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朱色のゲートウェイ ー境界ー  作者: 此花 陽
第5章:朱色の沈黙
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解体の祝祭



「騙したな」



 最前列の男が、絞り出すような声で言った。


 その一言が、

 スタジアム中の数万人の脳内に眠っていた

「屈辱」と「嫉妬」に、火をつけた。


 能力によって無理やり

 愛させられていたことへの怒り。


 自分たちの惨めな生活を

 忘れさせてくれると思っていた

「偶像」が、ただの石塊だったことへの絶望。


 そして何より、自分たちが「ゴミ箱」として

 祭り上げたこの男を、

 今度は自分たちの手で破壊したいという、

 本能的な破壊衝動。



「……殺せ!」


「……ペテン師! 偽物! 死ね!」



 一人が柵を越え、ステージに雪崩れ込んだ。


 それを合図に、数万人の群衆が、

 獣のような咆哮を上げて

 蓮に向かって押し寄せた。


 ワイヤーが耐えきれず引きちぎられ、

 蓮の石の身体がステージに激突する。


「ガハッ……!」 衝撃で石化した肋骨が砕け、

 肺から僅かな空気が漏れ出す。


 その瞬間、蓮を覆い尽くしたのは、

 無数の人間の「手」だった。


 彼らは蓮を殴り、蹴り、引き裂こうとした。


 だが、石化した肉体は素手では壊れない。

 人々は狂ったように、スタジアムの備品や、

 持っていた重いカメラ、

 石を砕くための道具をどこからか持ち出し、

 蓮の身体を叩き始めた。



「これ、俺が貢いだスパチャの分だ!」


「私の人生、返せよ! この化け物!」



 蓮は、痛みを感じていた。

 感覚が死んでいたはずの石の表面から、

 彼らの「憎悪」が直接魂に流れ込んでくる。


 人々は、蓮を殺しているのではない。


  彼らは蓮の石の身体を

「聖遺物」のように分け合い、

 持ち帰ることで、自分たちが抱えていた

「汚れ」を消し去ろうとしていたのだ。


 蓮の左腕が、ハンマーで叩き折られた。

 右足が、数人の男たちによって引き抜かれた。


 砕け散った石の破片を、

 人々は血眼になって奪い合う。


 その狂騒の渦中、蓮は見た。


 ステージの端で、

 茫然と立ち尽くす一人の少女の姿を。


  紗夜。


 彼女は、

 人々によって解体されていく蓮を見つめ、

 声にならない叫びを上げていた。


 蓮は、崩れゆく意識の中で、

 彼女にだけは「逃げろ」と伝えようとした。


 だが、口から出たのは、

 石の粉末だけだった___。



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