地震
街のヒトへの挨拶が終わり、地上へ調査に向かうための準備を行っていた私はブランの作ったケーキを食べながら小休憩をしていた。昨日作っていたはずだったが、珍しく失敗してしまったということで改めて今日作り直したそうだ。街への知らせなど忙しかっただろうに、完璧主義なところは10年前と全く変わっていなかった。
「やはりお前のケーキは美味しいな、ブラン。ほどよい甘さとふわふわの食感…頬がとろけそうだ。」
「これからは仰っていただければすぐにお作りいたします。」
紅茶を入れてくれるブランに礼をいい、ケーキを味わう。私の体は食事をそれほど必要としないがブランのケーキは時折食べたくなってしまう。
半分ほど食べたところで、紅茶を飲み一息つく。地上に調査に行く前に、基本的な情勢や10年で変わった箇所はだいたいアレギスから知らされていた。ミリアーナがともに行くと言い張ったのは驚いたが、護身術は身につけているようだし、たまには複数で行動するのもいいだろう。
「ブラン、明日私とアレギスは地上の調査に行こうかと思うが、問題はあるか?」
「いえ、問題ありません。お供にミリアーナをお連れください。戦闘の心得は身につけさせております。」
「…それもお前が仕込んでるんだな…。」
「お戻りはいつになさるご予定でしょうか」
「明日中には戻ってくるよ」
目覚めてから初めての調査なので、まずは様子見といこう。地上の雰囲気を感じ取るだけでも面白いことがわかるかもしれない。残りのケーキに手を付けながら、明日への楽しみを考えるのだった。
「お嬢様、よろしいでしょうか?」
「ああ、入っていいぞ。」
翌朝、ミリアーナがドアをノックして入ってくる。朝早くから出ることを伝えていたため、私の準備に来たようだ。と言ってもミリアーナがやることは髪の毛のセットだ。目覚めてから朝の準備にミリアーナが手を貸してきたが、基本的なことは自分で行えるため、必要がない。髪も別に下ろしているだけで気にしていなかったが、ミリアーナにセットをさせてくれと頼まれてしまい、朝のルーティンとなっている。
髪をいじられるまま、鏡越しにミリアーナの姿を見ると、未だ侍女の服を着たままだった。
「ミリアーナ、服は着替えるのか?」
「いえ、このままお供させて頂きます。何をするにしてもこの服装のほうが動きやすいのです。」
「お前が構わないならいいが…。」
侍女をつれていると目立ちそうだと思ったが、もとよりは私は目立ちやすい見た目をしているようだから変わらないか。町に行くといつも視線が集まってしまうし。そんなことを考えていると髪のセットが終わったようだ。ポニーテールのように一つにまとまっている。いつの間につけたのか髪飾りもついており、揺れるたびにシャラシャラ音がする。
「申し訳ありません、お気に召しませんでしたら、外します。」
「いや、このままでいい。」
いつもは用意するのもつけるのも面倒なのでしないが、ものが嫌いな訳では無い。今日はこのままでいこう。頭を揺らすたびに鳴る音を聞いているとミリアーナが顔を覆って顔を背ける。かすかに見えるその耳は真っ赤に染まっている。
「なんだ?体調がわるいのか?」
「っいえ!大変可愛らしゅうございます!」
首をかしげながらいうと、顔をそむけたままミリアーナはいう。私は整った顔立ちをしているとは思うが、可愛いと言われるとそうでもないような。どちらかというと綺麗系だ。
そろそろ行こうかと立ち上がろうとした時__地面が揺れる。
「アレギス!」
「ますたー、周囲に敵対反応なし、よくわかんない!」
地面が揺れたままアレギスに声をかける。姿は見せないが、返答はあるものの、原因は不明。ここにいてもしょうがない。外に出て状況を確かめるしかない。
大きな揺れで倒れ込んだミリアーナに手を貸しながら怪我がないか確かめる。
「怪我は?」
「ありません。お嬢様は、」
