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エピローグ 1

 生態調査をした時に魔獣が出没した話は、なぜ広まったんだろう。

 漏れ出した小さな事実と小さな疑惑に尾ひれがついて、噂話になって誇張されて、学園内ではちょっとした騒ぎになっていた。

 だけどそれも、数日のうちには終息した。

 研究所の調査結果が公表されて、偶発的な事故によるものと判断されたからだ。

 フェイラー学園長は噂話が広がらないように火消し工作をしていたみたいだけど、明確な結果が出てからは騒ぎ立てる人もいなくなった。

 もうひとつ付け加えると。

 巨大魔獣を討伐した日の出来事は誰ひとりにも知られることはなかった。

 ダムが直ったこともメテオが大地を揺らしたことも、エレモア帝国第二皇女が高額な機材を持ち出して国境を越えて暴れたことも。

 これにて、迷宮探索ゲームの端を発した魔獣騒動もすべて解決。

 しかし話はまだ続きがあるみたい。


「ただいまぁ……って、みんなお揃いだね」


 朝からしとしとと雨が降り続く午後のXクラス。レナがギルド活動を切り上げて帰ってきたため、全員が集合することとなった。


「ジュディアが、今日はサボって教室で遊ぼうってヌカしやがったからな」


「この雨じゃ遊びにも出かけるのも億劫だからね。楽しいよ!」


「プリーストギルドはいつも通りの活動があるのに、姉さんに命令されて……」


「たまにはいいじゃない。それでレナ、ひとり?」


「うん。でも、もうすぐ来るんじゃないかなぁ?」


 ジュディアとレナのやり取りを聞いても追求しなかった。Xクラスの六人全員が集合したのは偶然ではないと察したからだ。


「そうだねーさま。メガネ池の作業は全部終わったんだって。こっち側の安全対策も問題ないみたい。あっち側は入口に少し手を加えてたけど」


「こっち側?」


「あっち側?」


「入口?」


 カイザーとミーシャは内容について何も知らない。ジュディアと一緒に住んでいるジュディスでさえこんな状況だから、身内であっても時が来るまで口を閉ざしていたんだ。


「はいはい。順を追って話すから」


 魔獣騒動とメガネ池の問題が落着したとみて、迷宮探索ゲーム後の一連の流れを語り始めた。もちろん、エレモア帝国に協力を仰いだことも。


「そんなことが起きてたのかよ。今回も巧妙に揉み消したってことか、えげつねぇな」


「アリィとソニア姉さんが動いていたんだね。言ってもらえれば手伝ったのに」


「それはね、ぼくが姉さんに足止めするよう言われてたからなんだよ。事情を知る関係者は少ない方がいいからって。でも理由までは今まで知らなかったな」


 ボクたちが動いていた頃、カイザーはアクアトリノ王国で騎士団と共に行動する所用があった。ジュディスがフェイラー学園長から預かった書簡を騎士団長に渡したところ、離脱を強いられたという。


「理由もわからず待機になるし、エリー……エレノアは不機嫌になりやがるし。ま、後で説明しておくか」


「そっかぁ。その代わり、アクアトリノでジュディスといっぱい遊べたから満足さ!」


「俺様も一緒だっただろボケ!!」


 三人はずっと行動を共にしていたという。

 街を探索して美味しいものを食べて、ヨットで遊んで海水浴。浜辺で海鮮バーベキューに興じて贅を尽くした二日間だったそうだ。

 宿泊もそこそこ値が張る高級ホテルだったのも、すべてはアリバイ作りのためだった。


「ブレナード家に泊まりゃタダなのに、ホテルを使わせたってのは無関係を証明するためってか。ま、そのおかげで豪遊できたな」


「常に片時も離れず行動しろってのは学園長命令だったんだよ。宿泊の手配も含めて軍資金は全部出してくれたからね」


 結局のところ、最悪のシナリオは回避されたからエスカレア特別区とエレモア帝国の動きは誰にも察知されず杞憂に終わったことになる。

 つまり、遊び得だったってこと。


「いいなぁ。ボクも混ざりたかった…………」


「ざっけんな。ラドだって女ばかりのハーレム状態で…………つっても、曲者揃いの面子じゃなぁ。大変だっただろ」


「まぁ、うん、そうだね。巨大魔獣もいたし」


「そうだねじゃないでしょ否定しなさいよ。巨大魔獣と一緒にすんなっての。美女揃いで幸せだったとか、楽しかったって言うところでしょうよ!!」


「そういうわけじゃ……」


「子供にロリババァに人外に、ジュディアに…………その、ソニアさんってのはどんな人なんだ?」


「わたしだけジュディアってジャンルにすんなっつーの。ソニアさんだったら、ミーシャの方が詳しいわ」


「ソニア姉さんかぁ…………なんというか、うーん。あはは」


 異性の身内を紹介する恥じらいや照れ隠しという感じではない。言葉で形容するのが難しくて本当に困惑している。


「何だよ紹介したくねえってか。美人とか可愛いとか優しいとか、いろいろあんだろ」


「えー…………。従姉ではあるけれど姉みたいなものかな。可愛いってタイプじゃないね。だけど美人かと言われたら笑っちゃうよ。己にも他人にも、もちろん僕に対しても厳しくて口うるさくて、すぐに怒るし叱ってくるし。優しいかと言われたら甚だ疑問であります、あはははははははは!!」


 不憫。あまりにも不憫。

 ソニアの評価が、ということじゃない。

 ミーシャの行く末が。


「でも、でもほら、ソニアさんって頭がよくて、気品溢れる素敵な女性だったわ」


「そんなそんな、お世辞を言っても意味なんてないんだから。あー、それが真実だったら理想的すぎて彼女なんて欲しがらないよ!?」


 ジュディアが出した救いの手は虚しくも振り払われた。

 直後、教室のドアを開いた覇気だけでミーシャの魂は肉体から弾き飛ばされ、一瞬で昇天した。このオーラ、この威厳。これが人の上に立つべき第二皇女の力。


「突然の来訪で恐縮です。ただいま話に上がりましたソニアと申します。クラスの話はよく聞いておりますわ。そこの、世界一カッコいいミー君に」

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