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エピローグ 2

「お、おぉ、俺様はフリック・スタイン。ミーシャにはよく世話をしている」


「ぼくはジュディス。姉のジュディアがお世話になりました。ところでミー君って?」


「ミー君とは世界一優しくて頼りがいのある、容姿端麗で頭脳明晰な第三皇子、ミカエリス・エレマール君のことですよ」


「よかったなミーシャ。お姉さんはお前を世界一の男だと思ってくれているぞ」


 なるほど。またひとつ勉強になった。

 これがジュディアだったら瞬時に飛びついて関節をキメているところ。敢えて文字通りほめ殺すことで身体の内部から破壊する手法なんだ。

 人間の尊厳は打ちのめされ、歯向かう刃は粉々に砕かれる。


「ど……どうしてラドはうちの事情に詳しいんだい…………。でも姉さんは関節じゃなくて打撃系なんだよ…………」


 身体から引き離された魂は復活していた。実家に帰ったら精密検査と分解整備が待っているとかうわ言を漏らしている。


「これからお世話になりますから、今日は皆さんにご挨拶に伺いました。一蓮托生と聞き及んでおりますし」


「お世話に?」


「一蓮托生?」


「はい。でもその前に」


 ソニアは今のメガネ池の様子を語り始めた。使わなくなった魔脈の取水口になっていた洞窟に変化が見られたという。植物の息吹が芽生えたが、それは繁殖が難しいとされるエレモアの花だという。


「ラド君が、服に付着していたエレモアの花の粒子を洞窟内に拡散してくれたおかげなんです。薄暗く適度な湿り気と、魔力を帯びた魔脈という環境がうまく適合したみたいで。やはり魔力が関係していたんですね」


「あ、あの時ね。青くキラキラしてたからなー。すごいお手柄じゃない、ラド」


 ボク自身が意図的に何かをしたわけではない。

 魔力に汚染された土壌を浄化したこともだけど、求められても再現する自信なんてないんだから褒められても実感がわかない。


「エレモアの花が育ったら、また分解をお願いしますね。万能薬として安定供給するための研究はこれからですが、いい手土産になりました」


「手土産ってソニア姉さん、また環境緑地課の仲間でしょ。毒草でも平気で口にするし」


「違います。せっかくの機会ですし、植物学全般の研究ができればとアルケミストギルドに所属することが決まりました」


「へ?」


「つまりユーノシオ管区大学に入学が決まったのです。皆さんとはエスカレアのご学友になりますから、ご挨拶に伺ったのです」


 ソニアは以前から研究職への憧れや考えを持っていたようだ。

 加えて今回のエレモアの花と魔力の関係。植物と魔法、両方の分野を充実した環境で学べることが決め手になったそうだけど。


「もうひとつ、フェイラー学園長の後押しもありましたから」


 忖度なしの編入試験も知識や学力は申し分なく、実務経験に長けていることが最大限に評価されたという。あと家柄も。


「学園長の本心はおそらく、今回の件もあって私を囲い込みたかったのでしょう。でもそれは私にも好都合と思いまして」


 そして早くも合格通知を受け取り、来週には晴れて学生になるみたい。


「ソニア姉様……先にいらしてたのですか。探しましたのに」


「アリィ、ちょうどいいところに」


 引越先の物件はアリィが済ませていて、住居の目処がついたそうだ。


「貴族向けではありますが、セキュリティも万全で申し分ないと存じます」


「ではこれから内覧に伺いましょう。アリィがよければ決めてしまっても」


「待ってよソニア姉さん。アリィがよければって?」


「毎日エレモアからの馬車通いは大変でしょう。私と共に暮らすならば、とお許しをいただいたんです」


「わたくしもレナと遊べる時間が増えますし、趣味研の活動も…………もちろん、お兄様とも!」


 レナとアリィは手を合わせて喜んでいる。メガネ池問題の事後処理にレナは関わっていたので一連の話は知っていたみたいだ。


「それでねラドくん。しばらく何日かアリィちゃんとソニアさんがうちに泊まることになるから。そのまま居候しちゃってもいいのに……」


 ボクとレナだって居候だし、寝られる場所なんて居間しかない。そうなると追い出されるのは男子であるボクだ。庭にテントを張ってサバイバル生活を迫られるだろう。


「エスカレアでのラドの立場ってペット扱いでしょう。丁度いい…………なんてこと、させるわけありませんわ。そうそう、そちらにはフェイ譲りの蔵書がたくさんあるとか。今後もお邪魔する機会が増えそうです」


「温泉もあるから楽しいよアリィちゃん!」


 レナとアリィは早くもエスカレア特別区での新生活に思いを馳せている。

 趣味研の活動も続けるつもりらしい。


「ちょ、ちょっと待ってよ。貴族向けってさ、僕だって住みたいよ!」


 ミーシャが住むのは規律の厳しい学園寮。門限があったり共有部分や人間関係で何かと気を遣うらしい。

 ちなみにカイザーとは部屋が近いので、入り浸るくらい一緒に遊んでいるそうだ。


「いくら女日照りでむさ苦しい男ばかりの寮生活だからってミーシャ、お前は年頃の姉と妹と一緒に住みたいか?」


「私だってミー君とは新婚のような甘い生活を送りたいですよ。従姉だから結婚もできますし、毎日目覚めのキスをしましょう。しかし残念、女性限定物件なんです」


「無理だ、無理無理、確かに無理だねそれ」


「ミー君、どうして否定するんですか!!」


 話は変わってもうひとつ、ソニアからみんなにお願いがあるという。


「今回の魔獣騒動の原因は解消しましたが、まだ少し残党がいるようです。そこで秘密裏に掃討するためXクラスの皆さんにお力を貸して欲しいんです。学園長とフェーちゃんの了承は貰ってますから」


 フェイラー学園長とフェイリアからの依頼、もとい命令とあらば首を縦に振るしかないのがXクラス。暫くは授業も中止、クエスト報酬も高額となれば断る理由はない。


「時間との勝負でもあります。委細は明日の早朝、現地で」


 ソニアとアリィは物件の確認と契約に向かうために去って行った。貴族向けの高級住宅に転がり込めなかったミーシャは悔しそうで、少し落ち込んでいる。


「女子寮じゃなくても…………やっぱり無理かな。ははは……」


 実現できなかったことを正当化して、気持ちに整理をつけたいんだ。だからきっと本心ではない。そう、きっと。


「実現してたらうちと一緒だったのに。ね、レナ」


「…………うちは姉、姉、弟でしょ。一緒じゃないし。それともラドくんも無理って思ってるの?」

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