吊られた偶像
二XXX年、十二月。
新装された国立スタジアムを
包囲しているのは、数万人の観衆が生み出す、
地響きのような唸りだった。
しかし、それは期待に満ちた高揚感とは異質な、
ひどく冷たく、濁った熱気。
スタジアムのセンター、
虚空に吊り下げられているのは、
巨大な朱塗りの檻。
その中に、有馬蓮はいた。
今の彼は、
もはや人間という種には分類できない。
全身の九割五分が石化し、露出した左目だけが、
充血した朱色の闇を湛えて蠢いている。
右腕も左腕も、胴体も、
すべてが呪詛の文字を刻まれた歪な石の塊。
彼は檻の中で、
自重に耐えきれずミシリ、ミシリと
軋む音を立てていた。
「……あ、……ぁ……」
石化した喉からは、空気の漏れる音しか出ない。
だが、スタジアムのスピーカーからは、
最新のAIによって捏造された、
かつての「天才子役」の透き通るような
歌声が、大音響で流されていた。
観衆は、スマホの画面越しに
「フィルター」をかけた蓮を見つめている。
画面の中では、彼は今もなお、
この世のものとは思えないほど美しい、
純白の衣装を纏った「神」として微笑んでいた。
舞台袖には、狐面の男・コトシロが、
懐中時計を眺めながら立っている。
「……さあ、有馬蓮さま。
契約の満期、回収の時間です。
……最後の一滴まで、
彼らに捧げていただきましょう」___。




