ドラゴン
ライルズの魔法障壁は無色透明で、遠くからはその存在を見ることはできない。でも、触れれるほど近くによれば、その存在を認識できるようにしている。それは単純に、外からも中からも魔法障壁がそこに在ることを知らせるためだ。
外側の存在には、無駄だということを知らしめるため。内側の存在にはこの外は管轄外だと伝えるためだ。基本的には魔法障壁外はアレギスの制御範囲外だからだ。といってもライルズを球体のように魔法障壁で覆っているため、直接触れるためには空を飛ぶしかないのだが。
陸地ギリギリで外でこちらを見てくるドラゴンを無視しながら、準備を進めるヘイグとマリアを観察する。その装備は1級品で、簡単に手に入るものではない。
ヘイグは体を覆うような鎧ではなく、各所を守る肩鎧のようなものが節々につけているようだ。背おられた大剣はヘイグの身長とほぼ変わらなく、それ自体にずいぶんと重量がありそうだ。ヘイグとともにいる兵士部隊の面々も鍛えられた肉体をしており、戦闘スタイルは異なるようだがよく訓練されている。
マリアは鎧などはなく、シンプルなワンピースのような格好だ。魔力の伝導がいい素材を用い、また衣服や杖にも魔力を宿らせている。それは正しく彼女のためにつくりだされた特注品だろう。マリアと共にいる魔法部隊は学者のような者と魔法使いで分かれている。学者は本を何冊も肩に背負いながら、ドラゴンから視線をそらさない。魔法使いも戦闘に向けて連携を取っているようだった。
「10年前とは見違えるほど、強くなっているようだ。」
10年前にも魔法使いや街を守る兵士はいた。でもその殆どが志願してきたばかりの一般人の中から、適正のありそうなのを見繕った者ばかりだった。これほど成長しているなら、今後防衛が必要でもアレギスと協力して追い返すことができるだろう。
観察しているとヘイグとマリアが近寄ってくる。
「フェイ様、私達は問題ありませんわ。」
「おう、こっちもいいぜ。」
「では接触といこうか。対話が必要な際はお前たちが対応してくれ。問題があれば口をだすさ。」
二人が真剣な顔でうなずく。この街を守る、という気概が感じられる。その表情のまま、移動を開始した。
こちらを見てくるドラゴンたちも、私達の雰囲気を感じ取ったのか構えるような動きをする。まずはこの場から声を掛け、反応がなければ魔法部隊が広範囲の足場を作りだす。足場で移動しながら、ドラゴンと接触、場合によっては戦闘に移行する。
2人がライルズのギリギリで立ち、まずはヘイグがドラゴンに話しかける。
「俺らの島の周りでフヨフヨしてんのは、なんか用があんのか!?」
その大声は聞こえているようだが、ドラゴンが返事をする様子はない。まあ、声を出せるのかは謎だが。
続いてマリアが話しかける。マリアは魔力を載せて、大声をあげなくても聞こえるようにするようだ。
「用がないのならどこかに行ってくださる?要らぬ血は流したくないでしょう。」
そう言うと、マリアは魔力を練り、特大の氷塊を作り出す。詠唱はせず、ここまでの氷塊を作り出すことはそう簡単なことではない。
この魔法にドラゴンたちの動きが変わる。どこか周りを確かめるように周囲に視線を動かし始めたのだ。だが周囲に変わりはない。マリアがため息を吐く。
「…しょうがないでしょう、大地の作成を開始!戦闘の準備を!」
その声を合図に魔法使いたちが魔力を練り、ライルズから地面が広がっていく。どうやらアレギスも手伝っているようで、魔力に対して作られていく大地の量が多い。兵士たちも剣は抜いていないもののいつでも戦闘できるようにと神経を尖らせている。
あと数分もすれば障壁外に出る、というところで唐突にドラゴンたちが動きを見せる。今までは周囲に無作為に飛んでいたのに、場所をつくるように下がり上を見上げ始める。ふと暗くなり、私もドラゴンの見ている上空を見上げる。
「こいつあ…!」
突如目の前にどのドラゴンよりも一回りも大きいドラゴンが現れる。どうやらもっと上空にいたようで、暗くなったのはコレのせいで影ができたからのようだ。その体躯は銀色で、歴戦と行った雰囲気を醸し出す。巨大な爪に裂かれれば人間などあっという間に半分になっているだろう。
誰からかゴクリとツバを飲む音がする。なるほど、コレがこのドラゴンたちのボスのようだ。その瞳からは知性を感じ、強大な魔力も宿っているようだ。コレと戦っても負ける気はしないが、周囲のドラゴンたちはヘイグとマリアに任せたいところだ。それにここで戦えばライルズに影響がでそうだ。
思案していると、ヘイグが動き出す。
「てめえがボスか!ここに何の用だ!」
その言葉にドラゴンの目が細まる。どうやらこちらの言葉を理解しているようだ。
「この森は我の統べる地、竜の領地に立ち入っているのはお前たちだ。」
ドラゴンの口から流暢な言葉が出てくる。言語の違いがあるかと思ったが、その心配はないようだ。ドラゴンは話を続ける。
「お前たちが突如森の上空に現れた。大地が浮いている理由はわからんが、即刻立ち去るがいい。」
そう言うとドラゴンが威圧してくる。なるほど、これはヘイグとマリアでは厳しいかもしれない。2人をちらりと見るが、その表情に陰りは見られない。むしろ堂々とした佇まいだ。
「こっちだっていきなり囲まれて困ってんだ。出ていっていいならいいぜ、お前らがどけ!ライルズの飛行の邪魔だ!」
ヘイグはそう言うと、殺気を振りまき出す。その殺気に周囲を飛ぶドラゴンも戦闘態勢に入るようだが、その動きは遅い。ヘイグの言葉に目の前のドラゴンはわずかに目を瞠ると、くつくつと笑いだす。
「我にそのような口を聞けるとは。その島を吹き飛ばしてやってもいいんだぞ。」
「できるものならやってみなさい。できるものなら、ね。」
マリアが大胆不敵に笑う。どうやらこのドラゴン相手でも引く気はないようで、その姿は頼もしい限りだ。魔法部隊や兵士部隊の面々も逃げることはなく、戦いの意思を示している。
どうやらこのまま戦闘が始まってしまうらしい。私はどうしようか、彼らの対ボスドラゴンのサポートをしてもいいし、どうせなら邪魔されないように周囲の雑魚を排除してもいい。いや、ここは周囲の雑魚を排除することにしよう。彼らがこのボスドラゴンを倒せるのか、楽しめるだろう。
溢れ出る笑みを抑えきれず、異世界での初戦闘に心躍らせるのだった。




