
「だよな」
「んっと。3カ月後でいいかな」
「それまでにとりあえずは作れってか」
「うん。向こうの手配、進める。スライムの飼育方法とかも教えてね」
「あぁ。カツミに聞いてくれ」
スライムコート革で、一気に進んだ。
ルークが来て5ヶ月。アキポンは予想よりずいぶん早く完成した。
「タケシさん、今いい?」
「父からね、ゴーサインでたよ」
そうか。いよいよ量産か。
「んでさ、詰めとこう」
「そうだな」
「でーーヒグチポンプ工房。でいい?」
「代表はアキラにする」
「大丈夫?」
「アイツ頭いいんだよ。数字に強い。経営を覚えさせたいんだ。地方展開するんだろ?俺のサスの時より複雑になる。設置工事の手配や人員も全部見るなら、国とのパイプも必要だ。作業実務は俺達が見れるがな」
「じゃあ準国営で。スライムコートだけ頂くね。で、当分は僕がここに常駐する」
「あぁ、助かる」
「あとねー。アキラ君さ、防災システム考えてたよ。ちょっとスケールでかくなってきてさ、すぐには無理だけど」
「防災?」
「うん。ポンプの技術+スライム。僕はこっちに期待している」ルークの顔が、真剣さを増した。
「なんかね、ショーボーシャとかボーカスイソーとか言ってた。まだよくわかんないけどさ」
「なるほどな」
「あ。タケシさんわかるんだ」
「町ごと変わるな」
「やっぱりそうなんだ」
「ああ、それこそ10年単位になるな」
「地方はね、王都みたいに魔法で守られていないところも多い。水問題もそうだし、天災や火事も。できることは何でもやらなきゃね」
「そうだな」
頑張れアキラ。みんなで支えてやる。
「アキラ。これ」タケシが封書を差し出した。
「何ですか?これ」
「召喚状。カイルから」
「ギョエー!」
あ。ぶっ倒れた。
「ねえサーシャはどうする?」
「どうって?」
「一旦国に帰る?」
「いえ、私、ここがいいです」
「そうなの」
「まだスライムコートにも問題点がありますし、それに」
「それに?」
「アキラ君に頼まれた研究が」
「何頼まれたの」
「布素材で、長い筒状のスライムコートができないかと」
「やんのね」
「はい。面白そうですし」
「じゃあ君もここにいよう」
「スライムコート革については、もう論文にしてありますので、それを持っていってください」
「そっか。わかった。ふーんアキラ君かー」
サーシャは目を逸らしてうつむいた。
アルネシアに向かう馬車。
結局タケシもカツミも保護者ということでついて行くことになった。
カツミは向こうでスライムの飼育環境のチェックと....
「なぁ、何いっぱい持ってきたんや?」
「だってさ、カイルがラーメン作れって」
「セルクさん、覚えてる?料理長の」
「あぁ」
「楽しみですって手紙来たよ」
「はぁー。ほんまあそこの奴らは」
「私、難しい話わかんないからいいんだけどね」
「どうすんのラーメン屋」
「ちょっと屋台の構造考えなあかんわ。火がいるから」
「帰ったら考えよっか」
「うん。あ、ハンバーグソースは、もう出せるとこまで来たよ。瓶詰めで、カレー屋台に並べてみる」
「そっか。ぼちぼちやれよ」
「うん♪」
途中でルークとカツミが交代した。
「ねぇタケシ。ちょっとさ」「なに?」
「アヤシイんだよ」「何が」
「サーシャ」「サーシャどうしたん?」
「顔、赤かった」「は?」
「アキラ君」「イヤイヤ、ありえんやろ」
「ウォッチ物件だよ」「マジ?」
「うん。マジ」「あのガキ」
「もうほんっと、君んとこ楽しいわ」「......」
玉座の間。
両側に並ぶ貴族たちの間を、タケシとカッチカチのアキラが歩く。
タケシがひざまずくと、慌ててアキラも真似をした。
「タケシ、アキラ」
「はっ」アキラは声も出ない。
立ち上がったカイルに、執事が紙を渡した。
パラパラと開く音。
「ヒグチポンプ工房を、王の名を持って認可し、準国営とする。
また、コンドウ馬車工房、クレスカレー工房、並びにヒグチポンプ工房を、コンドウ商会として取りまとめることを許可する」
パラっと紙を翻し、皆に見せた。
「おぉー」「素晴らしい」拍手が起きる。
タケシが深く礼をする。アキラが呆然としていると、タケシに足を叩かれて、慌てて礼をした。
「じゃぁタケシ、アキラ。アキポン見せて。なぁ、皆も見たいだろう」
「はい。是非」「おぉ私も見とうございます」
またぞろぞろと行列である。
城にたった1つ残された井戸は、使用人エリアにあった。
ルークがすでに、設置を終えて待っていた。
「ルーク、ご苦労」
「はい。父上。ご覧ください」
ルークがゆっくりとハンドルを上下すると、ザバザバと水が出た。
「ほっほー。殿下これは素晴らしい」
「これは民が喜びますぞ」
カイルはにっこりすると、「じゃあまた後でね」と言って去っていった。後にぞろぞろ貴族を連れて。
「ほんっと父上も大変だ」
「あぁそうみたいだな」
「貴族たち、井戸なんか興味も無いのにね」
「ま、あんなもんだ」
「あ、アキラ君、大丈夫?」
「大丈夫じゃありません」
座り込んでいるアキラ。
「あと、ラーメン食べるだけ。頑張れ」
「なぁ商会ってどういうことや」
「あれは僕が父に進言した。タケシさん達は、一見別々の製品を扱っているけど、中は繋がって動いているから、まとめた方がいい。グループとして。で、商会として管理部門を立ち上げる。事務も一本化出来るしね」
「なるほどな。でも人材がな」
「うん。そこは僕が手配する」
「できれば町の奴も使ってほしい」
「そうだね、形が出来上がればそれも出来るから」
「そうか、ならいい」
「タケシ。ラーメン出来たよ」
「あぁ。また私室?」
「当然」「じゃいこか」