「上空へ行き現況を確かめる。ブランと連携を取って被害状況を調べてくれ。ここまで大きい揺れだと建物が崩れていてもおかしくないだろう。」
「っはい!お嬢様も、お気をつけて。」
ミリアーナの言葉を最後まで聞かずに窓から飛び出し、そのまま浮遊魔法を使う。城の上空まで飛び、周囲の様子を確かめる。街では混乱が見られるものの、兵士部隊が救助や避難を呼びかけているようだ。おもったよりも早い動きに、この10年本当に遊んでいたわけではなさそうだ。
街は問題なさそうなので、ライルズの確認をする。ライルズは浮遊島。風で常時動いているものの、障壁魔法により強い風が吹き込んでくることはない。地面が揺れる、なんてことはありえないのだ。
「アレギス、ライルズの被害はあるか。」
「端っこが掛けた気がするけど、魔法諸々に今のところ問題ないです、ますたー。ただ地面が不安定になってる。山のほうがすこし崩れそうかもです。頭領に報告いきます。」
「ありがとうアレギス。」
ライルズの方はアレギスにまかせても問題なさそうだ。では私はこの揺れの原因を探ろうとしよう。目を閉じ、索敵の魔法をライルズの周囲に広げ、敵対反応を探る。半径10kmまで広げても、小さい魔物の集団やそれなりの個体はいるものの、全ては地上にいて原因とは思えない。
どういうことだ?突然障壁魔法を超えるほどの突風が吹くとは思えない。索敵魔法ではなにも見つけられないと目を開くと、ライルズの目の前に真っ黒い球体が現れる。私はコレを知っている!
「アレギス!全体に衝撃を備えるよう通達!身を守れ!」
「はいますたー!でも一体なにが…」
「特異点だ!連れて行かれるぞ!」
瞬きの間に大きくなる黒い球体、特異点。それはどこからともなく現れ、気がついたら何もなくなっている。持っていかれた物がどこに行ったのか誰もわからないソレは、世界の穴。広がり続けるその球体に、どこまで持っていこうとしているのかわからないが黙って持っていかれてやるものか。
ライルズに張ってある障壁魔法を極限まで強化。またその上からできる限りの障壁を張っていく。なくなっていく魔力を感じながら、特異点をにらみつける。
「私からライルズを奪えると思うなよ」
大きくなった特異点がライルズを飲み込み始める。ガリガリと轟音がなり、障壁に傷がついていく。特異点の大きさがライルズよりも小さいため、削り取ろうとしているのだ。消えそうな障壁に魔力を注ぎ、再度展開、一欠片たりとも渡すつもりはない。
何時間ともとれる攻防ののち、特異点が変形する。まるで液体のように障壁魔法に沿って包み始めたのだ。徐々に光が途絶え、暗くなっていく。削られる範囲が増え、魔力の消費も増えていくが止めるわけにはいかない。汗が落ちるのを感じる。
「ますたー、魔力が!」
「問題ない!このまま弾き飛ばしてやる…!」
特異点がこのライルズを包み込んだ瞬間、最大魔力を放出しまとわりつくナニかを弾き飛ばす。その時までゴリゴリと減っていく魔力に耐えるしかない。
何時間たったとも思えたその時。
「特異点ごときが私の邪魔をするなッ!」
闇に包まれ、一欠片の光も消えたその瞬間、障壁から風を吹き出すイメージで特異点を弾き飛ばす。残りの魔力をすべて使うと浮遊魔法も出せなくなるが、落ちても怪我をするぐらいだ。全ては今この気に食わない特異点を消すため。
ガリガリと魔法障壁を削っていた削っていた音から一瞬やみ、そして風の吹き荒れる轟音が鳴り響く。
「はは、ばーか」
かすれた笑い声を上げながら、吹き飛んで無くなった黒いナニかと、広がる青い空。上空から落ちながら、消えそうな意識をつなぎとめる。
かすかに上空に黒い点が見える。また特異点か、と眉を潜めなくなった魔力をねろうとすると、その点はどんどん大きくなり形が変わっていく。
「あれは…、ドラゴン?」
大空を飛ぶドラゴンを見る。かすかに聞こえるアレギスとヘイグの声に聞こえているぞ、と心のなかで答えながら目をとじる。
そういえば、ドラゴンってとっくに滅んでなかったか?




