同期夫婦-猫の日
早朝、カーテンの隙間から差し込む陽の光がリビングの床を照らしていた。蓮は洗い終えたグラスを手に、部屋に戻ろうとしたが、ドアの前で足を止めた。
目に飛び込んできたのは、真琴がどこで買ってきたのか見当もつかない三毛猫柄の服を着て、頭には猫耳のカチューシャ、腰にはふわふわの尻尾の飾りをつけている姿だった。
真琴は絨毯の上にしゃがみ込み、両手を胸の前で丸め、まるで本物の猫のように蓮を見つめ、そして――
「にゃ~ん」
蓮は数秒間黙り込み、ようやく口を開いた。「……何してるの?」
「にゃんにゃんにゃ~ん」真琴は首を傾げ、甘えるような猫の鳴き声を出し、猫のように蓮の腕に額を軽く擦り寄せさえした。
「何か変なものに取り憑かれたのか?」蓮は呆れながら妻の額に手を当て、少し距離を取ろうとした。
「にゃ~う……」真琴は蓮の腕に両手を抱きつき、尻尾の飾りを後ろで軽く揺らした。「今日は猫の日でしょ?私は蓮の専属の子猫なの。」
「……今日がそんな日だなんて知らなかったけど?」
「今日からそうなの!」真琴は当然のように言った。
蓮は思わずため息をついた。「それで、一体何がしたいんだ?」
「にゃ~ん」真琴は答えず、ただそっと蓮の胸に飛び込み、両手を彼の腰に回し、頬を彼の胸に擦り寄せ、甘える猫のようだった。
蓮は妻を見下ろし、口元をわずかに緩めた。
「おい、自分で猫だって言ったよな?」
「にゃ?」
「じゃあ猫は自分で缶詰を開けられないのか?」
真琴は一瞬動きを止め、それから目を大きく見開いて彼を睨んだ。「にゃんにゃんにゃんにゃん!(やだ!)」
「そうか?じゃあ猫は自分で牛乳を注げないのか?」
真琴は唇を尖らせ、少し不承不承ながらも頷いた。
「じゃあ、行ってこい。」
真琴は唇を突き出したが、素直に冷蔵庫に向かった。蓮はソファに座り、のんびりと妻を見守った。
真琴が牛乳を持って戻ってくると、蓮はわざとらしく笑った。「ほら、猫は床に伏せて牛乳を飲むんだろ?」
「にゃんにゃんにゃん!(そんな恥ずかしいことしない!)」
「でもさっき自分で猫だって言ったじゃないか?」蓮はわざと無邪気な顔で真琴を見た。「それとも、ただ猫のフリをしてるだけなのか?」
真琴は途端に迷い始め、唇を噛んだ。そして結局、恥ずかしそうに床に膝をつき、両手で牛乳の入ったカップを持ち、そっと一口舐めた。
「……」
蓮は妻のそんな様子を見て、予想以上に可愛らしい反応だと感じた。
「なあ、真琴。」
「にゃ?」
「猫は撫でられるのが好きだろう?」蓮は手を伸ばし、妻の髪を優しく撫でた。
「にゃんにゃん……」真琴は気持ちよさそうに目を細め、まるで本物の猫のように満足そうな声を上げた。
蓮は思わず笑い、妻を抱き寄せて、額にそっとキスをした。
「じゃあ、今日はこの猫にたっぷり付き合ってもらおうかな?」
「にゃ~ん」真琴の尻尾の飾りが軽く揺れ、それからさらに強く彼に抱きついた。
その後、蓮は何を思ったのか、真琴に様々な可愛い猫の動作をするように指示し始めた。例えば、そっと「猫の手」を振ったり、その場でくるりと回ったり、額を彼の肩に擦り付けたり。しかし、真琴が一度それをするたびに、彼は笑って「もう少し長く」と言った。
真琴は顔を赤らめたが、それでも素直に彼の言う通りにした。蓮がスマートフォンで録画していることに気づくまでは。
「にゃんにゃんにゃん!(やめて!撮らないで!)」真琴は悲鳴を上げながら蓮に飛びかかり、スマートフォンを取り上げようとした。
蓮は身をかわし、片手でスマートフォンを高く掲げ、いたずらっぽい笑みを浮かべた。「これは非常に貴重な映像だよ。」
「そんな黒歴史いらない!」真琴は頬を膨らませ、必死に手を伸ばして掴もうとしたが、蓮に簡単に制された。
「うーん……猫が甘えてくれたら、考えてもいいかな?」
真琴は怒りで尻尾の飾りの毛が逆立ちそうになったが、最後には仕方なく蓮の腰に抱きつき、彼の胸にそっと擦り寄った。「にゃ~ん……」
蓮は思わず笑い出し、妻の額にキスをした。「よしよし、子猫がこんなに可愛いんだから、友達には送らないでおいてあげよう。」
「え、送るつもりだったの!」真琴は怒って彼の胸を叩いた。蓮ははははと笑い、妻をさらに強く抱きしめた。
昼になり、蓮は少し出かけて、食材と小さな缶詰を買ってきた。彼はキッチンに立ち、何やら秘密を隠すように、不透明なテープで缶詰のラベルを丁寧に覆っていた。
彼がリビングに戻ると、真琴はソファの上でだるそうに丸まっており、軽く揺れる足に合わせて尻尾の飾りが揺れていた。
蓮は妻の前に歩み寄り、意味ありげな笑みを浮かべた。「さあ、口を開けて。」
「にゃ?」真琴は首を傾げたが、素直に口を開けた。
次の瞬間、スプーンに乗せられた正体不明の食べ物が妻の口に押し込まれた。
「ん――?!にゃんにゃんにゃん!!(何これ?!)」真琴の顔は瞬く間に歪み、頬を膨らませ、口の中で苦悶の含み声を上げた。
蓮は思わず笑った。「お前、今猫だろ?」
真琴は猛然と彼を睨みつけ、無理やり食べ物を飲み込み、それからむくれ顔で吠えた。「にゃんにゃん!(何このゲテモノ!)」
蓮は慌てず、先ほど包んだ缶詰を持ち上げ、軽く振った。「猫用のご飯だよ。君、この専属の子猫の栄養補給。」
真琴はたちまち逆上し、蓮に飛びかかって首に抱きつき、そして……
「にゃんにゃんにゃんにゃん!(噛み殺してやる!!)」と怒って彼の肩を何度も叩き、口は蓮の首筋に近づき、本当に噛みつこうとしているようだった。
蓮は笑いをこらえながら、妻の頭を撫でた。「はいはい、怒らないで。君の好きなオムライス買ってきたから、後で埋め合わせするよ。」
真琴の尻尾の飾りが揺れた。口ではまだ文句を言っていたが、結局は蓮の腕の中に大人しく収まり、時折「にゃんにゃん」と甘えるような声を漏らした。
午後、蓮は小さなネズミのおもちゃが付いた猫じゃらしを持って、真琴の前で左右に揺らし、妻の反応を期待した。しかし、真琴は目を細め、だるそうな様子で、あくびさえして、そのままソファに寝そべり、じっと蓮を見つめていた。
「どうしたんだ、さっきまであんなに元気だったのに、今は動かないのか?」
「にゃ~ん。猫はずっと活発なわけじゃないの。今は午後の休憩時間。」真琴は曖昧に言い、尻尾の飾りを軽く揺らした。
蓮は呆れて笑い、しばらくそっとしておくことにした。
夜になり、蓮は夕食を作っていた。焼きたてのステーキを小さく切り分け、食卓に運んだ。真琴がまだ椅子に丸まって、抱き枕を抱えたまま動こうとしないのを見て、彼は片方の眉を上げた。そして、ステーキを一切れ掴み、直接妻の口元に持っていった。
「ほら、食べろ。」
真琴はもともとだるそうに目を瞬いていたが、まさか蓮がこんなに直接的だとは思わず、口を開けた瞬間に食べ物を押し込まれ、一瞬顔を赤らめた。
「にゃ~う……」真琴は頬を膨らませて咀嚼し、それから恨めしそうな目で蓮を見た。「そんなのダメよ。猫は自分の器で食べなきゃ……」
「へえ?じゃあ今度、お前に猫用の食器を買ってきてやろうか?」
「にゃんにゃんにゃん!(いらない!)」真琴は一気にステーキを食べ終え、唇を突き出して抗議した。
夕食後、蓮は真琴の頭から猫耳のカチューシャを外し、優しく髪を撫で、それから真琴の手を取り、一緒に浴室へ向かった。
「猫ちゃん、お風呂の時間だよ。」
「にゃ?」真琴は一瞬ぽかんとし、それから顔色をさっと変えた。
「お前、猫だろ?じゃあ猫が水を怖がる反応を見せてくれないか?」蓮は笑いながら冗談を言った。
「いや、いや!」真琴は勢いよく一歩後ずさり、警戒するように浴室を見つめた。「猫は今日はお風呂に入らなくてもいい!」
「でもさっきからずっと擦り寄ってきてたじゃないか。体中、俺の匂いだらけだぞ。洗わないのか?」
「……じゃあ、このままにしておく!」真琴はすぐに言い訳を見つけた。
蓮は妻のこの反応に笑ってしまい、結局は許してやった。
夜、二人はベッドに横になり眠りにつこうとしていた。蓮が夜中にトイレに起き、戻ってきた時、真琴が寝言を言っているのが聞こえた。
「……可愛い……ちょっとぽっちゃりした三毛猫が欲しいな……」
蓮はこの言葉を聞いて、思わずため息をつき、小さく笑いながら呟いた。「お前という三毛猫がいれば十分じゃないか。」
彼はそっと布団を引き寄せ、真琴にさらに深くかけ、それから真琴の隣に横になり、安心して目を閉じた。




